『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』民主主義の終焉を描く政治劇

『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』あらすじ

ジェダイ見習いであるアナキン・スカイウォーカーは、パドメ・アミダラの護衛を命じられる。そして、しだいに彼女への恋心に気づくと同時に、自身のダークサイドに目覚めていく。一方、銀河に全面戦争の脅威が迫る中、オビ=ワン・ケノービは、密かにクローンの軍隊が製造されている光景を目にする…。

ドラマティックなラブ・ストーリー


『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』(02)の仮タイトルは、『ジャー・ジャーの大冒険』だった。もちろんこれは、『ファントム・メナス』(99)に初登場したジャー・ジャー・ビンクスの不人気を、ジョージ・ルーカス自ら皮肉ったもの。このプリクエル・トリロジー第2作では、陽気なグンガン人が物語から完全に撤退し、1作目よりもハードな物語が展開する。

本作の舞台は、『ファントム・メナス』(99)から10年後。9歳の子供だったアナキン・スカイウォーカーは、オビ=ワン・ケノービのパダワン(訓練生)となり、才能に溢れたジェダイへと成長していた。そして惑星ナブーの女王パドメ・アミダラは、元老院議員に転身して政治家として奔走する日々。久々に再会した二人は、旧交を温め、惹かれあい、やがて恋に落ちていく。

それはまるで、「ロミオとジュリエット」のような“禁じられた恋”。古いジェダイの掟では、感情を大きく揺さぶり、ダークサイドに堕ちる危険性を孕んでいることから、恋愛は許されていない。オリジナル・トリロジーでも、ハン・ソロとレイア姫の身分違いの恋が描かれていたが、今作はより悲劇的でドラマティックなラブ・ストーリーが綴られるのだ。

ポール・ウォーカー、クリスチャン・ベイル、ヒース・レジャー、レオナルド・ディカプリオなどの候補をしりぞけてアナキン役を勝ち取ったのは、ヘイデン・クリステンセン。彼の魅力はなんといっても、その眼力。その射るような眼差しで見つめられたら、相手はたちまちのうちに心を掴まれてしまう。この映画でパドメは、彼の熱い眼差しに耐えられず何度も視線を逸らす。「そんな目で見ないで。落ち着かないわ」と言わせてしまう。ジェダイは相手の心を操るマインドトリックの使い手だが、アナキンは眼力だけで相手の心を狂わすのである。

だがアナキンとパドメのロマンスは、世間的にはあまり高い評価を得られなかったようで、ゴールデンラズベリー賞では最低スクリーンカップル賞にノミネートされてしまった。ジョージ・ルーカスは制作前にその懸念を示していたが、悪い形でそれが的中してしまったことになる。

「次回作はラブストーリーだが、それがファンにどう受け止められるかはわからない。彼らは『スター・ウォーズ』を1種類の映画として考えているからね。ラブストーリーという性質上、子供向けの映画ではなくなっている。だが、同じ年齢層をターゲットにしていることには変わりない」(*1)

この映画を改めて観てみると、アナキンとパドメの恋が燃え上がるまでがやや性急に感じられるし、「君を想わぬ日はなかった。だが再会してみると苦しみだけだ」とか、「僕の胸は君への想いでいっぱいだ」とか、陳腐と捉えかねないセリフも多い。ハン・ソロとレイアの場合は、お互いが意地っ張りでなかなか本心を打ち明けられず、ツンデレな関係が観客をやきもきさせていた。だが、中世の騎士とお姫様のような関係性のアナキンとパドメになると、古典文学のようなセリフのオンパレードに、観ているこちら側が気恥ずかしくなってしまうのである。

個人的な意見をいえば、『クローンの攻撃』の見どころは恋愛要素ではない。ジオノーシスで繰り広げられる、終盤のアクション乱れ打ちである。

怒涛のクライマックス


思えば前作『ファントム・メナス』のクライマックスでは、4つの戦いが同時並行で描かれていた。

①大量のバトル・ドロイドと戦うジャー・ジャー・ビンクスらグンガン族

②スターファイターで空中戦を繰り広げるアナキン・スカイウォーカー

③ダース・モールとライトセーバーを交えるクワイ=ガン・ジンとオビ=ワン・ケノービ

④ナブーの宮廷を奪還しようとするアミダラたち

だが『クローンの攻撃』ではクロス・カッティングを放棄して、一直線に物語を進めていく。『スター・ウォーズ』シリーズのなかでも、本作のクライマックスのボリュームはケタ違いだ。分離主義勢力陣営に囚われたオビ=ワン・ケノービを救出しようと、砂漠の惑星ジオノーシスに向かうアナキンとパドメ。そこからおよそ40分、息をつく暇もなく、様々なアイディアに溢れたアクションが展開される。

①ドロイド工場への潜入

②処刑されそうになるオビ=ワンたち

③ジェダイとドロイド軍との戦闘

④オビ・ワン&アナキン vs. ドゥークー伯爵の対決

⑤ヨーダ vs. ドゥークー伯爵の対決

①のドロイド工場のシークエンスは、オリジナル脚本にはないものだった。アナキンとパドメはジオノーシスに到着するとすぐに捕らえられ、②のシークエンスに直結するはずだったのだが、ルーカスが「このままではややテンポに欠ける」という判断を下し、急遽アクションを追加したのである。盟友スティーヴン・スピルバーグの『マイノリティ・リポート』(02)でも、主人公のトム・クルーズが無人自動車工場に逃げこむシーンがあったが、同趣の面白さに満ちている。

『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』(C)2024 Lucasfilm Ltd.

②では、コロッセオのような闘技場で公開処刑されそうになるオビ=ワンたちが、知恵と機転を利かせてなんとか窮地を脱出。メイス・ウィンドゥをはじめジェダイたちが集結し、ジェダイ軍とドロイド軍の集団戦が始まる。普通であればここで終幕を迎えても十分お腹いっぱいなのだが、ここから④のオビ・ワン&アナキン vs. ドゥークー伯爵のライトセーバー対決も待っているのだから、たまらない。

圧倒的なパワーでオビ・ワンもアナキンも蹴散らすドゥークー伯爵。すると今度はマスター・ヨーダが現れ、銀河最強とも謳われたその剣技を振るう。何重にも詰め込まれたアクションの質と量によって、ジョージ・ルーカスは最高のエンターテインメントを提供する。

アナキンとパドメのロマンスの不評がたたってか、『クローンの攻撃』はシリーズの中でも人気が低い。エスクァイアUS版が行ったシリーズ9作品+スピンオフ2作品の全11作品のランキング(*2)では、最下位の11位に沈んでいる。だが筆者個人としては、アクション・エンターテインメントに徹しようとするルーカスの情熱が最も感じられるのが、この作品。自分、断固エピソード2推しです。

そして本作には、もうひとつの顔がある。民主主義の終焉を描く政治劇としての顔だ。

パルパティーンの立身出世物語


『スター・ウォーズ』のプリクエル・トリロジーは、アナキン・スカイウォーカーがダークサイドへと堕ちていくまでを描いたジェダイの悲劇だが、同時にダース・シディアスことパルパティーンが権謀術数をめぐらして元老院最高議長の座に就き、全銀河を支配するまでを描いた“立身出世物語”でもある。

まるでケヴィン・スペイシーが大統領の座を狙う野心家下院議員を演じる「ハウス・オブ・カード 野望の階段」(13〜18)のように、あの手この手を繰り出して政権の中枢へと切り込んでいく。『ファントム・メナス』ではその気配を感じさせるだけだったが、『クローンの攻撃』ではパルパティーンの黒い野望がいよいよ爆発する。

「鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス」、「鳴かぬなら 鳴かせてみせよう ホトトギス」、「鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス」は、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の性格を端的に表した句として有名だが、パルパティーンは確実に「鳴くまで待とう」の家康タイプだろう。時が熟すまでは十年経っても動かず、自分がシスであることはおくびにも出さずに、ゆっくりと時間をかけて元老院での信頼を築いていく。

表向きは、銀河共和国からの離脱を目指す分離主義勢力との対立姿勢を見せておきながら、その陰ではドゥークー伯爵を操ったり、クローン・トルーパーの大兵団を生産したり、精神面に脆さのあるアナキンを懐柔したり、その裏工作ぶりには舌を巻く。政治家としてめちゃめちゃ優秀なのだ。

『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』予告

パルパティーンが巧みなのは、『ファントム・メナス』にも登場した通商連合と結託したこと。彼らは銀河系の交易を取り仕切る貿易カルテルで、GAFAばりの巨大企業。共和国で辺境の星との交易にも課税をするべきか否かの議論が噴出すると、ナブーの航路を封鎖して事態を牽制するという暴挙にも出ている。ひたすら利潤を追い求める企業体で、貨物を護るために独自の軍事力も有している通商連合は、非常に都合のいいパートナー。政治家ではなく企業を仲間に入れるという発想が、策士たる所以だろう。

彼が目指すのは、協議制による民主的な政治システムを放棄し、皇帝が全ての権力を掌握する独裁体制。しかも彼は、正当な選挙によってそれを実現させてしまう。多くの支持を集めて元老院最高議長に就任すると、クローン戦争時に非常時大権を発動して軍隊を創設。元老院を解散させて自ら皇帝を名乗り、銀河帝国を築き上げる(『エピソード3/シスの復讐』)。そのプロセスは、まるでアドルフ・ヒトラーを見ているようだ。

民主主義によって選ばれた最高権力者によって、民主主義が崩壊してしまう。アナキンとパドメのロマンス、怒涛のクライマックスと見どころの多い『クローンの攻撃』だが、この映画は“民主主義の終焉を描く政治劇”としての骨格をまとった作品でもあるのだ。

(*1)https://www.empireonline.com/movies/features/star-wars-archive-george-lucas-1999-interview/

(*2)https://www.esquire.com/entertainment/movies/g19457800/all-star-wars-movies-ranked

文:竹島ルイ

映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。

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