【韓流】『サムシクおじさん』主演のカンヌ受賞俳優ソン・ガンホ、おすすめ映画ベスト選!〈後編〉『パラサイト 半地下の家族』『ベイビー・ブローカー』ほか

『パラサイト 半地下の家族』冒頭、チェ・ウシクとパク・ソジュンが扮する登場人物がソジュを飲んだシュポ

ディズニープラス スターで5月15日(水)より独占配信されるドラマ『サムシクおじさん』主演で話題の国民的俳優ソン・ガンホ。

1967年1月17日、釜山文化圏の金海(キメ)生まれで、舞台を経て1996年に映画デビュー。2000年以降、数々のヒットを飛ばし、2020年には主演作『パラサイト 半地下の家族』で米国アカデミー作品賞を、2022年には主演作『ベイビー・ブローカー』でカンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞している。

ここでは、ソン・ガンホの魅力がわかる主な出演作を振り返ってみよう。(記事全2回のうち後編、カッコ内の年号は韓国公開年)

■『優雅な世界』(2007年)、妻役に『シスターズ』三姉妹の母を演じたパク・チヨン

気持ちだけはよき夫よき父でありたい男がヤクザから足を洗おうとする話。ソン・ガンホの人間味あるヤクザの演技が楽しめる良作だ。カナダで暮らす家族から送られてきたビデオレターを見ながら涙ぐむシーンは、本当は同情すべきところなのだが、どうしても笑ってしまう。

意志の強い妻役は、のちに『シスターズ』の3姉妹のやさぐれた母や、『犯罪都市 THE ROUNDUP』の会長夫人を演じる女優パク・チヨン。彼女の目力演技はソン・ガンホのお人好しヤクザのキャラをよく引き立てていた。

■『シークレット・サンシャイン』(2007年)、ソン・ガンホの本物の慶尚道訛りが聞ける

夫を亡くし、田舎町に息子と二人で引っ越してきたが、不幸にも息子まで失ってしまう女(チョン・ドヨン)。都会風を吹かせるあまり地元民には嫌われ、救いを求めた宗教にも裏切られる。

例外は自分を好いてくれる冴えない男やもめ(ソン・ガンホ)だけだが、彼のやることなすこと何ひとつ心に響かない。脂っこい慶尚道訛り(金海の生まれ育ちなので本物)。小市民で俗物。追いつめられた女が彼に助けを求めようとしたとき、男は仕事場で一人カラオケを楽しんでいた。

ソン・ガンホは後味がよい役を演じることが多いのだが、『シークレット・サンシャイン』は『殺人の追憶』同様、余韻というか、モヤモヤを感じさせる作品だ。

なお、本作には、この十年後に『保安官』で主役を射止めるイ・ソンミンがチョイ役で出ているので探してみてほしい。

■『グッド・バッド・ウィアード』(2008年) イ・ビョンホン、チョン・ウソンとの豪華競演!

原題『いい奴、悪い奴、変な奴』の変な奴をソン・ガンホがのびのびと演じている。いい奴にチョン・ウソン、悪い奴にイ・ビョンホン。脇にマ・ドンソク、イ・ソンミンという超豪華キャスト。日本植民地時代の満州原野を舞台にした西部劇といった趣で、歴史のことなど考えず頭を空っぽにして観るべき作品だ。

■『義兄弟 SECRET REUNION』(2010年)、カン・ドンウォンとの初共演作

韓国の諜報員(ソン・ガンホ)と北朝鮮の諜報員(カン・ドンウォン)が互いの正体に気づかぬふりをしながらともに働き、同じ部屋で暮らす。寝食をともにし、共同作業を積み重ねるうちに心を開いていく。

国は分断されていても同じ民族である二人がいっしょに祭祀を行う場面では、韓国人として涙を止められなかった。ソン・ガンホとカン・ドンウォンは大変相性がよく、お互いのよいところが出た作品だ。のちの『ベイビー・ブローカー』に続く3度目の共演に期待したい。

なお、本作で、カン・ドンウォンの妻を演じたイ・ソユンは、のちに『賢い医師生活』にも登場するので探してみてほしい。

『義兄弟 SECRET REUNION』終盤の銃撃戦のシーンが撮影されたソウルの「ホテルPJ」前

■『青い塩』(2011年)、珍しい二枚目的な役柄

ソン・ガンホが演じたヤクザから足を洗ったキャラクターは、前出の『優雅な世界』に近いのだが、相手役が若く美しい元狙撃選手(シン・セギョン)ということもあり、異例の二枚目的役柄である。

シン・セギョンの妹分役に扮したイ・ソムは、のちに『小公女』(2018年)でアン・ジェホンとのカップルを演じた女優だ。

■『弁護人』(2013年)、廬武鉉大統領の弁護士時代を熱演

ソン・ガンホが廬武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の弁護士時代を演じた作品。見せ場は法廷での舌戦だ。

弁護士「学生(イム・シワン)が本を読んで討論したことが国家保安法違反かどうか、証人はどう判断したのですか? 根拠は何ですか?」

証人「私ではなく国家が判断するのです」

弁護士「国家? 証人の言う国家とは何ですか?」

証人「弁護士のくせに国家も知らんのか!?」

弁護士「よく知っていますよ。(中略)国の主権は国民にあり、すべての権力は国民に由来するのです。国家とは国民のことなのです!」

ソン・ガンホをはじめ、キム・ヨンエ(故人)、イム・シワン、オ・ダルス、イ・ソンミン、ソン・ヨンチャンら主要な俳優の多くが、釜山や慶尚道の出身なので、本物の南東部訛りを聞くことができるのも興味深い。

■『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017年)、『梟ーフクロウー』のリュ・ジュンヨルと共演

ソウルのタクシー運転手(ソン・ガンホ)がひょんなことからドイツ人記者を乗せて光州に向かい、民主化運動とそれを過剰鎮圧する軍の暴挙を目の当たりにする。凄絶な物語なのだが、食べ物に関係する二つの場面も見ものだ。

ひとつはソウルの運転手と記者と大学生(リュ・ジュンヨル)が、光州のタクシー運転手(ユ・ヘジン)とその妻(イ・ジョンウン)の家で夕飯をごちそうになる場面。

「大事なお客さんなのに、これしかおかずがないのか?」 と、ホスト側の光州の運転手は言うが、お膳には牛肉らしきものの煮物、テンジャンチゲ、南道名物の芥子菜キムチ、サワガニの醤油漬け、どんぐりの澱粉を固めたもの、蓮根の煮物、豆モヤシやホウレン草のナムル、大根の干し葉のスープに山盛りのごはんが載っている。じゅうぶん過ぎるボリュームだ。

「HOT!」 と、芥子菜キムチの辛さにびっくりした記者がみんなに笑いかける。緊張が解け、小さなお膳を分かち合いながらみんなが笑う。とても美しい光景だった。

もうひとつは運転手(ソン・ガンホ)が大衆食堂でククスを食べる場面。小さな娘を一人ソウルの自宅で留守番させている彼は、ドイツ人記者を残して光州を立つ。途中、順天バスターミナルの食堂でククス(そうめん)を頼む。食堂の他の客たちの会話から光州の悲惨な状況が外部に伝わっていないことを知り、さまざまな思いがあふれてくるが、それをククスごと飲み込もうとする。

「お腹が減っていたのね。これもどうぞ」

女将がサービスで小さなおにぎりをくれる。

「美味しいです」

理不尽な目に遭いながらも他者への施しを忘れない彼の地の人々のやさしさにふれた運転手が、本当の意味で田舎の情を知った瞬間である。

光州民主化運動の過剰鎮圧で多くの犠牲者を出した旧・全羅南道庁前

■『パラサイト 半地下の家族』(2019年)、気はやさしいが生活力のないアボジを好演

映画の終盤、自尊心がズタズタにされる運転手(ソン・ガンホ)の表情演技に胸が痛むが、前半のダメなお父さんぶりはいつもの彼で安心して見ていられる。

のちに『ドクタースランプ』でハヌルの母を演じるチョ・ヨジョン扮する妻から足蹴にされたり、おやつが買えないのでパンをもそもそ食べたり、息子(チェ・ウシク)から演技指導を受けたりするシーンひとつひとつが可愛らしく、何度観ても飽きない。

■『ベイビー・ブローカー』(2022年)、カン・ドンウォンと二度目の共演

本作のソン・ガンホの演技でカンヌの主演男優賞が獲れるなら、彼の過去作品には国際舞台で通用する演技がもっとあるのに……と思ってしまった作品だ。

ただ、韓国の街の描写に外国人監督(是枝裕和)らしい視点が感じられるので、そのなかにソン・ガンホがいるという意味では新鮮だった。なかでも、地方の安モーテルで縫物をするシーンや、ぬいぐるみを持ったまま夜の商店街を歩くシーンはとくに印象に残っている。

終盤、しんみりするシーンで使われた観覧車は仁川の月尾テーマパークのものだが、本作公開の翌年、NetflixのKゾンビリアリティドラマ『ゾンビバース』では、大変コミカルな使われ方をしているので、その落差を見るのもおもしろいかもしれない。

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