渋谷の空中庭園“新・宮下公園”が若者・家族連れ・外国人観光客…大混雑中 “雑多”がもたらす「安心感」

※画像は「MIYASHITA PARK」の公式インスタグラムアカウント『@miyashitapark_』より

東京・渋谷駅からほど近い『MIYASHITA PARK(ミヤシタパーク)』。PRADAやGUCCIといった高級ブランドも軒を連ねる商業施設がオープンしたのは2020年7月末のこと。それからおよそ4年。もともと、渋谷区立宮下公園の名前で、その場所にあった区民憩いのスペースは3層にわたる同商業施設の屋上に移設され、“空中庭園”として生まれ変わるや、大賑わいとなっている。

屋上にできた公園ということもあって、完成当初はいったいどれだけの人がわざわざ足を運ぶのか、と懐疑的な視線を浴びせられたこともあった。しかし、晴天の休日ともなれば、自由にくつろげる芝生エリアは、来園者でギュウギュウ詰めに。超混雑の背景には、徹底的に練り込まれた動線はもちろんのこと、“無料でくつろげる”場所を求める人たちの存在もありそうだ。弊サイトは、サステナブル都市計画家で横浜国立大学客員教授の山崎満広氏に、『MIYASHITA PARK』の3階部分に新たにできた“新・宮下公園”に、人が集まる理由について話を聞いた。

その前にまず、渋谷区民が宮下公園の変貌ぶりを口にする。

「以前の宮下公園は、薄暗くホームレスの寝床にもなっていて、1人で歩くのは少し気が引けるエリアでもありました。再開発によって公園部分は3階建ての施設の屋上に移るとなると当然、新たな公園部分へとは行きにくくなる。どういう人が行くのかなと思って見ていましたね。

それが開園すると、高校生や大学生のような若者からベビーカーを押しているような家族連れ、ビジネスマン、外国人観光客など、幅広い世代のさまざまな人たちが集まるように。公園が屋上にあるので抜け感もある。よく見える渋谷の街をバックに写真や動画を撮影する人も多いですね」

新・宮下公園がある『MIYASHITA PARK』は山手線の線路と明治通りに挟まれた、南北の長さ330m、幅35mほどの細長いスペースでありながら、面積自体は約1万740平方メートルとかなり広い。

公園部分の中央には事務所やトイレなどがある『パークセンター』があり、駅に近い南側はスケートボードやインラインスケートができるスケート場、ボルダリングウォールなどのスポーツエリアだ。北側には1000平方メートルに及ぶ芝生エリアも広がる。

■「渋谷駅周辺に人が集まる場所がない」コロナ禍以降に起きた変化

そんな渋谷の新・宮下公園に、なぜ今、人々は集まるのか。サステナブル都市計画家で横浜国立大学客員教授の山崎氏は第一に、コロナ禍以降の人々のライフスタイルの変化で、“そもそも日中、渋谷に集まる人が増えている”ことを挙げる。

「オンライン授業やリモートワークが当たり前となり、学生も会社員も“場所”に100%束縛されなくなりました。つまり日中の時間、街中にいる人の絶対数がこれまでよりも多いんです。そのうえ、渋谷というのは原宿や表参道といったトレンドエリアから徒歩圏内だし、電車のアクセスも良い。そこにできた新しい商業施設の上にある公園となれば、行ってみたくもなるものです。

さらに、ここのところ円安の追い風もあり、訪日外国人はどんどん増えています。すでに日本訪問は2度目、3度目という人も多く、そうした人たちは浅草寺や東京タワーのような“THE観光名所”はすでに行ったからと、今度は都市にあるスポットに興味をもつんですね。コロナ禍を経たライフスタイルと訪日外国人で、総じて日中の人口が多くなっているという状態が今の渋谷です」(山崎氏)

左手、円形ベンチの真ん中にいるハチ公はアーティスト鈴木康広氏による作品「渋谷の方位磁針|ハチの宇宙」 撮影/編集部

渋谷のハチ公像やスクランブル交差点はすっかり観光地化しているが、山崎氏は「渋谷駅周辺に座ってくつろぐ場所がない」ことを指摘する。

「カフェはあっても席数が限られます。しかもカフェで仕事をする人が増え、くつろぎ目的の人はあぶれてしまう。その点、新しい公園は広い無料のオープンスペースで、しかも渋谷のど真ん中で公園内の人通りもある。ただ座っているだけでも全然飽きません。

さらに小腹が空いたら、近くの飲食店やコンビニで何か買ってくることだってできます。“何もしないでダラダラできる”というのはすごくありがたい空間で、居心地の良さにつながります」(前同)

■「雑多」なつくりがもたらす「安心感」

新・宮下公園は商業施設の上という立地でありながら、“雑多”な点も人を集めるポイントだ。

前出の山崎氏によれば、新・宮下公園の“空中庭園”というキャッチーさは世界的にも注目度が高いという。ニューヨーク市にある、廃線になった高架鉄道路線跡を利用した全長2.3kmの線形公園「ハイライン」や、高速道路のトンネルの上につくられた“サンフランシスコ版ハイライン”ともいわれる「プレシディオ・トンネル・トップス」などを思わせるという。

「その中で日本らしいなと思うのは、人々が安心・安全を感じながらも、ちょっとワクワクするような仕組みであるスケート場やサンドコート(砂場)などが仕掛けられていることです。いろんなアクティビティをしている人たちが混在しているからこそ、自分もいていいんだという敷居の低さにつながっているのでは」(山崎氏)

これまで商業施設の屋上といえば、ビアガーデンや子どもの遊び場、植物園など何かしら特定の目的をもったものがつくられてきたが、新・宮下公園はさまざまな目的で利用できる。しかもMIYASHITA PARKは1階にハイブランドが軒を連ねつつも、すぐ脇には気軽な居酒屋が並ぶ横丁があり、施設内にはマクドナルドやスターバックスコーヒーなどカジュアルなフードスペースもある。価格帯も目的もバラバラなものが一堂に集まるスポットなのだ。

「都市計画業界では、用途がたくさん混ざった店舗が混在することを”ミクストユース”と言うんですが、すごく重要なんです。いろんなお店が入っているほうが人が常に滞留するので賑わいが出るし、賑わいが出ている通りは人を惹きつけます」(前同)

続けて山崎氏が「ダラダラできる場所」の魅力を話す。

「今、渋谷には路上に外国人がよく座っていますが、日本の道路は“歩く”通路であって、ダラダラできるようにはつくられていません。海外なんかでは家の前の道路にテーブルを出したりして、座る前提の広さが確保されていますが、日本にはそれがないうえに、路上に座るのはマナーとしても問題視されてしまいます」(同)

しかし、少子高齢化の時代と言えど、首都・東京の人口は急増中。23年の人口は前年よりも3万人ほど増え、およそ1410万人だ。

「滞留できる、ダラダラできるところが少なくなっているわけじゃなくて、人が増えているから空きスペースの奪い合いになっている。

そうした中で、いろんな人がいろんなことをやっている様子を傍観でき、飲食物もあって、ゆっくりしても怒られない。そういった条件がそろっている場所は、まさに人々がいたくなる空間になりえます。いろんなノリの人が一緒にいても構わないという雰囲気づくりの理にかなってるのが、新・宮下公園なのだと思います」(同)

女子高生がSNSの写真を撮影している後ろの芝生では会社員が昼寝。その横では大学生グループがコーヒーを片手に談笑し、ひとり読書にいそしむ女性の姿も――。変貌を遂げた新・宮下公園は“いろんな人がいていい”という安心感をもたらす都会のオアシスなのだ。

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