また静岡か! 国会議員、知事、スルガ銀行、いなば食品… 「まとまりのなさ」から生まれる独特の県民性と金融風土

はじめまして。佐々木と申します。これまで主に、金融機関経営者・実務家向けの「フィナシープロ(finasee Pro)」で記事を書かせていただいており、finaseeには初出稿になります。何卒よろしくお願いします。

筆者は新卒後に就職した金融機関で、1993年と2014の2度(いずれも2年ずつ)静岡支店に赴任した経験があります。2021年からは、縁あって静岡県内金融機関の非常勤職員などをさせていただいており、現在も自宅のある東京から毎週、通いで訪問しています。

今回は、そんな「県内出身者ではないものの、いつの間にかそれなりに詳しくなった」静岡県の金融その他について、ごく簡単に解説いたします。

何かと世間を騒がせる静岡県

総務省統計局のデータによれば、2023年10月1日時点の都道府県別人口で、静岡県は第10位(約360万人)のようです。皮膚感覚では、それよりも高い頻度で何かと話題となっている印象を受けますが、皆さんはいかがでしょうか。

静岡の金融機関事情

静岡市と浜松市に都市銀行が進出していますが、預金取扱金融機関の中心は、静岡市に本店を置く静岡銀行です。このほか県内の有力プレーヤーは以下のとおりです。

静岡県内に本店を構える預貯金取扱金融機関[順不同]

特徴的な面に、銀行と信用組合が挙げられます。地方経済の縮小傾向の下、青森・新潟・長崎県などで地方銀行・第二地方銀行の合併・再編が進む中、県内にはなお4つの銀行が残っています。対照的に、信用組合は職域信用組合である静岡県医師信用組合の1つだけしかありません。農業協同組合も相当数が残っており、これらが業態入り混じった生き残りの競争環境を形成しています。

都道府県GDPの順位で静岡をひとつ上回る福岡県には、ガリバーである福岡銀行のほか、福岡中央銀行に加え、預金量で1000億円弱から8000億円までの信用金庫が8つと信用組合3つがあります。これに対し、静岡県の信用金庫は最小サイズでも預金量が4000億円台であり、相対的に価格競争力を保有しています。

スルガ銀行の特異な経営モデルも、そうした県内での激しい競争を避け、神奈川県・東京都を始めとする県外での展開を模索していった中で生じたある種のエラーと言えるのではないでしょうか。

静岡の県民性

東名高速道路(インターチェンジが御殿場・裾野・沼津・富士・清水・静岡・焼津・吉田・相良牧之原・菊川・掛川・袋井・磐田・浜松・浜松西・三ケ日の16箇所)や東海道新幹線(停車駅が熱海・三島・新富士・静岡・掛川・浜松の6駅)からも明らかなように、静岡県は東西に長い距離を有しています。伊豆半島を別とすれば、神奈川県から入って愛知県まで抜けるのにかなりの距離があるのです。

それゆえに、方言なども相当数が認められ、ひとくくりにするのはやや難しい面があります。天気予報などでは、「(沼津・富士など)東部・(旧清水を含む静岡・焼津・島田など)中部・(浜松・磐田・掛川など)西部」+伊豆地方で区切った報道がみられ、それ以外でも何かにつけて東・中・西で語られることが多い印象を受けます。

知事選についても、以前から「西部は誰を担ぐんだ」などの声が自然に出ます。県民には、福島県や長野県同様に、「静岡県の東部(あるいは中部・西部)の出身」という県の全体ではなく特定地域の意識があるためと思われます。今般の知事選にも、所属政党などのほか、そうした“地区代表”の面が反映されていることでしょう。

ここから先は筆者の印象になりますが、浜松など西部地区であっても名古屋よりも東京志向が強いと感じます。その一方で、群馬県や岐阜県などに比べ、受験よりも部活動に熱心で、サッカー・野球・ラグビーなどで有名やOBが多数いるため、ローカル局のキャスターや解説者などで多数が出演しています。

隣接する神奈川県や愛知県に比べ、大学の数自体が少なくそれほど大規模な大学もないため、大学進学時に一度故郷を離れてUターンする人が少なくありません。静岡大学などに進学した愛知県民からは「本当に(愛知県民よりも)おおらか」、神奈川県民からは「テレビが急にローカル化する」という意見も聞きます。

富士市・富士宮市・裾野市など東部・近隣地区ではなくとも、県民であれば富士山のことは総じて好きで、緑茶をよく飲みます。学校でお茶の入れ方(給茶)の授業があったり、居酒屋などでは焼酎の緑茶割りのことを“静岡割り”と呼んだりもします。

他のローカルフーズでは、今ではどこでも食べられるようになりましたが、30年以上前からスーパーマーケットで生しらすが売られていたほか、実はフライが美味い焼津の黒はんぺんもあります。そのほかにも、県内の主要駅ならばほぼどこでも買えるうなぎパイや、わさび漬けなどをこよなく愛してもいます。

静岡の生活動線など

私鉄の静岡鉄道や私鉄バスのしずてつジャストラインが相当数運行している静岡市内の一部を除けば、ほぼ車社会です。人口の最も多い浜松市にその傾向が強いため、以前から「浜松は背広(スーツ)が売れない街」と言われていた模様です。

そうした中で相対的に街中を歩き回る機会が少なくなったせいか、百貨店も浜松に1店(遠鉄百貨店)を残す以外は、皆静岡市に集中しています(丸井や109は閉店しましたが、松坂屋・伊勢丹・PARCOが残っています)。

それ以外の都市では、ららぽーとやイオンモールなど、全国でよくみられるショッピングモールが相当数あるほか、元百貨店がファッションビル化しているところもあります。

静岡のメディア

新聞では地元の静岡新聞が最大の占有率を占めており、それに、相対的に西部地区に強い中日新聞が続きます。

テレビも、静岡市清水区に本社を置く物流大手・鈴与がルーツのケーブルテレビであるトコちゃんねるを除けばキー局はなく、民放では第一テレビ(日テレ系)・SBSテレビ(TBS系)・テレビ静岡(フジテレビ系)・静岡朝日テレビ(テレビ朝日系)が放送しています。テレビ東京の番組は、人気番組が夜中や平日の昼間に何週遅れかで放送される印象です。

投資を考えられる際には

県内の人口は徐々に減少していますが、東京(あるいは横浜)と名古屋という大都市に挟まれている立地ゆえ、過疎化の進行速度は相対的に遅い実情が認められます。もとより、都道府県別人口も第10位の地域ゆえ、人の採用などにも有利な立地です。

また、外部から受ける第一印象以上に地元志向が強く、同一・同水準の価格ならば県内品や県内企業などの商品・サービスを選択する傾向が認められます。そうした根強い地元志向を背景に、今後の県外資本の進出時などにも、相応の売上などが下支えされることでしょう。従って、静岡県内事業者への投資などを考えられる際には、地元の売上比率などに着目されることが一案と考えます。

全国紙などでは報道されていませんが、辞任した川勝知事には根強い支持者がみられ、そうした中にはリニアを不要と考える層も含まれています。「東海道新幹線があるんだからそれでいいじゃないか」「大井川水系の水源は確かに大事だ」の意識などです。リニアに大動脈を奪われるというよりも、投資自体が過剰で、そこまでする必要はないのではないか、という意識のように映ります。

JR東海は名古屋市に本社を構える企業ですが、愛知県に行くと“東海3県”という言葉をよく見聞きします。つまるところ、東海地方に静岡県を含めないのです。静岡県からはNTT西日本の管轄となるのですが、東部からは名古屋よりも圧倒的に東京が近いため、意識としては首都圏・関東圏にあると捉えていると思います。今般のリニア騒動の背景には、案外そうした意識が投影されているのでは、と考えます。

佐々木 城夛/オペレーショナルデザイン株式会社 取締役デザイナー

1967年東京生まれ。1990年慶應義塾大学法学部法律学科卒、信金中央金庫入庫。欧州系証券会社(在英国)Associate Director、信用金庫部上席審議役兼コンサルティング室 長、静岡支店長、地域・中小企業研究所主席研究員等を経て2021年4月に独立。2023年6 月より現職。沼津信用金庫非常勤参与・富士宮信用金庫非常勤監事。 「ダイヤモンド・オンライン(ダイヤモンド社)」・「金融財政ビジネス(時事通信社)」ほか連載多数。著書に「いちばんやさしい金融リスク管理(近代セールス社)」ほか。HP アドレスは https://jota-sasaki.jimdosite.com/

© 株式会社想研