「未練はまったくない」宇野昌磨が恩師ランビエールだけに明かした引き際「よく頑張った。素晴らしいことを成し遂げた」

一片の曇りない、実に晴れやかな会見だった。

2018年平昌、22年北京五輪で2大会連続のメダリストとなり、日本男子フィギュア初の世界選手権2連覇を果たした宇野昌磨が5月14日、都内で引退会見を開いた。今後はアイスショーを中心に、プロスケーターとして活動していくことを表明。新たなステージで、第2のスケート人生を歩むことを誓った。

宇野は黒いスーツ姿で登壇し、自然体な口調で引退への想いを口にした。会見の冒頭で周囲への感謝を述べると、「プロとしてスケートを続けることに変わりはないので、これからも宜しくお願い致します」と語り、「引退というのは悲しいのではなく、前向きに。前向きな気持ちで、これからもスケートを続けていくという意味でも、全然悲しい気持ちではない」と率直な心境を明かした。

その一方で、やはり気になったのが「現役引退」の決断を下した時期だ。宇野はそのことについて問われると、「考え始めたのは2年前ぐらい」と素直に告白した。

ただし、「引退する姿が(自分でも)想像できない中で全力でスケートを取り組んでいた」と振り返り、現役を続けるか否か葛藤の日々を過ごしていたという。長く日本男子フィギュアを牽引してきた羽生結弦が北京五輪後にプロ転向を表明し、同五輪金メダリストのネイサン・チェン(米国)までも休養。「僕にとっては本当に雲の上の存在」と、いま現在も羨望の眼差しを送る五輪王者2人が競技の場から離れ、「ずっとともに戦ってきた仲間たちの引退を聞いて、すごく寂しい気持ちと、取り残されてしまったという気持ちがあった」と、当時の複雑な揺れる心境を吐露した。
目の前の練習、試合を一つひとつ全力で取り組むなか、ついにその時を迎える。昨年12月、6度目の優勝を飾った全日本選手権後に、コーチのステファン・ランビエール氏に「次の大会(今年3月の世界選手権)で現役を引退しようと思う」と、思いの丈を伝えた。

2年後にはミラノ・コルティナダンペッツォ五輪が控えている。いまだ世界トップを争える余力を十分に残しながら、五輪への未練はないのか。その質問にも、「未練は正直まったくないです」とキッパリ言い切った。その理由を、まるでスケートを始めたばかりの少年のような表情で彼は答えた。

「これからまた自由にスケートやれることの嬉しさとともに、本当に昔の映像とか振り返ってみても、よく頑張った。ここまで毎日同じことを磨き上げれるのは自分のことなので、あまり褒めちぎりたくはないんですけれども、本当に素晴らしいことを成し遂げることができたと思っています」

今後はプロスケーターとして自分が作る世界、唯一無二の表現者として宇野昌磨のカラーを存分に出していく。ここでも「全力を出したい」と、競技会と変わらない強い意気込みを示す。「日々楽しいって思えるプログラムを作って、自分の感情が出てくるようなプログラムを見せたいし、お披露目したい。そういった先にやりたい気持ちから表れる素晴らしいプログラムが作れるんじゃないかな」とキラキラした目で話す姿は、氷上アーティストの姿を垣間見せていた。

取材・文●湯川泰佑輝(THE DIGEST編集部)

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