「お金を稼ぎたかった」執行猶予中に大麻取引で逮捕された22歳男…裁判長は強い言葉で問うた

大麻関連の検挙数の約7割が30歳未満と若年層に大麻汚染が広がっている(takahiro.048 / PIXTA)

初めて大麻を使ったきっかけのうち「誘われて」との回答は20歳未満で79.1%、20代では70.28%。使った理由は「好奇心・興味本位」が20歳未満で57.9%、20代で3.7%――。

この数値は、警察庁がまとめた2023年の「組織犯罪の情勢」によるものだ。このように、興味本位で薬物に手を染める若者がいるのはデータでもわかるだろう。本稿記者は最近、裁判の傍聴をすることが多くなっている。その中で、ある若者と大麻に関連した裁判を紹介したい。

前科ありの20代男、再び大麻の世界へカムバック

今回紹介する裁判の被告人は、大麻取締法違反容疑で逮捕されている22歳の男性だ。

被告人は営利目的で今年2月、札幌市西区のコンビニ付近の路上で大麻を所持しており、警察から職務質問を受けて発覚した。検察側が示した「テレグラム」(チャット)の記録には、以下のようなやり取りなどがあったという。

「大麻草2つとジョイント(吸引器具)売るよ」
「配送可能ですか」
「分かりました」

それを受けた2月末の家宅捜索では、新たに6.53グラムの大麻が見つかっている。さらに大麻が入ったパケ(チャックつきビニール袋)2点と巻紙3本が見つかったほか、はかりや植物片も押収されている。

22歳の被告人は高校を中退後、会社員として働きながら札幌市内で一人暮らしをしていた。以前にも逮捕され、23年12月には札幌地裁から懲役6年、執行猶予3年の判決を言い渡されている。

その判決からわずか3か月。執行猶予期間中にもかかわらず、被告人は再び大麻に関わるようになった。昨年の逮捕から被告人の収入は減り、知人の紹介で被告人は再び大麻の世界へと戻り、過去に取引していた人物と接触したのだ。

母親「どうして裏切ったのか」、被告人「弱さあった」

被告人によると、今回所持していた大麻は「売る予定だったものが大半」だと前置きしたうえで、「自分で巻紙をつくって大麻を吸うことで、ご飯がおいしく感じ、気持ちよくなる」という。たばこも普段から吸うが、「気持ちいい感覚が好き」だという大麻も吸う。効果が切れたかどうかは、「翌日の朝に体がだるく感じるかどうかでわかる」。症状としては軽い方なのかもしれないし、中毒なのかもしれない。

被告人は再び大麻に手を出した経緯について、「一度大麻をやめようとしたが、バイトの先輩も吸っていた。それを見てまた吸いたくなった。Twitter(現・X)を使って入手した。親にばれないように月に2~3回吸った。薬物取引の仕事は稼げると知っており、テレグラムで取引した」と話す。

被告人は、指示していた人物から「パケごとにグラムを指定され、大麻を分けて売るように」と指示を受けた。「稼ごうと思ったが、今回は練習。まだそんなに稼げることはなく、やってみてだんだんわかっていくのだろう」と考えていた。その矢先の逮捕だった。

傍聴席では、裁判が始まった時からすすり泣く女性の姿があった。証人として裁判所に来た被告人の母親である。裁判長から促され、証人として証言台に立った。

裁判長「あなたは、被告人とどのような関係ですか」
証人「母親です」

裁判長「息子さんとはどれくらい会って(面会して)いますか」
証人「週2~3回、30日以上は面会しています」

裁判長「被告人がまた大麻に関わった。どう思いますか」
証人「どうして家族を裏切ったのか。これからどうするのか」

母親は泣きながら裁判長と受け答えしていた。証言の中で、息子から送られてきた手紙の中には「弱さがあった」と書かれていたことも明かした。

今は親として「(息子に)1人で強く生きてもらえるように、二度と大麻に手を出さないようにしてほしい」と心情を吐露し、「本人は携帯を変えたいと言っていた。本人は(人生を)いちからやり直したいと思っていたのかなと感じた」という。

「家族を頼るより薬物取引の方がハードル低い」、裁判長は最後に問うた

被告人質問。

被告人は大麻を営利目的で持っていたと認め、「いつか金をもらえると思っていた」と話し、「借金があったものの、誰にも頼りたくなかった。家族には妹が3人もいるのに…悲しい思いをさせた。借金は建築関係の仕事に再就職して返したい」と話した。大麻は仕事や借金のことを少しだけでも忘れるためのストレス発散のはずだった。でも、ストレスは発散できなかった。

検察側は追及する。

検察官「昨年の裁判では、関係者と連絡を絶つと言っていたはず。どうしてまた連絡したのか」
被告人「連絡先は消したが、一方的に連絡が来ていた。タイミングがあったこともあってか、話してしまった」

検察官「お金を返すのならば、どうしてアルバイトをしなかった?」
被告人「(大麻)取引の方がたくさん稼げると聞いていたからだ」

検察官「家族に頼る選択肢はなかったか?」
被告人「頼りたくなかった。家族を頼るより取引の方がハードルが低いと思っていた。しかし、自分は選択を間違えた。犯罪以外で稼ぐべきだった」

最後に裁判長が話す。

裁判長「あなた、執行猶予の意味、分かっているの?」
被告人「なんとなくは分かっていたが、ことの大きさは分からなかった」

裁判長は最後に言った。

「あなたは重大なことをやったんですよ」

検察側は「再犯の可能性が高く、情状酌量の余地なし」として、懲役2年、罰金20万円の実刑判決を求刑。弁護側は「被告人は利益を得ていなかった。大麻をどうするかは第三者が決めていたことや、深く反省していること、母や妹もサポートすると言っていること、22歳と若い」ことを理由に「寛大な判断を」と求めた。

被告人は最後に言った。

「もう二度と罪を犯さぬよう、周りの環境や自分自身を変えたい」

判決は5月末に言い渡される。

道内でも相次ぐ薬物事例、薬物乱用は「ダメ。ゼッタイ。」

北海道警察によれば、23年に物事案で逮捕・検挙された道内の人数は68人となっている。そのうち、大麻取締法で逮捕・検挙された人数は60人と最も多く、その人数は年々増加傾向となっている(22年は44人、21年は21人)。

最近の北海道内での事例では、4月に帯広畜産大学の学生と卒業生3人が大麻を持っていた疑いなどがあるとして逮捕。また、麻薬特例法違反容疑で北海道警察の警察官2人が書類送検、元巡査の1人が逮捕されるなどしている。

海外では、大麻を使用することを合法としている地域もある。しかし、日本では栽培や所持をすることは禁止している。警察庁も「『大麻は他の薬物より安全で害がない。』などといった誤った情報を信じて、軽い気持ちで大麻に手を出すことは大変危険」と注意喚起している。大麻に限らず、薬物乱用は「ダメ。ゼッタイ。」。これを肝に銘じて生きてほしい。

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