パリ五輪目前! 準備が進んでいるのは会場よりも自転車レーン!?

いよいよ7月に開幕する2024年夏季オリンピック・パラリンピック。開催地パリの様子は今……自転車だらけ!? 五輪目前、パリの街なか改革の様子をご紹介。自転車はヨーロッパの“新定番”なのです!

コロナ禍を経て、サイクリングに脚光

オリンピック・パラリンピックの準備が着々と進むフランスの首都・パリ。多くの競技が街なかで行われる予定とあって、さぞかし街はてんやわんや……と思っていたら、それ以上に目をひく工事風景がある。そう、自転車レーンの整備だ。

コロナ禍を経て、フランスはサイクリングの促進に大きく舵を切った。コロナの流行当初、密を避けるために通勤・通学に自転車を使用する人が急増したことを受け、パリでは、車線をつぶし自転車専用レーンを造る措置が取られた。その総延長は約1000km。「コロナピスト」(ピストは自転車走路の意)という造語ができるほど、大きな社会現象となった。

かの有名なシャンゼリゼ大通りの自転車レーン。

この取り組みは“緊急事態の一時しのぎ”とはならず、次なる大きなプロジェクトへとつながった。それが2021年にパリ市で採択された「100%自転車で移動できる街」を目指す計画である。

この計画はざっくり言うと、2026年までに市内全域に自転車道を整備することを掲げたもの。突貫で造った「コロナピスト」の一部を常設レーンとして整えるほか、新たに180km自転車専用レーンを造るなど、なかなか野心的な試みだ。それまでも自転車促進政策はあったが、コロナ禍を経て一気にサイクリングカルチャーを定着させようという気概が感じられる。5年間の予算は2億5000万ユーロ(約410億円)というから、かなり本気だ。

レンタルサイクル基地もとても潤沢。

セーヌ川のほとりも散歩空間へ

そんな自転車改革の風景は、パリを歩くとそこかしこで見ることができる。例えば、オリンピックの開会式が行われる予定のセーヌ川のほとり。その一部では、車の通行を全面禁止に。以前は車道だった空間を、新たに自転車と人だけが通行できる散歩スポットへと変化させた。

セーヌ川と隣接する散歩道。
セーヌ川近くにあるパリ市庁舎。オリンピックモードになりつつある。

工事中のところもまだまだ多く、歩行者の通行が妨げられている部分もあるので散歩の際には要注意。自転車レーンは、建物をセットバック(後退)し道そのものを追加するといった手法ではなく、多くは既存の車線を侵食する形で新設されている。そのため、自動車の交通渋滞が悪化するなどの懸念もあるが、市民に言わせれば、以前より街なかの渋滞は減った気がする、とのこと。近隣住民の車から自転車へのシフトは、一車線をつぶしてなお余りあるほど、大胆に進んでいるようだ。

道端でしばしば遭遇する「自転車レーンを造っています」の案内板。

新たなレーンの設置方法はさまざま。車道と歩道の間に車の進行方向に合わせて一方通行のレーンを設けるタイプ(上記・シャンゼリゼ大通りバージョン)もあれば、自転車レーンが車道とは切り離されて、双方向的に自転車が通行するタイプもある(下記写真)。

独立した自転車レーンバージョン。

これらの異なるタイプによって、交差点の横断や信号のルールも使い分けている様子。道沿いにあるバス停・バスレーンとの棲み分けもけっこうな難題のようだ。「なるほど、こうやってつなげたか!」など、いろいろな発見があり、道をなぞって歩くだけでもなかなか楽しい。古くからの街並みに、新たな道を生み出す現代のインフラ整備ならではの苦悩と工夫が感じられる。

中には道を再設計するにあたり、車道をつくる際に被せたと思われるコンクリートが剥がされて、昔の石畳が見えたりなんていう、工事中の今ならではの特典(?)も。

大通りに自転車レーン準備中の図。石畳がチラリ。

ちなみに自転車のタイプもいろいろ。日常使いにもかかわらずスポーティーなものが比較的多く、前後ろにカゴが付いた、日本のママチャリみたいなものはあまりない。しかし一方では、ベビーカー一体型やチャイルドシート搭載型なども。これらは、以前は徒歩や車が当たり前だった子供との移動を自転車が引き受ける形で発展したものと思われる。こうした自転車の形態からパリっ子の生活スタイルに思いをはせてみるのも一興だ。

後ろにシートベルト付きのチャイルドシートが付いた自転車。

自転車はヨーロッパの新定番

こうした「自転車シフト」の動きは今、ヨーロッパ各地でみられる。自転車大国といえばオランダを思い浮かべる人が多いかもしれないが、他の国でもサイクリングは一般的になってきている印象だ。

例えばイギリスはロンドン。2012年に夏季五輪の開催地となったこの街もやはり、大イベントを控えた2010年に自転車という交通インフラの整備に力を入れる政策を打ち出した。五輪開催時の移動手段のひとつとすることも視野に、街なかにレンタルサイクルの“駅”を導入(マークも地下鉄やバスなどと同じ仕様)。専用レーンを新たに設けるなど、20年に及ぶビッグプロジェクトは2024年の今も、現在進行形だ。

鉄道のターミナル駅には日本を彷彿とさせる巨大駐輪場。自転車を鉄道の車内に持ち込むルールも整備が進む。

何もこれは、いわゆる先進国の都市部のトレンドというわけではない。

同じくイギリスでは、レジャーとしてサイクリングを楽しめるような田舎の風光明媚なルートも積極的に整備されている。また例えば、バルカン半島の小さな国・アルバニア。この首都ティラナでも同様に自転車レーンはかなり充実している。鉄道はほとんど整備されていない自動車・バスが移動の基本である国であっても、いやだからこそ、自転車は人々の足として注目されているのかもしれない。自転車は今、20世紀のモータリゼーションを経て、一周回って、ヨーロッパの新たな定番となりつつあるのだ。

ティラナの中心部。以前は路面電車が走っていたと思われる道の中央に設けられた自転車レーン。

環境のため、健康のため、交通費をおさえるため……。理由は人それぞれながら、パリだけでなくヨーロッパ中で自転車は熱視線を浴びている。

毎日都内のオフィスまで2時間かけて通っている人に、パリジャンに倣って自転車の利用を、とすすめるのはさすがに無理がある。しかし東京でもこの10年ほどでバイクシェアの環境は随分と整備されてきた。実際使ってみると、地下鉄を乗り降りするよりも案外早かったり、街の移ろいを感じられたりと、思っているよりもずっと便利で楽しかったりする。ちょっとしたタクシー移動の代替として、あるいは散歩のお供として、自分の生活に取り入れてみてはいかがだろうか。

そしてオリンピック・パラリンピック観戦の際は、画面に映った街なかの「自転車のある風景」チェックもお忘れなく!

文・撮影=町田紗季子
※写真は全て2024年4月撮影

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