連載『lit!』第101回:いよわ、r-906、Chinozo、サツキ…『ニコニコ超会議2024』で注目を集めたボカロ曲4選

VOCALOIDという音楽ジャンルとは切っても切り離せない動画配信プラットフォーム・ニコニコ動画。そのサイト内で支持を得るカルチャー/ジャンルが一堂に会し、「ネット発!みんなで作る日本最大級の文化祭」をコンセプトとして毎年開催されているのが、『ニコニコ超会議』という大型イベントである。

今年も同イベントが幕張メッセ国際展示場にて、GW初日の4月27、28日に行われた。様々な創作コンテンツが会場のにぎわいに華を添える中、もちろんVOCALOIDシーンも多彩な催しで大きく盛り上がりを見せたことは言わずもがな。

特に大勢の人でにぎわったのは、「クリエイタークロス」や「THE VOC@LOiD 超 M@STER」を始めとした音源即売会だ。この日に合わせ新作を公開/頒布したボカロPやそれを楽しみにしていたリスナーも多く、元来アマチュア・同人文化をはしりとするカルチャーの一端を覗き見ることのできる、そんな一幕ともなっていた。

今回はそんな『ニコニコ超会議2024』での出展に伴い、直近でリリースされた注目の楽曲をいくつかピックアップ。VOCALOIDや音楽という枠に留まらず、“創作”そのものを楽しむ。作り手の衝動やクリエイティブ欲が漲る、そんな彩り豊かな楽曲群を紹介したい。

■いよわ「クリエイトがある」

近年シーンでは楽曲制作のみならず、動画公開に伴う映像制作やイラストまですべて一人で手がけてしまう、多才なクリエイターの存在も多く散見される。その筆頭のボカロP・いよわが『ニコニコ超会議2024』当日に投稿した「クリエイトがある」は、まさに音楽やVOCALOIDといった枠を飛び出した、非常に彼らしいキッチュでアバンギャルドな“創作讃歌”だ。

イベント当日も「楽曲制作をすべて自分一人で手がけるボカロP」を招集したヒロモト ヒライシン主催のコンピレーションアルバム『全部俺 創刊号』に同曲を提供したり、ボカロ音楽オンリーステージ「超ボカニコ」へのDJ出演など、アグレッシブに活動。6月26日には3rdアルバム『映画、陽だまり、卒業式』もリリース予定となっており、その動向には依然多くの注目が集まっている。

■r-906「あなたしか見えないの」

自身の楽曲「Catchy !?」をインスピレーション元とする多重人格者な少女の物語を、アルバムと小説の2形態で紡いだr-906。当該イベントで先行販売されたこの2作品より、1stコンピレーションアルバム『会話記録』のリードトラックとして公開されたのが本曲となる。

今回は複数の創作形態を跨ぎ、物語に触れるリスナーないしは読者が様々な考察を楽しめる、重層的なコンテンツ制作という初の試みに挑戦。楽曲や小説単体の面白さのみならず、それらを組み合わせた謎解き要素の提示。加えて映像・楽曲制作に際して活用した素材も、現在無料配布を実施している。受け手のみならず作り手も巻き込み、大勢に主体的なクリエイティブの潮流を促すような、そんな気概も本コンテンツからは感じ取ることができるだろう。

■Chinozo「フリソデ」

「グッバイ宣言」によるYouTube初のVOCALOID曲1億再生突破をはじめ、ボカロ人気拡大に貢献したChinozoも、先日の『ニコニコ超会議2024』に姿を見せた。この日は4月24日リリースの2ndアルバム『The Hollows』を頒布。本アルバム収録の同曲ではこれまでも度々楽曲制作へ起用し、つい先日発売から10周年というアニバーサリーを迎えたv flowerが歌唱。キャッチーなサウンドに織り込まれた絶妙なフックのあるビート感も耳馴染み良く、Chinozo節を存分に楽しめるナンバーに仕上がっている。

直近でも、楽曲メディアミックスとなる文庫小説『グッバイ宣言』シリーズが40万部を突破。また今やお馴染みのタッグとなるイラストレーター・アルセチカの企画・numbeeerにも楽曲「2036」を提供したりと、話題に事欠かない精力的な活動を続けている。

■サツキ「メズマライザー」

『ニコニコ超会議2024』と前後して、今シーンで最もホットな曲として話題を集めるのが「メズマライザー」だ。イベントでは本曲も収録のアルバム『Circus‘s Detail』が頒布され、大勢のリスナーが作品を手に取っていた模様。楽曲はニコニコ動画のみならずYouTubeでも驚異の速度で数字を伸ばし、投稿から2週間経たずに1000万再生を突破した。

完成度の高い鉄壁のサウンドもさることながら、本作を語る上ではやはり約65万人のXフォロワーを抱えるイラストレーター・channelによる映像の話も欠かせない。ポップなデフォルメの可愛らしいキャラクターが不穏なムードを漂わせるMV。これにまつわるリスナーの考察や二次創作が盛んな点もムーブメントの一因となる。今後の動向も要注目の最新曲だ。

(文=曽我美なつめ)

© 株式会社blueprint