重度障害 目が合わない息子が笑った 母親が絵本作家になったわけ 苦悩の子育てのなか見つけた使命

北海道石狩市を拠点に活動する絵本作家の女性。絵本を描き始めたきっかけは、重度の障害がある長男の存在でした。「息子に笑ってほしい」。彼女が作る「インクルーシブな絵本」とは?

夫・圭祐さん:「よいしょ。行くよ。おはよ。連れてくよ。重たくなって」。

庄司あいかさん:「ストップ、にぃに。ごはん、ごはんだよ。食べられるかな」。

石狩市に住む、庄司さん一家。12歳の長男・隼人さんには、重度の身体障害と知的障害があり、生活の全てに介助が必要です。生まれてからずっと、隼人さんの介護を続けてきた母親のあいかさん。お手伝いしてくれる長女は、10歳にして頼もしい存在です。

長女・陽菜ちゃん:「スマホ忘れてるー」。

2012年2月、3380gで生まれた隼人さん。あいかさんが異変に気付いたのは、生後3カ月の頃でした。

あいかさん:「(手が)突っ張った状態で、目もずっとこっちを向いたままピクッピクッと動いて。『隼人、隼人』って呼んでも、反応がないような状態が何度か起こるようになって」。

入院から1カ月、ついた病名は「結節性硬化症」。推計で6000人に1人が発症する、先天性の難病です。体の至るところに腫瘍ができ、多くの場合、てんかん発作や知的障害を伴います。隼人さんの発達年齢は、生後7カ月で止まったままです。

陽菜ちゃん:「いってきまーす」。

あいかさん:「(保育園まで)ちょっと走ってきます」。

次男・晴くん:「ばいばいー」。

あいかさん:「いってきまーす」。

実は、あいかさんが今のように隼人さんと接することができるようになったのは、数年前からだと言います。元々幼稚園の教師で、どんな子どももかわいいと思っていたあいかさんにとって、苦悩の日々が続きました。

あいかさん:「たぶん隼人が少しでも笑い返してくれたら、本当にかわいがられたと思うんですよね。でも、なぜか隼人は笑ってくれない子で。コミュニケーションが取れなくて。私はどんな子でも絶対かわいがれると思っていたんだけど、自分の子どもがかわいがることができなくて。本当に一生懸命だったんです。隼人の好きなことを探して。笑ってくれることを探して」。

あいかさん:「にいに、学校、学校行くよ。車で行くよ。行く人!?(ハイタッチ)よし、行こう」。

(特別支援学校へ)

あいかさん:「発達検査はいつも一定で、だいたい生後6~7カ月って出るんですけど、数字で表せない成長というか、認知が上がったというか。本当に目が合わない子だったが、最近は目が合うようになってきている。人に対しても少し興味が出てきて、本当に絵本を描き始めたタイミングと合うというか、偶然かもですけれど」。

転機が訪れたのは、次男が生まれ、少し落ち着いたころ。絵本作家になるという、幼い頃の夢を思い出し、描き始めたのです。

あいかさん:「時間がぽっかりと空いた時に、何か自分の好きなことをこれまで全然できてなかったなっていうのがあって、ちょっと自分のことを大事にしてみよう、自分の好きなことをしてみようって思ったんですね」。

気が付けば、隼人さんに贈る絵本を描き上げていました。タイトルは「ゆーらん、ゆーらん」。風船を持った女の子が旅をする、言葉のリズム感が心地良い物語です。

絵本を読み聞かせるあいかさん:「きらきらしゅーん、ゆーらんゆーらん、うわっほしさんありがと、ゆーらんしゅーん」。

(隼人さんが笑う)

あいかさん:「私がしたことに対して笑ってくれるっていうのは、もう本当に感動で。母としての心の傷が癒されていくというか、なんかやっと隼人と通じ合えたなみたいな感覚ありました」。

障害があってもなくても楽しめるインクルーシブな絵本を、多くの子どもたちに届けたい。あいかさんは去年4月、「絵本屋だっこ」というサイトを立ち上げ活動を本格化。売上金の一部で、障害児の施設に絵本を寄付しています。また、障害のある人や家族とコラボした絵本作りも始めました。

あいかさん:「少しでも収入にしていただきたいなという思いもありますし、絵本という形になることで、その方の次の活躍につながったらいいなと」。

すでに、5つのコラボ作品を出版しました。

夫・圭祐さん:「僕には絶対真似できないなって思いますし、他に同じような悩みとか、思いを持っている人たちの、ちょっとでも役に立ててるんだなっていうところですごく僕もうれしいですし、協力してあげたいなって」。

長女・陽菜ちゃん:「私のお兄ちゃんって見せたときに、『え、あ、あ…うん』って感じの反応がちょっと嫌だなって思ったことは何回かあります。もう悪口を言われてほしくないって思ったので、お母さん活動にはすごい素敵な活動だなって思ってます」。

あいかさんの活動に賛同する仲間もできました。この日集まっていたのは「絵本屋だっこ」のサポートメンバー。2人とも障害児を育てる母親です。「絵本屋だっこ」では、育児に悩む親を対象にオンラインや電話相談も受け付けていて、2人は相談員として働いています。

サポートメンバー・山西明美さん:「(Q.仕事できない障害児の親は多い?)多い、多い。やっぱり(子どもから)離れることができない」。

サポートメンバーは全国に33人。「絵本屋だっこ」を通じて、親同士の輪が広がっています。

サポートメンバー・平井春香さん:「ずっと家にいるとストレスがたまっていたのを、『絵本屋だっこ』の皆さんとLINEとかでもやり取りをするのが息抜きというか、気持ちがそこのやり取りに参加するだけでちょっと楽しいというか」。

障害があっても生きいやすい社会に。つらい過去を乗り越えた自分だからこそ、できることがあると信じています。

あいかさん:「絵本を通じて障害への理解を広めていくみたいなところが、隼人が与えてくれた私の使命だと思っていて、なので本を知ってもらう活動をしていきたい」。

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