ユニークなゾンビたちが大集合! 1980年代のホラーブームを担った超カルト作 『バタリアン』

飯塚克味のホラー道 第78回『バタリアン』

(C)1984 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc.. All Rights Reserved.

80年代のホラーブームは本当に凄まじいものがあって、町中に次々とできていったレンタルショップのホラーコーナーは、続々とリリースされる新譜で埋め尽くされ、書店に行けばホラー映画を特集したムック本や雑誌が棚を埋め尽くしていた。火が点いた1985年の翌年、1986年の2月に、当時の中高生のワクワク感を嫌でも増大させる作品があった。それが今回紹介する『バタリアン』だ。DVDは出ていたものの、今回が初のブルーレイ化で、ファン待望のタイトルとして発売以降、高セールスを記録している。

『バタリアン』と聞いて、その意味を説明できる人はいないだろう。当時、本作を配給した東宝東和が作った造語なので、辞書を引いても出てくることはないはずだ。映画の中ではゾンビの意味で使われている。原題は『ザ・リターン・オブ・ザ・リビング・デッド』。ジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(1968)のスタッフ、ジョン・ルッソが原案を担当し、『エイリアン』(1979)の脚本で脚光を浴びたダン・オバノンが初監督して作られた。

内容だが、実は『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』は実際の話で、あれは映画用に書き替えられたものという大嘘の設定が前提だ。その時の死体はタンクに詰められ、舞台となる医療品会社の地下に隠されていた。そして、それが従業員の不注意で開けられてしまい、漏れたガスで死体が次々と蘇えるという話になっている。冒頭も「この映画は全て事実なので、会社名、個人名も実在する」と普通の映画と真逆の断り書きから始まる。もちろんこれは作り手たちのジョーク。ジョージ・A・ロメロのリアルなゾンビ路線と同じことをやっても意味がないと、ダン・オバノンが本作をホラーコメディにすべきと舵を切ったのだ。

(C)1984 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc.. All Rights Reserved.

こうした作りを受け、当時の配給会社である東宝東和は、タイトルはもちろん、キャラクターにもオバンバといった名前を名付けるなどして認知度をアップ。この辺のキャラ紹介は同封のチラシレプリカに記してあるので、是非チェックしてもらいたい。また公開時に前売り券のおまけとして「バタリアンの卵」という謎の物体が付いていたことを覚えている人もいるのではないだろうか。

本作で描かれるゾンビことバタリアンだが、ジョージ・A・ロメロが定義したゾンビとは大きく異なり、走るし、頭や言葉を使うし、バラバラにしても生きている。焼いて灰にしても、それが舞って、地面に沁み込むとまた眠っていた死者を復活させるという、もうとんでもない代物で、事実上、倒しようがない無敵状態というのが素晴らしい。

だが公開時、本作はホラーコメディとしては売られてはいなかった。突然始まったホラーブームの中、ホラコメは一歩進んだもので、基本はまだまだ恐ろしいものがメインだったのだ。そのため、筆者は、ちょっとした違和感を覚えたのも事実だ。これは同じ年に日本で公開された『悪魔のいけにえ2』(1986)も同様で、前作の怖さを超えるものを期待していたら、方向性を変えてきたので、肩透かしを食らった気分になったという訳。ある意味、時代の先を行き過ぎた作品であったと言えるだろう。

ブルーレイにはそうした時代背景も含め、作り手の生の言葉が記録された特典映像や音声解説が収録されている。さすがに製作からほぼ40年が経過しているので、ダン・オバノン監督をはじめ、鬼籍に入っているメンバーも少なくない。字幕か吹替で映画本編を観たら、これらの特典をしゃぶりつくして、『バタリアン』の世界を大いに楽しんでもらいたい。そしてホラー映画が輝いていた80年代という時代に注目して作品探しをすれば、より豊かなホラーライフを送れるはずだ。


飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【商品情報】
バタリアン
2024年4月26日(金)セルBlu-ray発売
6,600円(税込)
発売・販売元:マクザム
(C)1984 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc.. All Rights Reserved.

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