旧優生保護法をめぐる裁判 最高裁判所が審理開始へ 被害を訴え続けてきた原告女性

障害がある人に不妊手術を強制していた、旧優生保護法をめぐる一連の裁判についてです。各地の地方裁判所や高等裁判所での判断が分かれる中、29日に最高裁判所での審理が始まります。長年被害を訴え続けてきた原告女性です。

仙台市に住む飯塚淳子さん(仮名・70代)は、16歳の時に旧優生保護法の下で軽度の知的障害を理由に不妊手術を強制されました。
飯塚淳子さん「国がやった問題だからきちんと国が責任を取ってもらいたい」

結婚生活を送っていたこともありましたが、不妊手術について打ち明けると夫は家を出て行ったといいます。
飯塚淳子さん「私らどんな思いで生きてきたのか。今も心の傷というのは何年たっても消えないので」

旧優生保護法は、終戦直後の1948年に施行された法律です。障害者を淘汰しようとする優生思想に基づいていて、知的障害や聴覚障害などがある人に不妊手術を強制しました。
手術を強制された人は1996年に法律が改正されるまでの間、全国で約2万5000人、宮城県は全国で2番目に多い1400人に上っています。

宮城県は全国2番目に多い

飯塚さんは法改正の翌年、1997年から手術の被害を訴え続けてきました。
飯塚淳子さん「やりたいことがたくさんあったんですが、もう人生もだいぶ通り過ぎてしまったのですごく悔しいです。私の人生を返してほしいと思っています」

厚生労働省や国会議員会館に通い被害の調査を依頼するも、当時は合法だったとして門前払いされます。
厚生労働省の担当者「個人的にはそれが事実とすれば大変お気の毒だと思います。合法下にやられていたということですから」
更に、宮城県が保管しているはずの飯塚さんの手術記録が破棄されていて、手術の事実が証明できず国を提訴するまでには至りませんでした。

2018年に事態が動きました。宮城県に住む佐藤路子さん(仮名)が飯塚さんの活動を報道で知り、義理の妹の由美さん(仮名)も手術を受けさせられたと弁護士に相談し、手術記録を見つけ出して訴えを起こしました。

佐藤路子さん(仮名)「(義妹が)手術したと聞いて、何のためにしなくちゃならなかったのかって私は40年間ずっと疑問に思ってた」
提訴を受けて県は手術記録が残っていない飯塚さんについても「手術を受けたことは認める」と表明し、ようやく飯塚さんも提訴へと踏み切ることができました。

山崎將記者「仙台地裁前では驚きの声が上がっています。裁判をやり直せという声も聞かれます」
原告の請求を退け国の賠償を認めない判決で、続く控訴審の仙台高裁でも同様の判決となりました。
飯塚淳子さん「何で裁判所はもっときちんとやってくれないのか、違法に行われた問題なのに何でこんなことをやってるのか、腹が立ちます」

裁判で問題となったのは、除斥期間と呼ばれる時の壁でした。除斥期間とは、不法行為から20年が経過すると損害賠償請求権が消滅してしまう民法の規定です。
飯塚さんが手術を受けたのは1963年ごろで、仙台地裁と仙台高裁は既に20年以上が経過していて、損害賠償請求の権利は消滅したと判断しました。

旧優生保護法の問題に詳しい憲法学者、同志社大学の御幸聖樹教授は救済の範囲を広げた判決が必要としています。
同志社大学御幸聖樹教授「違憲の疑いがある法律を国が作って偏見や差別を助長した面があり、訴訟提起を果たして被害者の方ができたのか。広い救済、創造的な解釈を最高裁がすべきではないか」

もう1つ大きな問題となっているのは、原告の高齢化です。原告のほとんどが70代以上で、全国で提訴した39人のうち2月までに6人が亡くなり宮城県でも60代女性1人が亡くなっています。

全国初の原告となった佐藤由美さんも、身体に不調を抱えています。義姉の路子さんによりますと、入院中に頭を打ち後遺症で会話ができなくなってしまったそうです。
佐藤路子さん「早く生きているうちに勝ったよかったという安心感、最後人生で嫌な思いなく良かったなど過ごされたらいいかなと」

判決は夏ごろ

29日、ようやく最高裁での審理が始まることになり判決は夏にも言い渡される見通しです。これをきっかけに障害者への差別や偏見が減ることを願っています。
佐藤路子さん「提訴した時も、義理の姉がお金だけ取ってどうするんだみたいなね。謝罪と補償も欲しいけど(最高裁の判決で)社会が変わってほしい」

飯塚さんは最高裁での意見陳述へ向けて、自らの思いをしたためていました。
飯塚淳子さん「優生手術は、私から幸せな結婚や子どもというささやかな夢を奪いました。早く全ての被害者が救われるような判決を出してくれることをお願いします。優生手術によってみんな不幸になっているので、きちんとした判断をしてもらいたい。いい判決であってほしい」

今回の審理の対象は仙台や札幌などの高裁で判決が出され、上告されていた5件です。仙台高裁以外の4件では国に賠償を命じる判決が言い渡されていて、最高裁がどのような判断をするのか注目されます。

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