年金28万円の60代・元共働き夫婦、自慢の孫が「名門私立小学校」に合格し万歳!誇らしくて仕方なかったが…入学1年で「大後悔」の理由【CFPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

将来が不安な時代、子供にはいい教育を受けさせたいという家庭も多いでしょう。しかし、いい教育には、当然お金がかかるもので……。本記事では大内さん夫婦(仮名)の事例とともに、リタイア世代の教育費の援助における注意点について、FP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。

悠々暮らしていた60代夫婦、孫の私立合格で急展開

大内悟さん(仮名/68歳)は長年地元の工場で働き、65歳でリタイアしました。リタイア後は妻の絵美さん(仮名/68歳)とともに年金を受け取りながら生活しています。悟さんは会社員として務めあげ、妻の絵美さんは小学校の先生として働いていたため、夫婦の年金を合計すると約28万円程度と、比較的ゆとりを持った生活を送ることができていました。

しかし、2人の生活に大きな変化が訪れることになったことが、孫の葵ちゃん(仮名)が名門私立小学校に合格したことでした。「このまま有名大学に行き、一流企業か官僚に……」こう思い、喜んでいた大内さん夫婦でしたが、このことが夫婦の老後を大きく変えることになったのでした。

学費だけではない…予想外に大きな課外活動費

娘の智子さん(仮名)夫婦は当初小学校の学費のみで「これくらいならなんとか払えるだろう」と考えていましたが、想定外だったのは習い事に掛かる費用でした。年間100万円近い学費を払いながら、出費がかさんでいくのです。周りの子達が通っているからと英会話教室や水泳教室と、総額で教育費としてさらに年間160万円程度が掛かる計算に。

また、葵ちゃんの負担が少ないようにと、学校まで近い場所にある賃貸マンションに引っ越したためにそれまでよりも家賃は3万円程度アップ。智子さん夫婦の家計を圧迫していったのでした。

さらに、娘婿の健二さん(仮名)はちょうど葵ちゃんの入学と同時期に、働き方改革によって長時間残業が是正され、それまでの給与が大きく減額されてしまいます。こうなっては、家計は火の車です。

そこで、娘夫婦を少しでも助けようと大内さん夫婦は援助を始めます。渡す金額は加速度的に増えていき、結果として生活費や葵ちゃんの学費、習い事の費用は大内さん夫婦が自分たちの年金月28万円をほぼ全額渡すかたちとなっていました。大内さん夫婦も自分たちの首が絞まってきていることはわかっていましたが、援助を打ち切るにも打ちきれず預金はみるみる減っていきます。年金額が多いから大丈夫だろうと、自分たちの介護資金用に1,000万円ほど用意していたお金も残り300万円程度にまで減ってしまったのでした。

入学から1年後には、「もうこれ以上は限界……。自分たちの生活が立ち行かなくなってしまう」不安に駆られながらも、これから先の長い可愛い孫の将来のためと思うと、援助を打ち切れず、途方に暮れてしまいます。

「せっかく苦労して合格したのに、お金が理由で通えないなんてことになったら……。葵ちゃんがあまりに可哀そうだ。こんなこと思いたくないけれど、入学しないほうがよかったのかもしれない……」

子供に大人の都合で環境を変えることは避けたいが…

大内さんの問題点は、際限なく娘夫婦の生活費を援助してしまったことにあります。一時的に大変な状況を助けてあげたくなるのもいいですが、自分たちの生活資金を失ってしまっては本末転倒です。

せっかく入学した小学校を親の都合で転校させたくないという気持ちも理解できます。しかし、親の経済事情が変わっても維持したほうがいいかどうかという点を考えるべきでしょう。

基本的に子供に掛かるお金は親が責任を持ち支払うものです。もしも子供を転校させたくないのであれば、親である娘夫婦が自分たちでお金を借りるなど、用立てて子供を学校に通わせるということもできたことでしょう。

残業が減って収入が減ってしまったのであれば副業をするなどで家計を支えるという選択肢もあり、祖父母である大内さん夫妻が無理をして自分たちの生活を犠牲にしてまで援助する必要もなかったかもしれません。

娘夫婦にはほかにできることがありました。葵ちゃんに変わらず教育を受けさせたいのならば、なにをしたら実現できるのか、しっかりそれを可能にする計画が不足していたといえます。

援助を行う前に考えるべきこと

まず原則として、自分たちの子供といえども娘夫婦はすでに世帯を持ち、独立した大人です。自分のことは自分でなんとかするというのが大前提にあるべきでしょう。

困ったときに手助けしてあげるのもいいでしょうが、今回のケースにおいては、お金を渡しても根本的問題の解決にはまったくなりません。自分たちの生活設計をしっかり考えたうえで適切な金額にすべきで、感情的に判断せずに本当に援助が必要なのかを考慮したうえで行動に移す必要がありました。無計画なお金の使い方は親子ともに似ているのかもしれません。

また、娘夫婦を援助したいのであれば、自分たちも働いて収入を得るという選択肢もあります。手持ちのお金がなくなってから狼狽えるではなく、現状を踏まえて今後の方向性について家族間で話し合い、方向性を擦り合わせたうえでしっかり生活が成り立つように計画的に行動していけば大事な老後資金を失わずに済んだことでしょう。

どうすべきなのか、正解は人それぞれですが、現状を踏まえ、援助を行う計画的に行動していくべきだったといえます。

少子化でも私立を望む親は多い…

教育図書21が行った首都圏の私立小学校60校への調査によると、2023年度入学の応募者は過去5年で最多の2万3,033人(併願を含む)となっています。少子化といわれるなかでも、教育にお金を掛けたいと考える親も多いようです。

一般的な公立の学校と違い、受験のために勉強をしてきた子供たちが通う学校ですので、勉強への意識が高い子が多く、伸びやすい環境といえます。しかし、令和3年度の調査によると、公立小学校に通う子供の1年間の学費、課外活動に掛かる費用は約6万5,000円に対し、私立小学校は約96万円と高額になっており、一般の小学校に比べ負担は大きなものになります。さらに、それに加えて習い事の費用も考えておく必要があるのです。

教育費は人生の三大支出とも呼ばれる大きなもの。そして私立の学校は特に大きくなります。どの程度の支出が見込まれ、自分たちの収入で十分支払うことができるのか、難しいようならばどのように収入を補填するか……これらについてしっかり考えたうえで進路を決定する必要があります。

物価高、実質賃金も24ヵ月連続のマイナスが続くなど、経済が低迷する日本。先の見えない世の中だからこそ、よりよい教育を我が子に受けさせようという親が増えているのでしょう。しかしその親の家計が苦しい場合、リタイア世代を頼るケースが多いのもうなずけます。

小川 洋平

FP相談ネット

CFP

© 株式会社幻冬舎ゴールドオンライン