宇野昌磨の原点は小学生時代の〝涙のジャンプ特訓〟 鈴木明子氏が見ていた「挑戦し続ける姿勢」

贈呈された花束を手に笑顔を見せる宇野昌磨

最後まで芯はブレなかった。フィギュアスケートの元世界王者・宇野昌磨(26=トヨタ自動車)が14日、都内で引退会見を行い「まさか僕がこういう選手になれると思っていなかった」と約21年の現役生活を振り返った。五輪で3個のメダルを獲得し、世界選手権も2度制したスケーターの〝すごさ〟はどこにあったのか。宇野を幼少期から知る五輪2大会出場のプロスケーター・鈴木明子氏(39)が、その原点にある〝涙のジャンプ特訓〟を明かした。

長きにわたって世界の第一線で活躍した宇野は「未練は正直全くない。自分のことなのであまり褒めたくないが、本当にすばらしいことを成し遂げることができた」と晴れやかな表情を浮かべた。

ジュニア時代から数々の実績を残した一方で、中学1年から練習を始めたトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)の習得には約4年の月日を費やした。鈴木氏は「私が初めて宇野選手を知った小学生の時は『小さくてかわいい子がいるな』というイメージだったが、本当に記憶に残っている当時の姿は、ずっと泣きながらジャンプを跳んでいる姿だった。あれこそが宇野選手の原点だと思う。跳べるようになるまで、何度も何度も挑戦し続けた姿が印象的だった」。苦しい時間を過ごしながらも、地道に鍛錬を積んでいたという。

そんな姿勢は高校生でシニアに転向しても変わらなかった。鈴木氏は「宇野選手は演技前に、他の選手の演技を普通に見てから演技できるところが私にとってはすごく不思議だった」と回想。「『勝たなきゃ』とか『こうしなきゃ』とか(思いが)出てくるはずなのに、本当に『積み重ねてきたものがどこまで本番に出せるか』に集中している選手はなかなかいない。初出場の2018年平昌五輪もいつもどおりやり遂げて銀メダルを獲得した。同じアスリートでありながら、こんなふうに競技に取り組める選手もいるんだなと感じた」と目を丸くした。

今季の宇野は「自己満足」をテーマに掲げ、自らが納得できる演技を模索してきた。これからは競技者の枠にとらわれず、より自身の演技に集中できる環境が整う。鈴木氏は「まだまだいろんな表現が見られるのを期待している。無限の可能性にあふれているので、宇野選手が好きなゲームとかも含めて、やりたいことをやってほしいし、今までの宇野選手の思いが、どういうふうに表現されるのか楽しみ」とエールを送った。

宇野は今後もプロスケーターとしてスケートに向き合う。「毎日の練習が楽しくなるような、自分が心から踊るようなスケートをしていきたい。何をやるにしても自分で選べるので、自分の生き方にもマッチしている」と新たな人生も充実させていくつもりだ。

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