日本代表2選手の離脱で覚醒「10試合連続得点」FW、「大胆」トップ下、「得点を生む」左サイド【リーグ2連覇の浦和L「アジア制覇」舞台裏と未来】(2)

仁川現代戦で同点弾を決めた清家貴子。選手層の厚さがアジア制覇、そしてリーグ2連覇につながった。撮影/原壮史(Sony α1使用)

三菱重工浦和レッズレディースが、アジアの頂点に立った。AFC女子クラブ選手権で、優勝したのだ。さらに、その2日後、WEリーグで連覇を果たした。2つのタイトルを獲得した浦和Lの知られざる「激闘の裏側」と、「クラブの未来」について、サッカージャーナリスト後藤健生が熱く語った。

■新旧なでしこ2人が負傷「長期離脱」も…

平坦な道ではなかった。

とくに、1月に行われた皇后杯全日本女子選手権大会で、主力の安藤梢と猶本光の2人が負傷して長期離脱となり、リーグ戦後半はこの2人を欠いての戦いとなった。

安藤は、すでに41歳の大ベテランだが、スピードなどは全盛期と変わらず、今シーズンは主に左サイドのアタッカーとして起用され、ゴールに対する独特の嗅覚を生かして、こぼれ球を決めて得点を重ねていた。

一方、トップ下の猶本も現在は日本代表にもすっかり定着。かつては「自分が結果を残さなくては」と肩に力が入ることが多かったが、最近は余裕を持ってプレーできるようになって一段と成長していた。

しかし、この主力2人を欠いても、三菱重工浦和レッズレディースのチーム力はほとんど落ちなかった。

得点源の安藤が不在となったことで覚醒したのが、右サイドアタッカーの清家貴子だ。ドリブルでの突破力やスピード、フィジカル能力の高さには定評のある選手だったが、得点力に目覚め、なんと「トップリーグで10試合連続得点」という男女を通じて初めてという大記録を樹立。連続得点記録は「10」でストップしたものの、1試合を挟んでその後の試合でも得点を積み重ねており、さらに日本代表(なでしこジャパン)のアメリカ遠征でも、アメリカ戦で開始直後に先制ゴールを決めている。

また、猶本が入っていたトップ下にはダイナミックなプレーが得意な塩越柚歩が入って、うまく両サイドを使いながら攻撃のタクトを振るっている。また、安藤のいた左サイドでは伊藤美紀が素晴らしいプレーをしている。伊藤は本来はサイドアタッカーというよりもセントラルMFタイプだけに、サイドから中央のポジションに入って、そこで得点につながる仕事をこなしている。まさに、仁川戦の同点ゴールをお膳立てしたプレーがそうだった。

■「厚い」ボランチの選手層と「台頭する」若手

浦和のボランチの選手層はきわめて厚く、チーム内競争も激しい。このポジションでは、ここ数年、豊富な運動量と粘り強い守備が特徴のキャプテンの柴田華絵が不動の存在となっている。その柴田の相棒として、最近は栗島朱里が主に起用されている。こちらも、中盤のスペースを埋め、奪ったボールを早く動かして前線につなぐ堅実なプレーが特徴の選手。そして、塩越もボランチとして使えるし、伊藤も本来はセントラルMFとして能力を発揮する選手だけに、試合の状況によって使い分けることができる。

さらに、19歳の角田楓佳(角田涼太朗=コルトレイク=の妹)も台頭。角田は、ボールを受けてから少しドリブルで持ち出したり、パスの角度を大きく変えたりして攻撃のリズムを変えることができる選手。まだ経験は少ないが、攻撃のバリエーションを増やすことができる。

来シーズンに向けて、安藤や猶本が帰ってきたとしたら、MFでのポジション争いはますます激しくなることだろう。

■「興味深い」新監督率いる2チームとの対戦

リーグ2連覇を決めた浦和だが、第21節には最後まで優勝を争っていたINAC神戸との対戦があり、さらに最終節ではかつての日本の女子サッカーの中心的存在だった日テレ・東京ベレーザとの対戦となる。

両チームとも、今シーズンは新監督(I神戸のジョルディ・フェロン監督。ベレーザの松田岳夫監督)を迎え、昨シーズンまでとは異なったスタイルのサッカーに挑んでいるところだ。

I神戸は昨年のカウンター型サッカーから、スペイン人監督らしいポゼッション重視型に切り替えを図っているし、ベレーザはかつての徹底したテクニックとパスを優先するスタイルから、最近はプレースピードやプレー強度を重視し、ハイプレスやクロスを多用するスタイルに変化してきている。

それだけに、I神戸もベレーザもチームの完成度は高くなく、ようやく新監督が思い描く新スタイルの全容を選手が理解しようとしているところなのだ。

浦和の優勝は決まってしまったが、I神戸やベレーザとの対戦は、来シーズンへの展望という意味も含めて興味深い試合となることだろう。

© 株式会社双葉社