Blackmagic Design導入事例:山崎貴監督作品「ゴジラ-1.0」の場合

Blackmagic Designによると、山崎貴監督の最新作で第96回アカデミー賞視覚効果部門を受賞した「ゴジラ-1.0」のグレーディングに、DaVinci Resolve StudioおよびDaVinci Resolve Advanced Panelが使用されたという。グレーディングはARTONE FILMのカラリスト石山将弘氏が、DaVinci Resolve Advanced Panelを使用して行った。

山崎貴監督が監督、脚本、VFXを務めた「ゴジラ-1.0」は、ゴジラ70周年記念作品として製作され、映画公開後は日本のみならず海外でも好評を博し、全世界興行収入が175億円を突破し(2024年3月末時点)、第96回アカデミー賞視覚効果部門も受賞した。

ARTONE FILMの代表取締役兼カラリストの石山将弘氏は、次のようにコメントしている。

石山氏:山崎監督とは前作の「ゴーストブック」で初めてグレーディングを担当させていただいて、その作品の制作中にゴジラのお話もいただきました。

石山氏:時代背景が第二次世界大戦直後の昭和ということで、監督からも時代感を出したいというリクエストがありました。ただ、古い時代を表現するとしても、よくありがちな色が抜けたトーンにはしたくないということで、色はしっかりありつつも時代感を意識しながら撮影用のLUTをDaVinci Resolveで作りました。

同作はデジタルで撮影されているが、石山氏はフィルムの持つ「厚み」を再現することで同作の時代背景の雰囲気を表現した。

石山氏:デジタルって全部が綺麗に映りすぎちゃっているんですよね。フィルムはそうではなくて、いい部分はものすごくいいけど、欠如している部分もある。だからデジタルの繊細な部分を壊してグラデーションを作っていくような感じでグレーディングしていきました。

ハイライトににじみを作ったり柔らかくしたりとか。肌の質感を出すために、R(赤)側の輝度もかなり調整しています。

輝度を落とすことで人の顔にどんどんコントラストがつくんです。時代背景を考えるとスキントーンを美しくみせる必要はないので、そんな風に雰囲気のあるものを作っていきました。

また、グレーディング時にLUTは2種類を使いわけたという。

石山氏:1つは銀座の街のシーンなどで使ったコダック系のフィルムのルックに近い、暗部にR(赤)がのったもので、これはテストグレーディングのときにできたものです。もう1つは「わだつみ作戦」という海上でのゴジラとの最後の戦いのシーン用で、ブリーチバイパスと言われるハイライトの色が抜けた硬い冷たいルックにして戦闘シーンの緊迫感を表現しました。

人物の表情をちゃんと見せたいシーンでは、目の部分のマスクを取ってトラッキングしてDaVinci Resolveのミッドトーンディテールやテクスチャーポップなどの機能を使ってディテールの調整をしています。

人の目って結構大事なので、重要なシーンに関しては全カット調整していますね。映画やドラマは物語が一番大事です。監督の演出をどう表現するかを考えて、色が物語を邪魔しないように意識しながら調整しました。

同作はポストプロダクションをACESワークフローで行った。

石山氏:VFXを手がけた白組もACESについての知識が豊富で、自分も今までにDaVinci Resolveを使ったACESでのグレーディングを多くしてきたので知見があり、今回ACESワークフローで進めようということになりました。LUTを作って全ての部署が同じ色を見られるようにしました。

ACESワークフローで作業していたおかげで、急にドルビーシネマ版を作ることになったときにハイライトも暗部もクリップされずに対応できたのは良かったですね。

白組チームに素材を渡すときに素材の(色の)ばらつきを整えるマッチグレーディングをしました。

海のシーンは特に天候のばらつきがすごかったんです。そのままでCGを作ってコンポジットしてってなるとイメージが湧かないと思ったので、マッチグレーディングしたものをVFXのプレート出しをして白組チームに渡し、そこでCGを作ってもらうというワークフローでした。

また、同作はカラー版のほかモノクロ版の「ゴジラ -1.0 マイナスカラー」も作られており、そちらも石山氏がグレーディングを担当した。モノクロ版の作成にあたり、山崎監督からはライカのモノクロ写真のような光と影のはっきりした、大事な部分だけが圧倒的に見えているイメージをリクエストされたという。

石山氏:例えば、海のシーンだとRGB(赤、緑、青)を分離して色を抜いていくんですが、R(赤)以外の輝度を落としてコントラストをつけていきました。そうすると海が真っ黒になるんです。そこに人の顔だけがぽっと出てくる。

山崎さんから、この海怖いね、って言われたんです。映画を見た人が本能的に恐怖や感動を感じるものを目指してグレーディングしていたので、その体感ができるものができたと思います。

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