【韓流】『サムシクおじさん』で連続ドラマ初出演!国民的俳優ソン・ガンホ、おすすめ映画ベスト選!〈前編〉デビュー作から傑作『グエムル』まで

『グエムル-漢江の怪物-』に登場する漢江の大橋

韓国の国民的俳優ソン・ガンホの連続ドラマ初出演&主演作『サムシクおじさん』が、ディズニープラス スターにて5月15日(水)より独占配信される。

ソン・ガンホは1967年1月17日、釜山文化圏の金海(キメ)生まれ。舞台を経て1996年に映画デビューし、2000年以降、数々のヒットを飛ばしている。2020年には主演作『パラサイト 半地下の家族』で米国アカデミー作品賞を、2022年には主演作『ベイビー・ブローカー』でカンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞した。

そこで、今回はソン・ガンホの魅力がわかる主な出演作を振り返ってみよう。(記事全2回のうち前編、カッコ内の年号は韓国公開年)

■『豚が井戸に落ちた日』(1996年)、『ソウルの春』キム・ウィソンの推薦で出演

ソン・ガンホの映画デビュー作が、作風的にあまり親和性がなさそうなホン・サンス監督のデビュー作というのがおもしろい。

主演は、韓国で1300万人以上を動員し、日本では8月に公開される『ソウルの春』でもいい味を出しているベテラン俳優キム・ウィソン。二人は大学の先輩後輩に扮しているのだが、キム・ウィソンが陰鬱なキャラ、ソン・ガンホがクールなキャラという違和感が逆に新鮮である。

■『グリーンフィッシュ』(1997年) 、『浪漫ドクター キム・サブ』のハン・ソッキュと共演

ハン・ソッキュが今のソン・ガンホのように映画界をけん引していた時代の作品。二人は『ムービング』のムン・ソングン扮するヤクザの親分の手下役。

何かと対立する役なのだが、この頃のソン・ガンホは無名なのに、当時のトップスター、ハン・ソッキュに引けを取らない存在感を示していた。

■『クワイエット・ファミリー』(1998年)、『破墓』『カジノ』のチェ・ミンシクと共演

ソン・ガンホとチェ・ミンシクという、今となっては実現が難しい超豪華キャスト。軽薄な息子がソン・ガンホ、少し足りない叔父がチェ・ミンシクというメリハリのある役柄で笑わせてくれた。

のちに『シュリ』でソン・ガンホが韓国の諜報員、チェ・ミンシクが北朝鮮の諜報員としてシリアスに対峙することを思うと、大変貴重な共演である。

■『シュリ』(1999年)ソン・ガンホのシリアスな演技が新鮮!

ハン・ソッキュとともに二枚目の諜報員をふつうに演じているので、今見ると笑ってしまう。二人が『グリーンフィッシュ』のときのような鮮明なコントラストを成していないので、ミスキャストでは?と思ってしまわなくもない。

そして、なんと本作の終盤には『ソウルの春』のファン・ジョンミンが出てくるので探してみてほしい。ハン・ソッキュ、ソン・ガンホ、チェ・ミンシク、ファン・ジョンミンが同じ映画に出た時代もあったのだ。

■『反則王』(2000年)初主演作、イケメン(!)ソン・ガンホに注目

初主演作。33歳のスリムなソン・ガンホが、なかなかの美男子だったことがわかる作品。ぼんくら銀行員がパワハラ上司に復讐するためにプロレス道場に入門するという話で、たっぷり笑わせてくれる。

そのひとつが、スポーツ用品店で急所を保護するファウルカップを口に着けようとして、店員に止められるシーン。じつはこの店員、のちに『新しき世界』や『愛の不時着』(タクシー運転手役)に登場するパク・ソンウンだ。

終盤は覆面をかぶって戦うため得意の顔芸が見せられないにも関わらず、アクションだけで笑わせ、唸らせる表現力はさすがとしか言いようがない。

■『JSA』(2000年)『私たちのブルース』イ・ビョンホンとの感動共演

ソン・ガンホが唯一、北朝鮮側の人間に扮した作品。のちに『鋼鉄の雨』(2017年)でチョン・ウソンがククス(麺)を食べる場面もそうだったが、南北分断を描いた映画では韓国側の人間と北朝鮮側の人間が心を通わせるきっかけとして食事のシーンがよく登場する。緊張から弛緩への演出である。

しかし、『JSA』では食事のシーンで逆に弛緩から緊張感が演出されたことで映画が引き締まった。

北朝鮮側の歩哨小屋で南北の兵士が兄弟のように楽しく過ごす。韓国のチョコパイを旨い旨いとほおばる北側兵士(ソン・ガンホ)に、南側の兵士(イ・ビョンホン)がうっかり「南に来れば腹いっぱい食えるよ」と言ってしまう。

北側兵士はチョコパイを吐き出して真顔で次のように言う。

「いいか、よく聞け。オレの夢はいつか我が共和国が南朝鮮より旨い菓子を作ることだ。その日までこのチョコパイで我慢する」

「………わかったよ。まったく口の減らないおやじだ」

そう南側兵士が言うと再び和やかな雰囲気になる。ソン・ガンホの上手さが際立った、本作前半のハイライトシーンだ。

『JSA』に登場した板門店を北朝鮮側から撮影

■『殺人の追憶』(2003年)イ・ジェフン主演『捜査班長 1958』に通じる珍場面

1980年代の脂っこい田舎刑事はソン・ガンホのハマり役だった。知性派の都会刑事(キム・サンギョン)や、冷血な印象の容疑者(パク・ヘイル)との対比で、ソン・ガンホの泥臭い顔芸が堪能できる。

陰鬱であるはずの取り調べのシーンで、ソン・ガンホ扮する田舎刑事がチャジャンミョンを食べながら、当時の人気ドラマ『捜査班長』のテーマ曲をうれしそうに口ずさむシーンは必見だ。この刑事ドラマは、現在、イ・ジェフン主演でリメイクされ、『捜査班長 1958』のタイトルで配信されている。

『殺人の追憶』は終盤、血の気の多い田舎刑事が冷静になってゆき、冷静な都会刑事が乱心してゆくという、コントラストの逆転が見せ場である

■『大統領の理髪師』(2004年)『ソウルの春』の予習として観ておきたい作品

今夏、日本でも公開されるファン・ジョンミン&チョン・ウソン主演の大ヒット映画『ソウルの春』の予習として観ておくべき作品。

1970~1980年代、李承晩(イ・スンマン)大統領、朴正煕(パク・チョンヒ)大統領、全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領と続いた軍事独裁政権に翻弄される、おかしくも悲しい理髪師をソン・ガンホが演じている。

現代史映画にたびたび登場する朴正煕大統領(朴槿恵大統領の父)は、ソン・ジェホ、イ・ソンミン、キム・ジョンスなど多くの俳優が演じているが、本作のチョ・ヨンジンがもっとも二枚目だと言われていて、凡庸な理髪師と好対照をなしている。

ディズニープラスで配信される『サムシクおじさん』予告編を見ると、舞台は1960年代。ソン・ガンホ扮するフィクサーやピョン・ヨハン扮する理想主義者の「国民を飢えさせない」といったようなセリフを聞くと、どうしても李承晩大統領や朴正煕大統領を思い出してしまうのだが、果たして……。

『大統領の理髪師』や『ソウルの春』に登場する光化門と朝鮮総督府(写真は1990年代前半の撮影)
韓国の劇場にて、映画『ソウルの春』のポスター

■『グエムル-漢江の怪物-』(2006年)パク・ヘイルやペ・ドゥナの兄役を好演

今はラーメンコンビニで人気の漢江の売店で居眠りしながら店番。寝癖の付いた金髪。膝の出たジャージ姿。売り物のスルメをつまみ食いする非常識……。ソン・ガンホ扮するダメ男の演技は説得力抜群だった。

見どころは娘をさらって行った怪物との戦いを通して真人間になってゆく過程。ラストシーンでは完全に父親になった男の顔にグッとくる。

弟を演じたのは『別れる決心』のパク・ヘイル。妹を演じたのは『ベイビー・ブローカー』のペ・ドゥナ。娘を演じたのは、のちに『スノーピアサー』『サムジンカンパニー1995』や『マイ・スイート・ハニー』に出演するコ・アソン。『スノーピアサー』では、再びソン・ガンホの娘に扮している。

(後編につづく)

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