青森県弘前市出身の人気ピアニスト五条院凌(ごじょういん・りょう)さん。3年前、動画投稿サイトTikTok(ティックトック)に「降臨」し、テレビ出演で一気に名前を知られるように。「この世を麗しい音色で癒やす」べく、唯一無二の音世界に聴衆をいざなう。
ゴージャスなお衣装に、「おヤング」「メルシーございます」といった独特のお言葉遣い。ひとたび鍵盤に指を置けば、力強いビートのオリジナル曲、正統派のワルツ、「おうっせぇわ」など疾走感あふれるポップスと多彩に奏でる。卓越したテクニックと情感的なアレンジはもちろん、バレエを舞うかのような演奏スタイルも印象的だ。
詳細は非公表。素顔はベールに包まれたままだが、そのルーツは津軽にある。
「0.3条院(3歳)」でピアノとクラシックバレエを始めた。自身にとって、幼少期を過ごした津軽は「修行の地」だったという。武士が戦に備え素振りをして鍛錬するかのごとく、ピアノを練習する日々。音楽の道を志し、「1.5条院(15歳)」で上京、音楽高校を経て音楽大学に進学した。
ただ、津軽は五条院さんの感性を育んだ「お魂のお古里」でもある。「私(わたくし)の曲はお美しい自然からおインスパイアを受けています。桜が散る様が切なく苦しい、とか、雪は美しいけれど残酷だな、とか…。そういう感情が形成されたのはお津軽の地でこのお肉体が育ったからなのでしょう」
特に、夏の弘前ねぷたは強烈な原体験だ。「あの太鼓のビートが聞こえてくると、情熱の炎の威力が増すよう」と五条院さん。雄壮な太鼓と軽やかな笛のはやしは、テーマである「麗しく勇ましい音世界」に直結している。
五条院さんが「降臨」した2021年春、世界はコロナ禍で混乱していた。人々の心には悲しみが満ち、自身にも別れが重なって感情の行き場を失っていたという。ふと、ある思いが湧き上がった。「私の放つ、優しく麗しい音で、地球を潤し、みなさまを抱きしめてあげたい」
覚醒した五条院さんは演奏動画を投稿。リクエストに応えたカバー曲や、コメントされたシチュエーションに合わせた自作曲などを奏で続けた。22年、芸能人が特技で「王者」を目指すバラエティー番組「TEPPEN」に出演したことで人気が一気に拡大。これまでに、オリジナルやカバーを集めたアルバムをリリースしたほか、今年は弘前での凱旋(がいせん)公演を皮切りに全国各地でコンサートを開催中だ。
4月からは地元テレビ局の夕方ニュースで、五条院さん作曲の「明日はお晴れ」が流れるようになった。雪に覆われる津軽の冬、厚い雲を破り太陽が顔を出すと、降り積もった雪は解け、雪かきに汗を流していた人々を笑顔にする-。そんな情景を音に落とし込み、「みなさま、本日もよく生き抜きました」との感謝の気持ちを込めた。
近年はファンの愛に触れる機会が増え、作風が変化してきたという。その中で作った「明日はお晴れ」は「お初と言っていいくらい、はつらつとしたおハッピーな曲になりました」。
夢は「おベルサイユ宮殿でおコンサートを開き、海を越えたみなさまにもファンタジーを届ける」こと。聴く人の喜怒哀楽に寄り添う音を奏で続けたい-との願いを胸に、きょうもピアノに向かう。