結婚直前のカップルが「男性側の名字変更」を決断…その時突き付けられた「厳しすぎる現実」

ファイナンシャルプランナーの筆者のもとに、事実婚のおふたり(40代)が相談に来られました。万が一に備え、お互いの保険を見直したいとのこと。ただ、おふたりのテンションがあまりにも違うことから、先行きが気になりました。事実婚を選んだ背景を伺いつつ、見えてきた課題についてもお伝えします。

【相談者プロフィール】

田沢博さん(46歳・仮名):工務店勤務、総務

井口涼子さん(44歳・仮名):メーカー勤務、営業

涼子さんを一変させた運命の出会い

「一生結婚はないな……」

そう日頃から友人や同僚に、事あるごとに話してきた涼子さん。営業の仕事が面白く、嫌なことがあっても仕事終わりの飲み会で十分発散できていました。休日は、趣味の映画観賞。独身生活を満喫し、寂しいと思ったことは1度もありません。

ところが、家族や友人たちからの見え方は真逆です。急に不機嫌な顔で実家に帰ってくる。定期的に友人を飲みに誘い愚痴をこぼすなど、涼子さんの様子が心配でなりません。

「仕事で毎日気が張っているんじゃない?」と、涼子さんをBBQ(バーベキュー)イベントに誘ってはみたものの、返事は予想通りの「NO!」。おせっかいと言わんばかりの態度に、どうしたものかと考えあぐねていました。

それから3カ月ほどたったある日、この状況が一変する出来事が起こります。企業の合同勉強会で出会った博さんと、映画観賞の話題で意気投合したのです。

話題作ばかり観ていた涼子さんと違い、博さんは小さな映画館にも通うほどの映画通。でも、それを自慢することなく、穏やかな語り口の博さんに興味を持った涼子さんは、持ち前の営業力を活かして博さんの連絡先をゲットしました。

映画愛が結んだふたりの縁

友人として映画観賞をご一緒してきたふたりでしたが、いつしか博さんの自宅で古い映画をDVD鑑賞する仲に。そのうち、趣味が一緒で聞き上手・料理上手な博さんに対し、「こういう人なら結婚もありかな」と、涼子さんの気持ちに少しずつ変化が起きてきました。

博さんにとっても涼子さんは、映画へのこだわりを理解してくれる唯一の人で、いつしか「一緒にいたい」と思うように。ご家族・友人たちも、ふたりの仲が良い様子に一安心。「このまま結婚まで進めばいいな」と願っていたのですが、現実はそう甘くありませんでした。

ネックとなったのは「名字の変更」

ふたりが結婚を考え始めたとき、ネックとなったのは名字をどうするか。日本は婚姻届を提出する際、夫婦のどちらかの姓を選ぶ「夫婦同姓」が法律で規定されています。女性側が男性の姓に変更することが一般的ですが、その逆でも問題はありません。

ただ、涼子さんは営業という仕事柄、名字が変わることはデメリット。お客さまに「井口さん」で覚えてもらっている涼子さんにとって、「田沢になった」と理解してもらうには、時間と手間がかかるのです。筆者も金融機関の営業職のとき、結婚で名字が変わったことがお客さまに浸透するまで半年程度の時間がかかりました。

そのうえ免許証や銀行口座、取得資格などの氏名変更手続きは面倒なことばかり。「代行してくれる業者いないかな」と心底思ったものです。

一方、博さんは次男で総務という仕事柄、名字が変わることに抵抗なし。涼子さんが名字を変えたくないなら「井口姓」になってもいいと思っていました。そこに立ちふさがったのが博さんのご両親。「なぜうちが名字を変えなきゃいかんのだ!」と猛反対されたのです。

●果たしてふたりの結婚はどうなってしまうのでしょうか? 博さんと涼子さんのその後は、後編【事実婚を検討したカップルが「最大のデメリット」を痛感。ふたりが行き着いた衝撃の結末は…】で詳説します。

辻本 由香/つじもとFP事務所代表・一般社団法人WINK理事

ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、相続手続カウンセラー、50代からのくらし(医・職・住)と資産を守るファイナンシャルプランナー。おひとりさま・おふたりさま×特有の課題・お金の問題の事例などが得意分野。企業の会計や大手金融機関での営業を経て、2015年に、保険や金融商品を販売しないFP事務所を開業。個別相談の他、企業・病院・大学などでの講演も行っている。

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