“最後の砦”で起きた衝撃的問題 国立病院機構で患者に“性的虐待” 筋ジストロフィー患者「入院患者は逃げ場がない」

安心できる場所であるべき病院で、複数の職員が身体的な自由がきかない患者に性的な虐待を繰り返していた問題。同じような難病を抱える男性の思いを取材した。

陰部や胸を触るなどの性的な虐待

国立病院機構「大牟田病院」で明らかになった職員による入院患者への虐待。この病院では、遅くとも3年ほど前から看護師と介護士の男性5人が、入院していた男女11人に対し、陰部や胸を触るなど性的な虐待が疑われる行為を繰り返していた。

国立病院機構大牟田病院・川崎雅之院長(記者会見2024年5月2日):
当院職員による利用者様への虐待事案が発生しましたこと。不安やご心配をおかけして誠に申し訳ございません。

被害者は、全身の筋肉が萎縮する国指定の難病「筋ジストロフィー」など、いずれも身体的な障害があったという。

生まれつき国指定の難病、「脊髄性筋萎縮症」を患っている溝口伸之さん(50)。
筋力が低下し、身体のほとんどを動かすことができない。

溝口伸之さん:
小さいときからハイハイとかしたことなくて、1歳のときにこの病気の診断を受け、歩いたこともないし。私が小学校に入る頃は、いまと違って地域の学校で障害のある人を受け入れるような社会環境はなかったので、学校に通うために施設に入って。国立病院には小学3年のときに移って、それから高校の時期を除いて29歳くらいまで入院していました。

筋ジストロフィー専門病棟などに入院していた期間は、あわせて15年ほど。
現在は、1日多いときで8時間、ヘルパーの介助を受けながら、自宅で奥さんと暮らしている。

筋ジストロフィーなど神経筋系の難病専門の病院は、福岡県内に大牟田病院しかない。

「入院している患者にとっては、なかなか在宅に帰ることが難しい方もいっぱいいるはずなので、入院患者にとっては逃げ場がない。それでも、またこの病院に頼らざるを得ないという、そういった意味では諦めの思いもあるかもしれない」と、“最後の砦”ともいえる今回の病院で起きた問題に、溝口さんもショックを受けている。

職員の倫理観を高めることが必要

実は溝口さん、20年前から訪問介護事業を経営していて、いまでは訪問介護に加え、短期の入所施設なども展開している。

溝口さんは「これまでの僕自身の経験を生かして、こういった障害者の在宅生活を支援する会社をやってみたいと思ったというか、またそういった社会環境をつくっていくことが、まさに僕自身がこの体に生まれた意味なのかなと。そう考えるようになってやり始めました」と、自らが介護事業を経営するに至った経緯について語った。

また、溝口さんは日本筋ジストロフィー協会の福岡県支部長も務めている。
今回の大牟田病院で起きたような問題を繰り返さないためには、事業者のチェック体制を機能させるとともに職員一人一人の倫理観を高めることが必要だと話す。

溝口伸行さん:
福祉の仕事って、「人を幸せにする仕事なんだ」って、そういう仕事を選んだはずなのに、その根本を忘れてしまえば、ひとりよがりな支援になったり、こうした虐待事件が起こったりしてしまう。だから絶対に忘れたらいけないってことを、最初にたたき込むことが大事。

大牟田病院に頼らざるを得ない現状

筋ジストロフィーなど神経筋系の難病ケアにあたる専門病院は、福岡県内には大牟田病院だけで、難病患者にとってまさに“最後の砦”といえる医療機関だ。

今回の問題を受けて県内の筋ジストロフィー患者から溝口さんのもとに「大牟田病院で診察を受けたくない」と不信感を示す声が寄せられていて、「他の病院を紹介してほしい」と訴える患者が出てきているという。
ただ、県内に筋ジストロフィーの専門医は少なく、いまだ虐待の調査が終わっていない大牟田病院に頼らざるを得ないのが現状だ。

日本筋ジストロフィー協会は5月9日、大牟田病院に抗議文を出している。
病院側は社会へ与えた影響の重さを認識して、原因究明と再発防止に全力を注ぐ必要がある。

(テレビ西日本)

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