シャープ、成長の足踏み要因を特定 2期連続大幅赤字に施す荒療治

シャープの社長執行役員兼CEOの呉柏勲(ロバート・ウー)氏は5月14日、2023年度連結業績を発表したのにあわせて、社内イントラネットを通じて、従業員向けメッセージを発信した。

決算では2年連続の大幅な最終赤字を計上したほか、堺ディスプレイプロダクト(SDP)における液晶パネル生産の停止を発表するなど、厳しい発表内容となっている。

今回のメッセージでは、「将来の飛躍に向けて」と題したものの、現状の厳しさを説明する内容となっており、「とくに重要なポイントについて説明する」と、従業員の理解を得るメッセージとなった。

2期連続での大幅赤字「ディスプレイデバイス」

最初に、2023年度決算について説明。「2023年度の売上高は減収。営業利益と経常利益は、SDPに加えて、シャープディスプレイテクノロジー(SDTC)も需要低迷の影響を受け、業績が大きく下振れした結果、ディスプレイデバイス全体で大幅な赤字となり、全社でも赤字になった。さらに、最終利益は、ディスプレイデバイス関連で大きな減損損失を計上したことから、2期連続での大幅赤字になった」と報告した。

だが、その一方で、ブランド事業については、巣ごもり需要の反動減や、エネルギーコストの上昇、インフレの加速、急激な円安などのマイナス要因の影響を受けながらも、大幅な増益を確保できたと述べた。

呉社長兼CEOは、「今回の決算がこのような結果になった最大の要因は、ディスプレイデバイスの不振だが、シャープの今後の成長を見据えると、過去から長年抱えている構造的課題がある」と指摘。「デバイス事業は、その事業特性から、毎期、大きな投資が不可欠だが、長い間、技術や工場投資が十分に行えず、徐々に競争力が低下し、これにより新たなカテゴリーや顧客など、成長分野の開拓が進まず、結果として、市場の変化の影響を受けやすい事業構造に陥っている」と反省した。

また、「ブランド事業は、投資が制限されるなかでも堅実な業績を上げてきた。しかし、事業拡大投資やブランド投資、新分野への投資など、将来の成長に向けた打ち手が不十分であり、期待値ほどの成果をあげることができていない。この結果、全社のキャッシュ創出力が向上せず、『負のサイクル』に陥ってしまったことが、シャープの成長が長年足踏みしている真因である。将来の飛躍には、このサイクルから早期に脱却し、持続可能な収益構造を確立することが不可欠である」と述べた。

さらに、「シャープが再び信頼を回復していくためには、立てた計画を毎期着実に達成していくことが重要である。今後は、各事業におけるリスクや変化を早期に把握し、迅速に対応していくことで、オールシャープとしての管理力を大幅に向上させ、経営の精度を高めていきたい」との姿勢を示した。

デバイス事業はアセットライト化へ

シャープでは、「中期経営方針」を新たに発表した。呉社長兼CEOは、「これまでは、ブランド事業に集中した事業構造の構築を志向してきたが、新たに打ち出した中期経営方針では、デバイス事業のアセットライト化を本格的に実行し、ブランド企業としての新たな成長モデルを確立し、グローバルエクセレントカンパニーへの飛躍を目指す」との基本姿勢を明確にした。

「デバイス事業のアセットライト化」では、デバイス事業には、大きな事業用資産を有し、競争力強化に多額の投資が不可欠であるという課題に触れながら、「今後、工場の最適化や他社の力を活用した事業展開へと舵を切る」とし、「まずは、2期連続で大幅赤字となったSDPにおいて、2024年度上期中に、大型ディスプレイの生産を停止することを決めた。当初想定した再生計画の遂行が困難になっており、今後は、インドの有力企業への技術支援や、建屋およびユーティリティを活用したAIデータセンター関連ビジネスなどに事業転換を進めていく。また、苦渋の決断ではあるが、労働組合に対して、SDPの生産業務従事者に対する社外転身支援プログラム適用を申し入れた」とした。

また、SDTCについては、「他社との協業や工場の最適化を進め、収益改善を図る。遊休スペースの他社への転用や、生産能力の最適化、これに伴う投資削減や人員適正化などに取り組むことになる」としている。

さらに、シャープセンシングテクノロジー(SSTC)およびシャープ福山レーザー(SFL)を、事業譲渡する方針を明確にした。今後、鴻海グループなどとの具体的な協議を進め、事業と親和性が高く、両社のさらなる成長に資するパートナーに事業を譲渡することになるという。

正のサイクルを創り上げるブランド事業

これらの施策を説明した上で、呉社長兼CEOは、「デバイス事業は、大きな変化があり、戸惑いもあると思う。だが、シャープが大切にしてきた『将来に渡って事業成長を実現し、社員の雇用の安定やキャリアアップにつなげる』という会社の姿勢に変わりはない。今回のアセットライト化についても、この考えを基本にして、実行に移していく」と述べ、さらに、「私は、シャープの強みである『デバイス事業とブランド事業が互いに切磋琢磨するとともに、協力し合う関係』を、今後も継続していきたいと考えている。これを念頭に、さまざまな組み手や、協業の形を検討し、スピード感をもって具体化していく」と語った。

一方、ブランド事業については、「ブランド企業としての新たな成長モデルの確立」を掲げた。

「ブランド事業では、抑制していた投資を再拡大し、売上と利益の成長を実現するとともに、成長領域へのシフトを加速する。さらに、創出したキャッシュを活用して、先端技術への投資を積極的に推し進め、AIや次世代通信、EVなど、成長する新産業分野において、事業機会の獲得に挑戦し、さらなる事業成長と、企業価値向上を目指す。既存のブランド事業と、新産業(Next Innovation)の『正のサイクル』を新たに創り上げ、将来の持続的成長を実現していく」との考えを示した。

大きな転換点となる2024年、荒療治はどう進む

メッセージの最後に呉社長兼CEOは、「2期連続で大幅な赤字を計上したが、今後は中期経営方針を着実に実行し、まずは2024年度の黒字転換を目指す。業績を大きく改善することで、ステークホルダーの信頼回復につなげる」との姿勢を強調する一方、鴻海精密工業 董事長の劉揚偉(リュウヤンウェイ)氏から、「シャープの方針を支持し、鴻海は今後もシャープと手を携え、ともに困難に立ち向かう考えである」というビデオメッセージをもらったことも紹介した。

「足元の2024年度は、シャープにとって大きな転換点となる1年である。まずは、各事業において収益改善に全力を尽くし、年間黒字をなんとしてでも成し遂げよう。そして、将来のさらなる飛躍に向けて、確かな基盤を構築していこう」と呼びかけた。

再び厳しい状況に陥ったシャープ。かつてのように、鴻海流経営手法の導入だけで回復するのは難しいともいえる。荒療治がどんな形で進むのかがこれから注目される。

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