一般職が「社宅制度」利用できないのは“間接的な男女差別” ガラス大手AGC子会社に賠償命令

判決後、記者会見に臨む弁護団(5月13日霞が関/弁護士JP編集部)

大手ガラスメーカー・AGC株式会社の100%子会社「AGCグリーンテック株式会社」の社宅制度や賃金をめぐる男女差別について争われた訴訟で、東京地裁は13日、同社に対し原告女性(同社一般職)へ約380万円の賠償金を支払うよう命じた。

社宅制度の“男女格差”「最大24倍」

同社には、賃金の8割などが負担される借り上げ社宅制度があるが、これを利用できるのは総合職に限られている。一般職には住宅手当が支払われるのみで、両者の間には最大24倍ほどの格差が生じていた。

総合職にのみ社宅制度の利用が認められていることについて、同社は「総合職(営業職)の採用にあたって他社との差別化のために社宅制度を設けている」「営業職には転勤がある」ことを理由としていたが、実際には転勤していない総合職や、営業職でない人も社宅制度を利用していたという。

この事実を踏まえて、裁判所は「営業職の採用競争における優位性の確保という観点から、社宅制度の利用を総合職に限定する必要性や合理性を根拠づけることは困難である」と判断。

また同社は、総合職・一般職などに分けて雇用管理する「コース別雇用管理制度」を導入しているが、総合職は過去1名を除きすべて男性であり、一般職は1名以外すべて女性の従業員だったことから、「事実上男性従業員のみに適用される福利厚生の措置として社宅制度の運用を続け、女性従業員に相当程度の不利益を与えていることについて、合理的理由は認められない」として、同社へ賠償命令を言い渡した。

“間接差別”認める初の判決、弁護団「非常に意義ある」

今回裁判所が認めたのは、男女雇用機会均等法第7条が定める「間接差別」。すなわち会社側に直接的な差別の意図がなくとも、男女間で著しい不利益を与えている状態であるということだ。

間接差別をめぐっては、過去にも家族手当について争われた「日産自動車事件」(1989年1月26日東京地裁判決/1990年8月東京高裁和解成立)、基本給について争われた「三陽物産事件」(1994年6月16日東京地裁判決/1995年7月東京高裁和解成立)がある。

しかし2007年に改正男女雇用機会均等法が施行され、同法第7条によって「間接差別」そのものが法規定された後、それを認める判決が言い渡されたのは今回が初めてだ。

なお同法第7条は、厚生労働省令が定める3つの措置のみを「間接差別」として明記するにとどまっている。

1.労働者の募集又は採用に関する措置であつて、労働者の身長、体重又は体力に関する事由を要件とするもの

2.労働者の募集若しくは採用、昇進又は職種の変更に関する措置であつて、労働者の住居の移転を伴う配置転換に応じることができることを要件とするもの

3.労働者の昇進に関する措置であつて、労働者が勤務する事業場と異なる事業場に配置転換された経験があることを要件とするもの

今回、間接差別があったと認められた社宅制度は上記で直接的な対象とされていないことから、弁護団の平井康太弁護士は「間接差別の適用対象を広げるという意味で非常に意義のある判決。今後、他の労働条件についても間接差別として違法と言われる余地が増えてきたと言える」と期待を寄せた。

裁判所の現状「基本給については門戸が狭い」

なお今回、原告女性は社宅制度に加えて「同じ一般職の男性との間に賃金格差がある」ことについても訴えていた。しかし裁判所は「当該男性社員の職務能力に関する評価や、前職での賃金額を踏まえたものである」などとして、これを認めなかった。

弁護団の小林譲二弁護士は「基本給に話が及ぶと、裁判所は途端に門戸が狭くなる」と指摘。男女間の賃金格差について、問題の根深さを感じさせた。

ちなみに今回、原告女性は地域ユニオン(働いている地域で一人からでも加入できる労働組合)への相談がきっかけで提訴し、会社側の社宅制度が間接差別であったと認められるにいたっている。労働条件に悩みを抱えている人は、まず地域ユニオンに相談してみることで、解決への糸口が見つかるかもしれない。

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