大規模な太陽フレアが連続して発生 世界各地で低緯度オーロラを観測

太陽の活動は約11年周期で変化することが知られており、現在は2019年12月に始まった第25活動周期の極大期に差し掛かりつつあるとみられています。そんな太陽で2024年5月8日(日本時間・以下特記なき限り同様)以降、大規模な太陽フレア(太陽の表面で起こる爆発現象)が連続で発生しました。一連の太陽フレアによる影響で、地球では各地で低緯度オーロラが観測されています。【最終更新:2024年5月14日11時台】

■Xクラスのフレアが72時間に7回発生

【▲ アメリカ航空宇宙局(NASA)の太陽観測衛星「ソーラー・ダイナミクス・オブザーバトリー(SDO)」がX5.8の太陽フレア発生直後の世界時2024年5月11日1時25分に撮影した太陽。フレアは右下の明るい輝きを放つ活動領域で発生した(Credit: NASA/SDO)】

情報通信研究機構(NICT)の宇宙天気予報センターによると、2024年5月8日から13日にかけて、太陽表面の2つの活動領域(黒点周囲の活発な現象が起こる領域)でXクラスの大規模な太陽フレアが合計9回発生しました。最大規模は5月11日10時23分に発生したX5.8で、このフレアが発生するまでの72時間だけでもXクラスのフレアが7回観測されています。同センターによると、アメリカの気象衛星シリーズ「GOES(ゴーズ)」による観測が始まって以来、Xクラス以上のフレアが72時間以内に7回発生したのは今回が初めてです。

【▲ アメリカの気象衛星「GOES(ゴーズ)」が観測した太陽のX線強度。Xクラス以上を記録した9つの太陽フレアには規模を示す注釈が添えられている(Credit: データ: NOAA/SWPC, 作成: NICT)】

太陽フレアはX線や紫外線といった電磁波だけでなくコロナ質量放出(CME)と呼ばれるガスの放出を伴う現象で、地球の電離圏や地磁気を乱して通信・放送衛星の障害、GPSの測位誤差増大、短波通信の障害といった影響を生じさせる可能性があります。宇宙天気予報センターによると、日本国内では2024年5月8日から12日にかけてデリンジャー現象(短波帯の通信障害)が発生しました。特に5月11日10時~13時の時間帯は強く発生したことから、短波帯の通信途絶が発生した可能性が高いとされています。

【▲ 鹿児島県と沖縄県に設置されたイオノゾンデ(電離圏の様子を電波で観測する装置)による電離圏の観測データを示した図。電離圏から戻ってきた反射エコーのうち、デリンジャー現象発生前(左)の白丸で示されている部分はデリンジャー現象発生中(右)には消失している。また、デリンジャー現象発生中に戻ってきたエコーも信号強度が弱くなっている(Credit: NICT)】

また、茨城県石岡市柿岡の気象庁地磁気観測所(柿岡観測点)では、5月11日に磁気嵐(地球規模で起こる地磁気の乱れ)の発生が観測されました。地磁気の活動度を示す指数の1つに、1日を8つの区間(3時間ごと)に分割した上で、各区間の活動度を0~9の10段階で示す「K指数」というものがあります。今回の磁気嵐ではK指数「8」を4回記録しました。宇宙天気予報センターによると、地磁気観測所(柿岡)でK指数「8」が観測されたのは2005年8月以来およそ19年ぶりです。

【▲ 気象庁地磁気観測所(柿岡)におけるK指数を示した図。K指数「8」に到達した区間が4つあることがわかる(Credit: データ: 気象庁地磁気観測所, 作成: NICT)】

この他にも今回の太陽活動に関連して、放出されたコロナガスの地球到来による太陽風の速度上昇(観測された最大値は毎秒約1000km)と磁場強度上昇(同72nT)、静止軌道での高エネルギープロトン(陽子)の増大、電離圏嵐(電離圏の電子密度が大きく増減する現象)などが観測されています。

なお、太陽フレアの規模はピーク時のX線強度に従って強いほうから順にX・M・C・B・Aと定められていて、前後のクラスとは10倍の差があります。太陽では過去にも大規模なフレアが発生しており、1859年9月に発生して当時の欧米の電信網に被害をもたらした通称「キャリントン・イベント」を引き起こしたフレアの規模は、X45とも推定されるほど大規模だったとみられています。

■日本をはじめ世界各地で低緯度オーロラが観測

今回の太陽活動の影響によって、世界各地で低緯度オーロラが観測されました。オーロラは太陽から地球へと飛来した高エネルギーの荷電粒子が大気中の分子と衝突することで発生します。通常は極地周辺の高緯度で観測されますが、激しい磁気嵐が起きた時にはもっと低い緯度でも観測されることがあります。低緯度オーロラとはそのようなオーロラを指します。

【▲ アメリカ・アイダホ州のマラド・シティ近郊で現地時間2024年5月11日に撮影された低緯度オーロラ(Credit: NASA/Bill Dunford)】

こちらはアメリカ航空宇宙局(NASA)が紹介した低緯度オーロラの画像です。NASAによると、アメリカ・アイダホ州のマラド・シティ(北緯約42度)近郊で2024年5月11日(現地時間)に撮影されました。緑色から紫色へとグラデーションがかかったような色合いのオーロラには縦方向の筋状の構造がみられます。

【▲ なよろ市立天文台 きたすばるで撮影された低緯度オーロラ(動画)】
(Credit: なよろ市立天文台 きたすばる/渡辺文健)

いっぽう、こちらは北海道名寄市(北緯約44度)の「なよろ市立天文台 きたすばる」で2024年5月11日夜に撮影された低緯度オーロラのタイムラプスです。日本国内でも比較的高緯度に位置する同天文台では、これまでにも低緯度オーロラが度々撮影されています。

【▲ マウナケア山頂の「すばる望遠鏡」全天カメラで撮影された低緯度オーロラ(動画)】
(Credit: 国立天文台)

また、こちらはアメリカ・ハワイ州のマウナケア山頂にある国立天文台ハワイ観測所「すばる望遠鏡」の全天カメラで2024年5月11日(世界時)に撮影された低緯度オーロラの様子です。動画右上の地平線付近にうっすらと赤い光が写っているのがわかります。

国立天文台と朝日新聞がマウナケア山で運用している「星空ライブカメラ」のハワイ側管理人を務める国立天文台ハワイ観測所の田中壱さんによると、マウナケア山は北緯約20度という低緯度にありながら、前述のキャリントン・イベントにともなう低緯度オーロラの観測記録が残されているといいます。それから164年余りが経って撮影された今回の低緯度オーロラは、当時ハワイで観測された現象がオーロラだった可能性を支持するものとなりました。

この他にも、SNSでは日本国内や欧米など各地で撮影されたオーロラの画像が数多く投稿されています。

【▲ アメリカ・アリゾナ州のキットピーク国立天文台がXにポストした低緯度オーロラの動画と画像】

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文・編集/sorae編集部

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