小学校で消えゆく動物の飼育小屋 世話の負担重く 動物福祉への配慮や感染症警戒も

学校施設内で飼育されているウサギ(京都市下京区・西大路小)

 子どもたちに命の大切さを学ぶ貴重な機会を提供してきた飼育小屋が京滋の小学校で姿を消しつつある。ウサギやニワトリなどの世話の負担が重く、教員の働き方改革を進めようとする流れが背景にある。京都市内の学校で実情を尋ねた。

 昨年11月下旬の放課後、京都市北区の待鳳小のウサギ小屋に、動物の飼育などを担う「愛がいっぱい動物委員会」に所属する5、6年の児童約15人が集まり、寒風よけのビニールシートを小屋の周囲に取り付けていた。小屋では、雌1匹が静かに暮らす。子どもたちは餌やりやふんの掃除などを担い、愛情を持って見守る。

 飼育の過程では、つらい出来事も体験する。昨夏には1匹が病気で死んだ。当時6年生で委員長を務めていた中村芽以さん(12)は「悲しかった。亡くなる前は餌をあげても、近寄ってこなかった。今生きている1匹は長生きしてほしい」と話した。

 学校で動物を飼う意義について、牧紀彦校長は「動物は触れるとぬくもりがあり、愛情がわく。生き物を大切にしようとする思いも高まる」と語る。児童の意向を踏まえて、今後もウサギの飼育を続けるという。

 下京区の西大路小では、校舎内の廊下で雌雄1匹ずつのミニウサギを飼う。休み時間になると多くの児童が様子を見に訪れており、長光裕子校長は「癒やしの存在になっている」と温かなまなざしを向ける。

 ただ、学校で動物を飼う光景は珍しくなりつつある。

 伏見区の竹田小では2017年度に当時の校長の判断で飼育をやめた。同小に赴任して12年目の川上哲也教頭は、理由の一つに、世話の大変さを挙げる。「学校が閉まる長期休み期間中も世話をしなければならない。教員が休みをつぶして出勤したり、場合によっては自宅に連れて帰ったりしていた」。

 動物福祉への配慮もあったという。「動物にとって猛暑の夏に小屋で飼われるのは苦痛だと思う」。動物アレルギーがある児童もいることから、生き物を飼うこと自体が学校現場では難しくなっていると打ち明ける。「教育的な価値はある」と認めながらも、「教員は教育のプロであっても、飼育のプロではない」と率直な思いを語る。

 府内の学校ではどれだけの動物が飼育されているのか。京都市・府の両教育委員会は把握していなかった。伝染病予防の観点から毎年実態調査をしている滋賀県によると、2014年度には県内の公立の幼稚園、小中学校で388匹(羽)を飼育していたが、23年度には48匹(羽)に激減している。

 この内訳はウサギ42匹、ハムスター2匹、インコ3羽、ニワトリ1羽。ウサギなどの小動物を飼育する小学校は同年度で14校、鳥を飼うのは2校にとどまる。ウサギが多いのは「鳴かない」「かみつかない」との理由があるとされる。

 飼育例の減少の要因について、県教委の担当者は、教員の負担軽減に加え、「新たな感染症への警戒もあるのではないか」と推測する。新型コロナウイルス禍前の2019年度は169匹(羽)いた。

 学校での動物飼育の必要性を説く京都市獣医師会は、約20年前から組織内に対策委員会を設け、主に市内小学校で出前授業を実施しているほか、飼育指導や無償診療なども続ける。市教委との話し合いでは、教員の負担軽減の必要性が話題に上ったことから、夏休みなどの長期休み期間中は会員の病院で預かることも検討しているという。

 同獣医師会は「(学校での動物飼育は)教員の善意で成り立っている現状では減るのは仕方がない面もある。飼育担当の人材を置くなど態勢を整える必要があるのではないか」としている。

© 株式会社京都新聞社