90歳の田原総一朗が作る「男の朝食」は萩原健一「傷だらけの天使」のワンシーンに重なる(本橋信宏)

田原総一朗氏(C)日刊ゲンダイ

【本橋信宏 萌える火曜日】

90歳の男がキッチンに立ち、朝食をつくりだした。

四角いフライパンに水を入れ、生卵を落とす。R1ヨーグルトと食べかけのあんパンを冷蔵庫から取り出し、ヨーグルトと飲みかけの野菜ジュースを飲み干す。

空のグラスを3つ並べ、爽健美茶とリンゴジュース、ジャージー牛乳をなみなみと注ぐ。冷凍の食パンをトースターで焼くうちに、四角いフライパンにポーチドエッグが仕上がる。冷蔵庫からレタス丸ごとを取り出し、無造作にむしり、皿に盛る。トーストが焼き上がると、バターをナイフでえぐり、たっぷりと厚めに塗りたくり頬張る。ジャージー牛乳、爽健美茶とリンゴジュースを飲み干し、食べかけのあんパンを食し、大粒イチゴでフィニッシュ。

90歳の男の朝食が終わった。

男の名は田原総一朗。

言論界を代表する大ベテランである。朝食にはたんぱく質、ビタミン、水分、糖分、とその日一日を生き抜く栄養素が巧みに取り入れられている。

いま、「田原総一朗の朝食」という動画が密かな人気を博している。私がこの動画を知ったのは3年前。朝日新聞デジタルで現在147万再生回数に達している。人気があるため、毎年このシリーズは更新され、現在は田原総一朗チャンネルに引き継がれ、最新版は3週間で50万再生回数に達している。

天下の田原総一朗もネットでは、老害だの滑舌がわるいだの、手厳しい意見が多いが、田原さんが朝食を用意して黙々と食べるシリーズは、スタート時から圧倒的な好感を呼んでいる。書き込みの一部。

「この動画、謎の中毒性があり、何度も見にきてしまう」「なんじゃこの背中で全てを語るモーニングルーティーン、かっこよすぎる」「バター塗ったあと、パンを投げ置くシーン狂おしいほど好き」

オープニング映像は、急きょ撮られたものだった

これに似た動画を思い出した。1974年に放送された伝説のドラマ「傷だらけの天使」のオープニングで、萩原健一が軽快なBGMに乗って朝食を食べるシーンだ。ショーケンが新聞紙をエプロン代わりにして、トマト、コンビーフ、魚肉ソーセージを頬張り、牛乳で流し込む。18歳だった私の周りでショーケンを真似した朝食スタイルがはやったものだ。あれも男1人飯だった。このオープニング映像は、急きょ撮られたもので、街にコンビニなどなかった時代、助監督が近所の乾物屋に行って、そろえたものだった。

田原総一朗と萩原健一。男の朝飯がこれほど人を惹きつけるとは。

男の1人朝飯はハードボイルドなのだ。生き抜く原点なのだ。だから人を惹きつける。

(本橋信宏/作家)

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