「魚は健康にいいからたくさん食べよう」→実際には「益」も「害」もあるという事実【内科専門医が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

一般的に「魚は健康にいい」と言われます。しかし、本当にそうなのでしょうか? また、これが科学的根拠に基づく話であれば、どれぐらい食べると良いのでしょうか。本記事では米国老年医学の専門医である山田悠史氏による著書『健康の大疑問』(マガジンハウス)から一部抜粋して、魚の摂取と健康の関連性について解説します。

「魚は体に良い」とよく言うが…

「魚は体に良い」というイメージは皆さんがなんとなくお持ちかもしれませんが、これにはどのぐらいの科学的な根拠があるでしょう。また、もし「体に良い」とすれば、どのぐらい食べるのが良いのでしょう?

魚介類には、「心臓を守る」効果が期待されるエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)と呼ばれる脂肪酸が豊富に含まれており、この2種の栄養素はほとんど魚介類からしかとれません。また、これ以外にも、ビタミンD、リボフラビン、カルシウム、鉄などの栄養素も豊富に含んでいます。

これだけ聞くと、一つひとつの成分のことはよく分からなくても、なんとなく「体に良い」と思えませんか? では、次の文章はどうでしょう。

魚には、海洋に含まれる水銀やその他の汚染物質が含まれます。水銀は過量に摂取した場合、神経系への毒性が、ダイオキシンやポリ塩化ビフェニル(PCB)と呼ばれる汚染物質には発がん性が指摘されています。

こう聞くと、今度は一気に魚は「体に悪い」ものに思えるかもしれません。これらはいずれも真実といえば真実であり、どの側面が切り取られるかによって、認識が大きく左右されることがお分かりいただけるのではないでしょうか。

だからこそ、情報の取り方には注意が必要なのです。ここで振り返っておきたいのは、物事には必ず益と害の両者が併存しているということです。その中で、益が害を上回ることがやるべきと判断され、逆の場合、避けるべきと判断されます。

魚の摂取による研究結果はどうだったか

では、魚の摂取では果たしてどちらが上回るのでしょうか。

魚の益の代表は、先ほどご紹介したEPAやDHAなどの魚の脂の効果です。これらの脂質には、中性脂肪を低下させ、心臓や血管を守る効果が指摘されています。ただし、それだけで益と判断するのはまだ早いです。理論上の効果が本当に人間に表れるかは分からないからです。

そこで、EPAやDHAを抽出したサプリメントが偽物のサプリメントと比較して効果があるかを見た研究があるのでご紹介します。この研究は、VITAL試験と呼ばれるもので、もともと魚の摂取が少ない参加者を対象に、魚の脂を1日あたり1g補給してもらうことで、心臓の病気やがんに対して予防効果が得られるかが評価されました。結果として、予防効果は確認できませんでした。

一方、REDUCE-IT試験という研究では、中性脂肪の高い心臓・血管の病気がある人、あるいはそのリスクが高い人にEPAだけを1日あたり4g投与した時の効果を評価しましたが、心臓・血管疾患の発症が減るということが分かりました。

一見二つの研究結果は相反するようですが、よく見ると、対象者、投与した成分、投与した量、測定した効果が異なることが分かります。

これらの結果から、少なくともリスクの高い人はEPAを十分量とれば、心臓に保護的な効果が得られそうです。

では、次に魚自体の摂取ではどうかというと、これは少し評価が難しくなります。

この場合、サプリメントと異なり、本物の魚と偽物の魚で比較した介入試験というのは実施が困難だからです。かわりに、魚を食べている人とあまり食べない人でどのぐらい心臓の病気の発症率が違うのかを「観察」する観察研究の結果が主になります。それでは研究を見てみましょう。

40万人分のデータをまとめて解析した研究では、魚を1週あたり最低100g食べている人と1ヶ月に1回未満にとどまる人とを比較して、心筋梗塞の発症率を評価しました。すると、前者が後者と比べて、心筋梗塞のリスクが減っているという関連性が見られました。

また、19万人を対象とした別の研究では、心臓・血管疾患の既往のある人の中で、少なくとも週合計175g(週2回)の魚の摂取と、心臓・血管疾患ないし死亡のリスクの低下との間に関連が示されました。

こうした関連性は他の研究でも繰り返し確認されており、少なくとも、魚の摂取習慣と心血管疾患のリスク低減との間には、何らかの関連性がありそうです。

魚に含まれる微量汚染物質の影響はどうでしょうか。まず、市販の魚には、ダイオキシンやPCBなどの汚染物質が少量含まれていますが、これは肉や野菜など他の食品にも同様に含まれており、魚の摂取により特別にリスクが増加することはないと考えられています。水銀については、魚に通常含まれるレベルの水銀値と認知機能や死亡リスクとの関連を調べた研究がありますが、関連性は見られていません。

逆に、魚の摂取が脳卒中、認知症、うつ病などに好影響を与える可能性を示唆する証拠は増えてきており、ネガティブな関連性は否定的となりつつあります。

このように、観察研究で魚を多く摂取している人の健康状態が改善されていることは、魚に含まれる微量の汚染物質が、健康上の純利益を減少させている可能性はあるものの、成人の場合には害を多くもたらす可能性は低いことを示唆していると考えることができます。

しかし、胎児や乳児の脳の発達には微量でも悪影響を及ぼす懸念から、妊娠の可能性がある女性や授乳中の女性は、水銀を多く含む大型で長寿の魚(サメ、メカジキ、カワハギ、クロダイなど)や、有機汚染物質が蔓延している地域で捕獲された魚を避けるよう推奨されています。

一方、魚に含まれるDHAは子供の脳の発達に不可欠であるため、母親が全ての魚を避けるべきではないとされていて、米国食品医薬品局による推奨では、妊娠中の女性は、水銀含有量の少ない魚介類(サケ、エビ、マス、サバ、ニシン、イワシ、タラなど)を1週間に2~3回は食べることとされています。

また、一般成人に対しては、米国心臓学会が、様々な種類の魚(サケ、マス、マグロなどの脂を多く含む魚が望ましい)を週2回以上食べることを推奨しています。

結局、魚は健康にいい?悪い?

まとめると、魚の「直接的な効果」は必ずしも確認できてはいませんが、魚の脂の効果を示す研究や魚の観察研究の結果から、益が害を上回ると考えられ、少なくとも週2回程度を目安に、魚を食べることが勧められていることが分かります。

毎日「肉」派のあなたは、週に、まずは、1回や2回から魚に置き換えてみてはいかがでしょうか。

魚の直接的な健康への効果は必ずしも明らかではない部分もありますが、米国心臓学会などの専門学会は、最低週2回程度の魚の摂取を推奨しています。

妊娠中も、水銀含有量の少ない魚介類を選択して安全に摂取することが可能です。

山田 悠史

米国老年医学・内科専門医

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