能登半島地震から5カ月。今考えたい、大災害のあと、子どもの心の不安への寄り添い方【俳優・加藤貴子が専門家に聞く】

2024年に入り能登半島地震や四国の地震などの大きな地震が起きました。地震や水害など自然災害が続き、被災した子どもたちの心のケアが注目されています。9歳と6歳の2人の男の子を育てる俳優の加藤貴子さんが、育児にかかわる悩みや気になることについて専門家に聞く連載第24回は、精神科医の白川美也子先生に、災害のあとの子どものトラウマや、子どもへの接し方などについて聞きました。

「白衣の人を見ると震える」「宿題しようとするとかたまる」・・・発達期の子どもに引き起こるトラウマとは【俳優・加藤貴子が専門家に聞く】

学校や遊び、地域活動への参加が子どもの心の回復を助ける

加藤さん(以下敬称略) 毎年のように地震や水害などが起きていて、被災した子どもの心のケアが気になっています。幼児期に大きな災害があったとき、子どもの心にどんな影響があるのか、教えてください。

白川先生(以下敬称略) 幼い子どもに見られる症状としては、繰り返しそのできごとについて話す、親と離れること(分離)をすごく怖がる、いらいらする様子が見られる、などです。もう少し大きくなると、怒りやうつなどの感情、悲嘆や孤独感が見られます。

子どもに、睡眠障害や悪夢、眠ることを怖がる、頭痛・腹痛などの身体的な痛み、いつも心配をしている、トイレに行けなくなったりおもらしをしたり、つめかみをするようになったり、同じ遊びを繰り返す、暴力的なことばかり話す、友だちや家族からのひきこもり、感情が出てこない、などの様子が見られたら要注意です。災害後の場合、親も大変な状況になると思いますが、親が不安定になると、子どもにもトラウマが起きやすいことがわかっています。

加藤 親が不安定だと子どものトラウマが起きやすい、とのことですが、災害のあとは住環境の変化や、家族のけがなど、親も日常とはかけ離れた生活になると思います。もしそうなったら、子どもの心の回復にはどんな支援が必要ですか?

白川 私は東日本大震災後の学校支援をしていました。1泊2日で岩手県へ行って、トラウマ外来の診察を行ったり、学校で子どもやその親に会ったり、スクールカウンセラーの指導をしたり、といった支援を月に2回、2年間行いました。
そのとき感じたのは地域が大切だということ。避難所が学校になったときには、そこで人とのつながりが維持されていました。また、お祭りで「虎舞(とらまい)」という虎にふんした人が獅子舞のように舞い踊る東北地方の伝統芸能があるのですが、それを復興する動きがあったことは地域に暮らす家族と子どもの心の回復を助けたと思います。被災後の環境から、お祭りの復興を通して、みなで体験を共有し、その土地に暮らす楽しみや、地域との心のつながりが元気をもたらすのかもしれません。また、学校生活や遊びを通して、子ども同士や子どもをとりまく人たちの関係性を回復させる支援をすることも大切です。

さらに、子どもにとっては、支援を受けるだけではなくて、子ども自身がほかのだれかを助けること、力になること、役に立つことが回復につながることもあります。地域のために、学校の行事に自分が属し、参加していると感じられることが、子ども自身の心を回復することになるのです。

子どものトラウマは遊びに現れることも

加藤 災害によって子どもに起こるPTSD(心的外傷後ストレス障害)は「地震ごっこ」「津波ごっこ」など、遊びの中に現れることがあると聞きました。そんな遊びが見られたらどうしたらいいんでしょう?

白川 「地震ごっこ」「津波ごっこ」などはポスト・トラウマティックプレイと言われます。これは、トラウマとなっている体験や目撃したことを再現することです。脅迫的に駆り立てられるように、かたい表情で「そのときのこと」を繰り返します。

私が東日本大震災の被災地で診察をしていたとき、被災地の子どもたちの遊びで目にした話をします。子どもたちは「町があります」と積み木を並べて町を作って、そこに「津波が来ました」と積み木の町を手で押し倒し、流される様子を表しました。そして、また積み木を並べて町を作り、その町がまた津波で流される、それを繰り返していました。これは、トラウマのフラッシュバックを自分の心の外で起こしているような状態です。

一方、都内在住で当時3歳だった私の3番目の子どもは、テレビで見た津波の様子を再現して遊んだときに、「町がありました。津波が来ました。くまのママが船に乗ってやってきて、いろんな人を助けることができて、みんな安心しました」という物語の遊びをしていました。 これが、ポスト・トラウマティックプレイと想像のごっこ遊びの違いです。

加藤 「ごっこ」といっても、普通の遊びの様子とはだいぶ違うんですね。

白川 ポスト・トラウマティックプレイをする子どもに対して大切にしたいのは、子どもを安心に導いてあげることです。ポスト・トラウマティックプレイは、自分の意志にかかわらず強迫的に反復的に思い出してしまうことを、外の世界に投影して再現しているんです。だから、もし子どもにそんな様子が見られたら、「こんな遊びはやめなさい!」などとしからないこと、子どもの遊びを見て無視しないこと、そして、そっと別の楽しい活動に誘うことが大切です。たとえば、「ねえ、お母さんは積み木でお城を作り始めたんだけど、一緒にやってみない?」というように、自然にポスト・トラウマティックプレイから気をそらしてあげましょう。

身近な人を失った子どもには、事実を説明することが大切

加藤 もしも災害によって身近な人を亡くしてしまった場合、子どもにはどんなふうに寄り添ってあげるといいか教えてください。

白川 子どもにとって身近な人が亡くなってしまったとしたら、大人がショックを与えないようにそれについて子どもに伝えなかったとしても、実は子どもは気づいていることが多いものです。事実を詳細にすべて教える必要はありませんが、 もし突然の家族の死があったら、隠さないで子どもの発達に合った説明をすることはとても大事です。

子どもは、発達途中で特有のもののとらえかたがあるために、たとえば「おばあちゃんを助けてあげられなかった」「自分のせいだ」と思ってしまうことがあります。子どもがそんなことを考えなくて済むためにも、できごとについて最低限の説明をすることが必要です。子どもが聞きたいことを聞けるような関係性や環境でいることも大事。子どもの年齢によっては、絵を描いたり、図解をしたりしてわかりやすく教えてあげるのもいいかもしれません。

加藤 災害などによる身近な人の突然の死は、子どもにとってトラウマになりやすいのでしょうか?

白川 たとえば、大好きなおばあちゃんが90歳を過ぎてだんだんベッドから起きられなり、やがて家族みんなで見送ったという場合に比べ、昨日まで元気だったおばあちゃんが水害で土砂くずれが起きて突然亡くなった、という場合では、非常にショックが大きいですよね。
そのような突然の死によるショッキングな喪失は、トラウマティック・グリーフ(トラウマ的な悲嘆)といいます。

グリーフ(悲嘆)とは、大切なものを喪失した体験によって起こる気持ちの変化や身体の反応で、自然で正常なことです。さらに、死別などに伴う痛みや悲しみを表すとともに、その喪失を受け入れて、また前を向いて歩み始めるまでの回復の過程のことでもあります。

通常の死別では、悲しみとともにおばあちゃんをしのびながら、初七日や四十九日や一周忌などを経て少しずつおばあちゃんの死を受け入れて乗り越える過程をたどります。しかし、トラウマティック・グリーフでは通常の悲嘆の過程をたどらなくなってしまいます。四十九日と聞いただけでもかたまって考えられなくなってしまったり、おばあちゃんの誕生日になるとつらくなってしまったり、写真を見るとボロボロ泣いてしまうといったことが起こることがあります。

加藤 子どもにそんな心配な様子が見られたら、どう接してあげたらいいのでしょうか。

白川 段階的に説明してあげることが大切です。まずは死ってどんなことなのか、絵本などを読んであげたりして、子どもの発達にあった説明をします。そして、たとえばですが、いつも本を読んでくれたおばあちゃんとの思い出や、一緒にお買い物に行った場所を思い出して悲しんでいいんだよ、と伝えてあげましょう。

悲しみの段階を過ぎたら、「おばあちゃんと一緒に食べたおやつがおいしかったね」「こんな遊びをして楽しかったね」といい思い出を語り合います。そして、最終的には、亡くなった人との以前の関係を手放すことも必要になります。「もうおばあちゃんは二度と抱っこしてくれないし、お話もできないよ」「これまでおばあちゃんがしてくれていたことは、代わりにおじいちゃんがしてくれるよ」「だからおばあちゃんのことを忘れていっていいんだよ」などと話してあげましょう。

もちろん、親自身が自分の悲嘆を進めることも必要です。親も身近な人を失ったことを嘆いて悲しんでいいのです。そして、子どもに「忘れていいんだよ」と伝えてあげることで、親自身もその人との関係性の変容を自分に許すことができます。

加藤 災害に限らず、事故などで突然家族を失った子どもにも、同じように伝えてあげることができそうです。ありがとうございました。

お話/加藤貴子さん、白川美也子先生 撮影/アベユキヘ 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

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震災支援に携わった白川先生だからこその、子どものリアルなトラウマの現れ方や、心の回復のために必要なことを知ることができたのではないでしょうか。

●記事の内容は2024年4月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

白川美也子先生(しらかわみやこ)

PROFILE
精神科医、臨床心理士。こころとからだ・光の花クリニック院長。浜松医科大学卒業後、国立病院機構天竜病院小児神経科・精神科医長、浜松市精神保健福祉センター所長、国立精神・神経センター臨床研究基盤研究員、昭和大学精神医学教室特任助教を経て、東日本大震災の被災者支援と地域における子どもの臨床的支援・研究に携わる。2013年にクリニックを開業。

加藤貴子さん(かとうたかこ)

PROFILE
1970年生まれ。1990年に芸能界デビューして以降、数々の作品に出演。代表作として『温泉へ行こう』シリーズ(TBS系)、『新・科捜研の女』シリーズ(テレビ朝日系)、『花より男子』(TBS系)などがある。

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