日本ではビデオ化されて以来、幻だった極限のスプラッター 最長版で完全復活 『ナイトメア』

© MCMLXXXI - Goldmine Productions Inc.

飯塚克味のホラー道 第79回『ナイトメア』

前回の『バタリアン』(1985)でも触れた80年代のホラーブームの時は、本当に山のようなソフトがレンタル店に並び、いくら見ても尽きることはなかった。やがて時代が過ぎ、いつか観ようと思っていたのにジャケが色褪せ、レンタル店も消滅していき、その機会を失ってしまった作品がいくつもある。今回、紹介する『ナイトメア』はまさにそんな一本で、VHSのジャケットは脳裏に焼き付いていたのに、作品そのものを観ることなく、こちらは歳を重ねてしまった。昨年、北米でカルト映画をリリースし続けるSEVERIN FILMSから4K化が実現し、5月にはついに国内版BDがリリースされ、字幕付きで観ることが叶った。

子どもの時に親がSMプレイをしているのを目撃してしまい、ショックのあまり上にいた女性の首を斧でぶった切り、続けて下になっていた父親の脳天にも斧を振り下ろし殺害したジョージ。精神が崩壊した彼は施設に身を寄せ、投薬治療を受けていた。だが彼は病院を抜け出し、殺りくを続けながら、故郷のフロリダへ向かい、ある家族に狙いを定める。

とにかくスプラッター描写が強烈で、ジョージが夢で見るベッドにある女性の生首が、カッと目を開く場面や、斧で首が切り落された後、首から血が噴き出る描写など、どれも手が込んでいて、目が離せない。監督のロマノ・スカヴォリーニはイタリアで1960年代から活躍していた人物で、CIAによる薬物を使った洗脳実験の記事を読み、そうした恐怖を描こうと本作のストーリーを組み立てた。実際の映画はベッドでの両親虐殺や、数々のスプラッターシーンのインパクトがあり過ぎて、本来描こうとしていたテーマが薄れているという気がしなくもないのだが…。

映画で描かれている出来事が現実なのか、夢なのか、曖昧な部分があり、時系列もいじっているせいか、パッと見、混乱するような構成は悪くない。これはもちろん意図して作られたものだ。監督は編集にも相当なこだわりがあったようで、編集マンの交代も行い、何度もやり直したと語っている。だが驚いたことに作品の完成後、監督は設定などの権利を製作側にあっさり売り払ってしまう。それが後に『エルム街の悪夢』(1984)へと発展していったそうなのだから、何がどう転ぶか世の中わからない。

© MCMLXXXI - Goldmine Productions Inc.

また『ゾンビ』(1978)などで有名な特殊メイクアップアーティスト、トム・サヴィーニの関与についても疑惑が投げかけられてきた本作だが、特典映像で本人が明確に特殊メイクには関わっていないことを宣言している(冒頭にチョイ役で出演はしている)。公開時はポスターに載った名前にテープを貼るなど対応がとられたようだが、結局、本編のクレジットはそのままで、特殊効果監督としてクレジットが載せられている。このことで世界市場に売れたのは間違いないだろう。トム・サヴィーニ本人も金を受け取っておけば良かったと言っている。

特典を見ると様々なエピソードが隠されている作品ではあるものの、当時の若い作り手たちのやる気が詰まった一本であることは、誰もが認めるところだ。スプラッターシーンは一切の手抜きをせず、しつこいくらいに丁寧に描き込んで、この手の映画が好きなファンには大いに満足感を与えてくれる。日本でビデオ化されたものは、大幅なカットが行われたバージョンだったそうだが、今回、ブルーレイに収録されているものは「米国公開版インターネガをベースに欠落部分を各国版プリントソースにより補完した4Kレストア最長バージョン」とあるので、現在観ることができるベストのものであると言い切れるだろう。

とはいえ、粒子感はすさまじく、お世辞にも今のデジタル作品と比べると高画質とは言えない素材であることは認識しておいてもらいたい。もちろん当時のビデオソフトに比べれば段違いのクオリティではある。北米版の4K UHDも観たが、却ってノイズが目立つので、ブルーレイがちょうどいいくらいだ。音声はリミックス5.1chとオリジナルのモノラルをW収録。5.1chは美しいメロディのテーマ曲など広がりはあるが、基本フロント寄りなので過度な期待はしない方がいいだろう。

いかにも80年代らしい空気感がいっぱいのスプラッターホラー。デジタルで作られた血まみれ描写に満足できないホラーマニアなら、大絶賛すること間違いなしの一本だ。是非、ブルーレイをゲットして、心ゆくまで堪能してほしい。


飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【商品情報】
ナイトメア -4Kレストア最長版-
発売日:2024年5月10日よりBlu-ray発売中
価格:5,500円 (税込)
発売元:株式会社ニューライン
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
© MCMLXXXI - Goldmine Productions Inc.

© 合同会社シングルライン