中村時蔵、萬壽襲名前にあいさつ回りでバタバタ 毎晩名簿を見て「どこか漏れてるんじゃないか」

取材会に出席した中村梅枝、小川大晴、中村時蔵(左から)

代々60歳違いの祖父と孫 92歳でひ孫が生まれたら「安心していける」

歌舞伎俳優の中村時蔵、中村梅枝、小川大晴(ひろはる)が13日、東京・中央区の歌舞伎座稽古場で行われた歌舞伎座『六月大歌舞伎』の合同取材会に出席した。

この六月大歌舞伎で、時蔵が初代中村萬壽(まんじゅ)を、時蔵の長男・梅枝が六代目中村時蔵を襲名する。また梅枝の長男で8歳の大晴が五代目中村梅枝として初舞台を踏む。時蔵は萬壽襲名披露狂言として夜の部『山姥』に山姥役で出演。孫の大晴も同演目で怪童丸(後の坂田金時)を演じる。梅枝は時蔵襲名披露狂言として、昼の部『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)三笠山御殿』で大役・お三輪を演じる。

4月に69歳となった時蔵は、初舞台から芸歴64年の女形。昭和56年から時蔵を名乗り、43年続いてきた。2023年9月には国立劇場で女形最高峰の難役『妹背山婦女庭訓』の太宰後室定高(だざいこうしつさだか)を初役で勤めた。また、国立劇場養成所の主任講師として、後進の育成にも熱心に取り組んでいる。今回、息子の梅枝に時蔵を引き継ぎ、自身は萬壽を名乗る。

襲名に向けて準備している時蔵は、「そろそろ6月の興行が迫ってまいりまして、まだまだやらなきゃいけないことも多々あると思いながら、バタバタといたしております」と忙しさを語り、「6月の初日が開く頃にはお稽古もすませて、素晴らしい舞台をご覧にいただけるように努力している次第でございます」と語った。梅枝は、「梅枝という名前でいられる時間も残りわずかとなりました。これまで皆さん、『ばいちゃん、ばいちゃん』と呼んでくださっていたのですが、『ばいちゃん』と呼ばれなくなるのかと思うと、とっても名残惜しい」と本音も。「新しい六代目時蔵として、自分に何ができるのか、どれだけ歌舞伎に貢献できるかということを考えながら、日々過ごしていこうと思っています」と語った。

襲名にあたって役者仲間やお客様へのあいさつ回りをしているという時蔵は、「『まだまだやり残していることがあるのでは』と不安にかられております」と告白。「『あそこに行かなきゃいけなかったんじゃないか』『どこか漏れてるんじゃないか』と、毎晩、家に帰って名簿を見て、『ここは行かなきゃいけない』など、毎日のように考えています」と明かした。

梅枝は、取材会の2日前に六月大歌舞伎の台本が届いたと語り、「その台本の宛名が、『中村時蔵さまへ』となっておりましたので、『あぁ、そうか、次の公演から台本は中村時蔵なんだな』と実感しました」としみじみ。「皆さんから、『時蔵になったらなんて呼んだらいいの?』と聞かれる。それも日々実感しております」と語った。

すると時蔵も、「『いつから萬壽になるんですか?』ってよく聞かれる」と告白。「通常ですと芝居の前は、『顔寄席手打ち式』というのがあるんです。昔は顔寄席で配役が発表されて、そこで台本を渡され、手を締める。手を締めたら、もう文句をいってはいけない。本来ならその顔寄席手打ち式で、『今回、時蔵さんが萬壽になります』など披露があるんです」と説明した。しかしコロナ禍で顔寄席手打ちがなくなったという。「本来ならば、その顔寄席から名前が変わると思っています。ですから、六月大歌舞伎の稽古の初日ですね。(歌舞伎座で現在公演中の『團菊祭五月大歌舞』の)千秋楽が5月26日で、27日から(六月大歌舞伎の)稽古が始まるので、26日と27日が名前が変わる境目です」と語った。

萬壽という名前は、時蔵自身が新たに考案したもの。萬壽は平安時代の元号で、年と日付を表す十干十二支(じっかんじゅうにし)で60年目に一巡する干支の組み合わせの1番目「十干十二支の甲子(きのえね)」にあたる。時蔵と孫の大晴が60歳違いで同じ干支、時蔵と祖父・三代目時蔵も60歳違いで同じ干支、時蔵の父・四代目時蔵と息子の梅枝も60歳違いで同じ干支、ということで、「60歳の時にできた孫が、その後の時蔵を継ぐ」という流れがあることから、十干十二支に思い入れがあるという。

時蔵は、「わたくしが92歳の時に、梅枝が60歳なので、その時に大晴に男の子が生まれたら、また時蔵が続くということ。それを見たらわたくしは安心して(あの世に)行けるな」と会場を笑わせた。ENCOUNT編集部

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