観光地域づくり法人(DMO)と天王洲アイル #1

1990年代、ウォータフロント最先端都市として再開発が行われた未来型都市、天王洲アイル。オフィス街だけでなく、居住空間やレストラン、劇場まで完備した複合施設が建ち並び、東京の夜景が一望できるホテルも備え、当時は、東京のトレンディスポットとなりました。時代の波に乗り大きく変貌を遂げた天王洲アイルでしたが、2000年代に入ると都心に多くの複合型都市が開発され、徐々に人がそれらの都市に流れていきました。

2012年 天王洲運河の風景(左)、2012年 天王洲運河側の駐車スペース## 天王洲アイルのリバイバルプラン

東京モノレールとりんかい線の乗換駅で羽田空港や品川駅、都心へのアクセスも良い天王洲アイルですが、2010年以降のオフィス街は、閑散としており、土日などの休日は、飲食店やコンビニエンスストアまで閉店するなど、街の機能が大きく低下していました。まちの地権者である寺田倉庫をはじめとした有志が集まり、天王洲のリバイバルについて意見が交わされた結果、1985年の都市再開発計画のスローガン、「アートになる島、ハートのある街」をブラッシュアップすることで、まちの磨き上げを行っていくことが提唱されました。

そして、運河に囲まれた水辺の環境を最大に生かすことで、アートと自然の調和を彩り、人々の心を癒やす空間を創造することを目指しました。2012年、寺田倉庫は、天王洲運河を中心とした水辺の開発(桟橋・ボードウォーク建設)を手掛け、2015年には、水上多目的スペース(船舶)が係留されました。緑豊かな美しい運河沿いのボードウォークには、ベンチやパラソルなどが設置され、天王洲アイルに新たな魅力的な空間が誕生しています。

2015年 天王洲運河の水上施設(左)、2015年 ボードウォーク設置## 天王洲・キャナルサイド活性化協会誕生

天王洲アイルの活性化のために、まちのプロモーションを担うべく2015年に誕生したのが、一般社団法人天王洲・キャナルサイド活性化協会となります。当初の活動は、「水辺とアートの街」天王洲アイルの素晴らしさを地域の皆さんに理解してもらいたいと、季節ごとに年4回のお祭り「天王洲キャナルフェス」を開催しました。水辺とアートをテーマに開催されたこのお祭りは、当初は、来場者の少なさに落胆する場面もあり、魅力的なお祭りにするために様々な新規のチャレンジも行われました。現在まで27回のキャナルフェスが開催され、毎回3万人程度の来場者が訪れる大きなお祭りに成長しています。継続することの大切さを痛感するとともに、このキャナルフェスを通して、天王洲アイルの魅力をまちの人々が発見するきっかけを創り、天王洲アイルに住む人、働く人のシビックプライドを向上させる結果に至りました。

天王洲キャナルフェスの様子(左)、天王洲キャナルフェス 船上ライブ## 日常的なまちの魅力を創る

キャナルフェスによる、まちのにぎわいと魅力の発信は、フェス開催時の一過性となりますが、天王洲・キャナルサイド活性化協会は、まちのスローガン「アートになる島、ハートのある街」を探求。「まち全体がミュージアムのような天王洲アイル」を景観の目標として、日常的なまちのにぎわいの創出にチャレンジしました。具体的には、巨大壁画をはじめ、まちの中にアート作品を散りばめ、また、寺田倉庫はじめとする地権者は、美術館やアート関連施設、イベントスペースを創り、街にアートで香りを漂わせることで、アートのまちとしてのブランディングにより、集客力のある商業イベントなどを誘致するなど、まちの日常的な魅力を構築しました。現在、天王洲アイルは、アートの街として、まち全体を活用するアートフェスティバルが実施されています。

The Shamisen” Shinagawa 2019 / ARYZ(左)、OUT OF BOUNDS 2024 / 山口 歴## 夜間景観による街の魅力を創る

天王洲アイルに訪れた人は、水辺と都市景観の美しさを感じます。水辺のボードウォーク、緑にあふれる公開空地、高層建築物のコラボレーションが、非日常的な空間を演出し、再開発の当初から変わらない魅力です。しかし、美しい景観は、夜間になるとその姿は、消えてしまいます。魅力ある景観を夜間も創りたいと思い、橋や建物、構築物を照らすライトアップにチャレンジしました。天王洲・キャナルサイド活性化協会は、天王洲アイルの地権者にライトアップを促す働きをかけ、行政に対しては、橋などの公共的な構築物へのライトアップを実証実験として取り組ませてもらえるように申請をしました。さらに、夜間の新しい光景を創るために、会員企業であるパナソニックグループと連携して、天王洲運河の対岸の建物をスクリーンとした、プロジェクションマッピングの実証実験を行いました。現在は、「天王洲プロジェクションマッピング活用地区」として東京都から指定され、プロジェクションマッピングによる運河の景観演出は、天王洲の風物詩となっています。

天王洲運河のライトアップとプロジェクションマッピング## 天王洲アイルの魅力を磨き上げた結果

2015年に設立された天王洲・キャナルサイド活性化協会は、キャナルフェス・アート壁画・ライトアップ・プロジェクションマッピング・クルーズ等々、天王洲の魅力を最大限に引き出すために、いろいろなチャレンジを重ねました。その結果、2019年には天王洲運河を会場に「天王洲・キャナルアートモーメント2019」が開催されています。このイベントは、内閣官房(東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局)の委託により、天王洲運河上に係留した台船を特設ステージとして活用し、プロジェクションマッピングによる演出と合わせて、東京の水辺を楽しむプレミアムライブを実施しています。水辺空間においてボードウォークや水上台船、屋形船に観覧席が用意され、「日本文化とアートの発信と体験」をテーマに、熱気と迫力に溢れるライブパフォーマンスで運河全体が盛り上がりました。

天王洲・キャナルアートモーメント 2019 / 運河活用したイベント

天王洲・キャナルアートモーメント2019 / 台船を舞台に大井権現太鼓ライブ

天王洲・キャナルサイド活性化協会は、2024年3月、観光地域づくり法人(地域DMO)に登録されました。天王洲アイルは、「水辺とアートの街」としてブランディングを達成したものの、天王洲アイルへ訪れるほどの観光資源は、まだまだ乏しい状況です。なぜ、街の活性化を促す団体である天王洲・キャナルサイド活性化協会が、天王洲アイルの観光を推進する地域DMOとして活動していくのか。そのプロセスや今後のミッションについて、お伝えするために毎月連載させていただきます。この連載を通して、都市型DMOの組成について深く掘り下げ、さまざまな角度からその魅力や重要性を新しい視点で紹介していきます。

寄稿者 三宅康之(みやけ・やすゆき) (一社)天王洲・キャナルサイド活性化協会 / 理事長

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