起きたら冷たくなっていて…母の死を確認したのは高校生の娘だった【老親・家族 在宅での看取り方】

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【老親・家族 在宅での看取り方】#93

その患者さんは、旦那さん、大学生と高校生の2人の娘さんとの4人暮らしでした。50代という若さでしたが、卵巣がんの末期。予後が限られているということもあり、今後どのように過ごしていくかという話は避けて通れません。

在宅医療を始めるにあたり、患者さんやご家族の意向を伺うべく、病状についての詳しい説明から始めました。すると、患者さんもご家族も言葉を失ってしまったのです。しばらくして患者さんの口から漏れた言葉は、「私、そんな悪い状況なんですか……。来月、娘の高校の保護者会があるんです。出席すると返事しているのに」というものでした。

入院していた病院で「卵巣がんの末期」という診断は受けていたものの、インフォームドコンセントがしっかりなされていなかった。インフォームドコンセントは、医師や看護師から行われる医療行為に対する十分な説明のこと。患者さんやご家族はその内容について十分納得した上で治療を開始するのですが、この患者さんの場合、「最期」まではまだ少し余裕があると思われていたのでした。

「保護者会への出席を目標に療養生活を頑張りましょう」

私たちは、そう伝えました。患者さんも「娘たちのために一日でも長く生きたい。娘たちの姿に元気をもらっている」とよく話されていました。

お別れは突然やってきました。

患者さんと添い寝していた下の娘さんが、朝になってお母さんが冷たくなっていることに気が付いたのでした。娘さんは119番への電話の後、私たちに連絡。電話口で号泣している娘さんたちのことが心配で、患者さんとご家族のことを一番よく知っているケアマネジャーさんにも私たちの車に同乗してもらい、ご自宅へ駆けつけました。

急いだのには、救急隊へ事情を説明し、お引き取りいただかなければならない、という理由もありました。救急隊には、救急救命処置を行う法的な義務が課せられています。明らかに亡くなられている場合、警察に連絡され、ご家族への事情聴取や遺体の検視となってしまいます。しかし、その患者さんを普段から診ている主治医が死亡確認をし、死亡診断書を書けば、警察の介入は不必要になります。

私たちが到着した時、特に下の娘さんは取り乱すほど号泣していました。ただ寄り添うことしかできなかったことを覚えています。

最近、担当だったケアマネジャーさんとお話しする機会がありました。あれから数年を経た今でも、姉妹と親交があり、たまに連絡が届くとのことでした。

ここまで他人の生活や人生に深く関わる仕事は珍しいのではないでしょうか。単なる医療を行うのではなく、多様な人の人生を支え、困難を一緒に乗り越えていく。今後も、より良い在宅医療の形を模索していきたいと考えています。

(下山祐人/あけぼの診療所院長)

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