『コロコロ』で1年間連続1位! 全話無料でバズった『運命の巻戻士』はなぜ大人もハマるのか

てんとう虫コミックス『運命の巻戻士』第1巻(小学館)

小学館が発行する児童向け漫画雑誌『月刊コロコロコミック』で、いま子どもだけでなく大人も魅了している漫画が連載されている。

その名も『運命の巻戻士』。『コロコロ』12カ月連続アンケート1位の記録を打ち立て、2024年3月に『コロコロオンライン』でおこなわれた全話無料公開では20代以上の大人を中心にバズり、SNSでトレンド入りも果たした。

大人も漫画を楽しむ時代とはいえ『コロコロ』の作品がバズるのはなかなか珍しい。この記事では『運命の巻戻士』がなぜ子どもだけでなく大人も「面白い!」と思えるのか、筆者なりの感想をまじえて語っていきたい。

■懐かしのVHSネタ満載! 人を救うためタイムリープに臨む本格SF

木村風太氏が描く『運命の巻戻士』は、非業の死を遂げた人を救う時空警察特殊機動隊“巻戻士”の活躍を描くSFアクションだ。巻戻士は時間を遡るタイムマシン「リトライアイ」を持っており、ターゲットを助けるまで同じ時間を何度もやり直すタイムリープ展開が描かれる。

過去に戻って未来を変えるSFは多いが、本作のやり直しはハンパではない。主人公の少年、クロノが時間を戻した回数は第1話で53回、第2話ではなんと1278回! 死ぬ運命にある人を救える確率はとても低い。

それでも屈することなく、絶望を希望に変える未来“攻略未来(クリアルート)”をめざす巻戻士の闘いが本作の見どころだ。

また、大人世代としてはVHSネタが随所にちりばめられているのも面白い。リトライアイで時間を戻すとき「巻き戻し(リトライ)」と言ったり、超高速のスピードで戦うキャラの必殺技が「早送り」だったりと、ビデオを使っていた身としてはニヤリとするネーミングだ。

令和の子どもは「巻き戻し」の意味がわからない、なんて話を聞いたりもするが、本作を読んでいるお子さんならその心配はないかもしれない?

■「目に映る人はみんな、この手で助ける!」不屈の主人公・クロノがかっこいい!

本作の主人公・クロノをひと言で表すなら「絶対にあきらめない男」である。クロノはかつて妹を交通事故で失っており、巻戻士になったのも妹の運命を変えるSS級任務に挑戦するためであった。大事な家族を救うため……という動機は、わかりやすいし共感もできる。

しかもクロノは妹だけでなく「自分にかかわるすべての人を見捨てたくない」という強い信念を持って任務にあたる。任務に関係ない人間や動物を傷つけることも拒み、そのためならためらいなくやり直す。第1話では、強盗に襲われて死ぬはずのおばあさんを助けたにもかかわらず、疲弊しきったおばあさんを見るやいなや……「(この事件を)トラウマにしたくないんだ」と考え、より良い未来をめざして時間を巻き戻したほどだ。

命だけではなくみんなの心も助ける。そのためなら何百回、何千回でもタイムリープに挑めるのがクロノだ。まっすぐな優しさと、それを支える不屈の精神力を持つクロノは、心から「がんばれ!」と応援したくなる主人公である。

ちなみに、クロノがなぜ目に映る人すべてを救おうとするのかは第6話で語られている。これについてはぜひ自分の目で確かめてみてほしい。

■難解でハードな展開なのに前向きになれる爽やかさ

小学生向けの『コロコロ』作品なのに、青年漫画さながらのハードな展開も『運命の巻戻士』の魅力だ。

クロノら巻戻士は時間を巻き戻してターゲットを救うわけだが、その過程となる「救えなかった未来」も描かれている。助けたい人が自分の失敗で何度も死に、そのたびに巻戻士の心もすり減っていく。

「1000回以上やり直しても救えなかった人を見捨てる」なんて回想エピソードもあるくらいだ。話が重いことは否めない……。

では本作を読んで憂鬱になるかというと、そうではない。人が死ぬシーンは『コロコロ』らしくギャグっぽく描かれているし、苦しいはずのやり直し展開も絶対にあきらめないクロノのおかげで前向きな気持ちで読んでいける。残酷な世界を嘆くより、絶望に立ち向かう巻戻士を応援したい気持ちが大きくなっていく。

だからこそクロノが“攻略未来”にたどり着いた瞬間、熱くて爽やかな気持ちになれるのだろう。

ハードな設定をライトな描写で上手に包み込むバランス感覚。それこそが世代を超えて愛される秘訣に違いない。

「子どもの頃は好きだったけど、もう全然読んでない」という人も多いだろう『コロコロ』。だが、今回紹介した『運命の巻戻士』は大人が読んでも面白く、元気がもらえる漫画だ。

ぜひこの機会に、『運命の巻戻士』を読んでみてはいかがだろうか。もし今、お子さんが『コロコロ』にハマっている世代であれば、一緒に読んで熱く語らってみるのも良いかもしれない。

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