三菱重工浦和レッズレディースが、アジアの頂点に立った。AFC女子クラブ選手権で、優勝したのだ。さらに、その2日後、WEリーグで連覇を果たした。2つのタイトルを獲得した浦和Lの知られざる「激闘の裏側」と、「クラブの未来」について、サッカージャーナリスト後藤健生が熱く語った。
■浦和Lが「2つのタイトル」を獲得
三菱重工浦和レッズレディースが、相次いで女子サッカーの2つのタイトルを獲得した。
5月10日金曜日に行われたAFC女子クラブ選手権決勝で韓国の仁川(インチョン)現代製鉄FCに勝利して、まずアジアのタイトルを獲得。この大会の関係で、浦和は週末にはゲームがなかったが(第20節のアルビレックス新潟レディース戦は、すでに3月に前倒しで実施)、12日の日曜日に2位につけていたINAC神戸レオネッサが8位のジェフ千葉レディースに敗れる波乱があったため、浦和のWEリーグ2連覇が決まったのだ。
仁川と対戦したアジアクラブ選手権決勝は、スコアこそ2対1と僅差だったものの、内容的には浦和の完勝だった。
この日の浦和は、日本代表DFの高橋はなが負傷明けでベンチスタート。代わりにCBとして長嶋玲奈が入ったが、長嶋も久しぶりのプレーということでゲーム勘が失われていたのだろう。前半13分に仁川のウィングバック、チュ・ヒョジュにボールを奪われ、このボールをイ・ソヒがボックス外から決めて仁川が先制した。
しかし、内容的にはキックオフ直後から完全に浦和がゲームを支配していた。とくに中盤での守備力では浦和が大きく上回り、高い位置で相手のパスをカットし、多くのチャンスを作っていた。従って、不用意な失点をしても、まったく慌てることなく、浦和は冷静に反撃を開始した。
■まさかの失点から「10分以内」で同点に
奪ったボールをサイドに散らして展開。とくに絶好調のサイドハーフ清家貴子とサイドバックの遠藤優が組んだ右サイドは強力だった。
仁川側も、浦和のサイドアタックを警戒して通常のフォーバックではなく、スリーバック(3-4-3)でスタートしていたものの、浦和のサイド攻撃の前に劣勢となり、28分には早くも浦和の右サイドを監視するウィングバックを交代せざるを得なくなった。
そして、23分、栗島朱理からボールを受けた伊藤美紀がゴール前にフワリと上げ、そのボールがバウンドしようとした瞬間、走り込んだ清家が豪快にボレーシュートを決めて、まさかの失点から10分以内に同点とすることに成功した。
さらに、26分には右CKからのボールをCFで起用された島田芽依が頭で合わせて、アッという間に浦和が逆転してしまった。
そして、浦和は後半からはDFの高橋をピッチに送り出して、そのまま危なげなく逃げ切った。むしろ追加点が取れなかったことが反省材料となる試合だった。
仁川は、韓国の女子リーグ「WKリーグ」で10連覇を成し遂げた、韓国女子サッカー界の「絶対女王」だ。浦和もWEリーグ2連覇を目前にしていたわけで、まさに日韓両国の女子サッカーを代表する最強チーム同士の顔合わせだった。
仁川には負傷者も多く、アウェーでの不利もあったのは事実だが、チーム力として浦和が上回っているのは明らか。
そのことは、仁川の女性監督キム・ウンスクも素直に認めており、だからこそ、なんとか前半はスコアレスで折り返そうと考えてスリーバックを選択したのだ。
浦和は先ほども述べたように清家と遠藤の右サイドからの攻撃も強力だったが、なんといっても中盤での守備能力が高く、仁川にほとんど決定機を作らせなかった。
アプローチが早く、ボールを持っている仁川の選手たちを、赤のユニフォームの選手たちが瞬く間に囲ってボールを奪い切って、スムーズに攻撃につなげた。フィニッシュの段階でもう少し落ち着きがあれば、3点目、4点目が取れた試合だった。
■連戦の疲れか「非常に重い」I神戸の動き
アジア制覇の翌々日、INAC神戸レオネッサが敗れたことで、試合のなかった浦和のWEリーグ2連覇もあっさりと決まった。
千葉戦のI神戸はシュート数(20対7)やCK数(10対4)など、あらゆる数字で千葉を上回り、前半など千葉にはほとんどチャンスらしいチャンスを作らせなかった。
しかし、前半終了間際にスローインからのこぼれ球を大澤春花に押し込まれ、後半、高瀬愛美のPKで追いついたものの、85分に千葉の鴨川実歩にミドルシュートをたたき込まれてタイトルを逃してしまった。
審判の判定など不運もあったが、多くのチャンスを作りながら得点できなかったのはI神戸側の問題。連戦の疲れのせいなのか、「タイトル争いのために負けてはいけない」というプレッシャーのせいなのか、I神戸の動きは全体に非常に重そうだった。
その点、浦和はシーズンを通じて好不調の波が小さく、安定して戦っていた。それが、第20節を終えた段階で17勝2分1敗という成績につながった。