東京近隣県の市長“東京との格差”を懸念 人口流出や働き方への影響も

東京都が2024年度から始めた「高校の授業料の実質無償化」を発端として、東京と近隣3県の間で「税収の格差」を巡る意見の食い違いが続いています。東京に近接する県の市長からも、人口の流出や働き方への影響などさまざまな懸念の声が聞かれます。

東京・新宿区で5月14日に開かれた首都圏125自治体の区長や市長が集う会議で、東京都の小池知事は「皆さま方、一堂に会して情報を共有する。そして地域の力を高めていく。それによってそれぞれの市、区が発展につながっていく」と一致団結を呼びかけました。

しかし今、東京都と近隣県の間では「税収の格差」について意見の食い違いが起きています。神奈川県の黒岩知事は4月、「都道府県間の財政状況の違いにより、福祉や教育など住んでいる場所で大きな差がつくべきではない性質の行政サービスにおいて格差が生じている」と述べるなど、神奈川県・千葉県・埼玉県の3県は東京都が今年度から高校授業料の実質無償化を実施することに関し「自治体の税収の違いにより行政サービスの格差を生んでいる」と主張し、国に是正を求める事態となっています。

この動きに対し、東京都の小池知事は「行政サービスの違いは、地域ごとのプライオリティー(優先順位)の問題。これを財政の問題にすり替えるのは自治の観点からどうか」と反論し、行政サービスの違いは「税収の差」によるものではなく「各自治体の政策の優先順位の違い」からくるものだと主張しています。

では近隣県にある自治体のトップは、東京との財政や政策の違いをどう感じているのでしょうか。会議の会場で聞きました。

埼玉県草加市の山川市長は、東京都と隣接する市ならではの悩みを話します。

埼玉・草加市 山川百合子市長:「隣接しているが故に、東京に働きに行かれるというのはある。(「県境格差」を感じることは)あります。例えば、保育士の地域手当などが違うので、東京に行っちゃいますよね。隣接しているが故に」

都との政策の違いが働く場所の選択にも影響し、「県境格差」を生んでいると指摘しています。

さらに、人口流出を懸念する声もあります。

埼玉・川越市 川合善明市長:「東京都が教育を無償化するとかいろいろなことをすると、どうしても子どもを東京に通わせよう、あるいは都内に住もうという人が増えてくる。東京以外の地方としてはなんとか是正できないだろうかと皆さん思っているし、私も思っている」

神奈川・厚木市 山口貴裕市長:「子育て世帯からすれば、東京に魅力を感じて移り住む。そこで子育てしていくというのは、今後も大きく人口流出に表れてくるのではないかと懸念している」

各自治体からは是正を求める声が聞かれ、今後も議論は続きそうです。

<「東京との格差」各自治体の主張は>

改めて、近隣3県の知事の主張と小池知事の反論をみてみます。埼玉・千葉・神奈川の3県知事は高校の授業料実質無償化をはじめ、さまざまな施策を打ち出す東京と周辺自治体とでは「地域間の格差」が拡大していると主張しています。その背景として、経常的な収入に対する支出の割合が東京都は全国で最も低く、自由に使える財源が潤沢だと指摘しています。

これに対し小池知事は「財政上の努力を積み重ねてきたことで財源をひねり出している」と主張しています。これについて詳しくみてみると、経常的な収入に対する支出の割合は25年前の1999年の時点で、東京都は3県より高かったものの、事業の見直しなどによって支出を抑え、今では3県を下回ることができていると訴えています。都と近隣県のトップ同士で財政状況についての認識に食い違いが生じているのが現状です。

そして、14日に開催された「市長会」でも東京との財政格差による懸念を訴える声が上がりました。それが行政サービスの違いから、東京へ人口が流出してしまうのではないかといった懸念の声です。神奈川県厚木市の山口市長は「税制の格差は大きく影響がある。子育て世帯からすれば東京に魅力を感じて移り住むという流出が大きく表れるのでは」と危惧していて、埼玉県草加市の山川市長は「財政力の違いから同じようにはできない。地域手当の格差などから保育士が東京に働きに行ってしまう」と、地域間の格差から働き手不足にもつながってしまうのではという懸念を訴えていました。

これらの自治体から一様に聞かれるのは"東京への批判”ではなく、格差の是正を国に求める声でした。必要なのは国と自治体の連携といえそうです。

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