川崎フロンターレがアウェイの地で大敗したJ1リーグ第14節。サガン鳥栖に5失点を許して敗れた試合後、サポーターは『鉄のハート』で迎えた。ブーイングでも怒号でもなく、川崎フロンターレらしく鼓舞したのだ。
筆者がその光景を見て思い出したのは、2022年10月5日のカシマスタジアムでの岩政大樹監督(当時)の言葉だ。この日、鹿島アントラーズはヴァンフォーレ甲府に天皇杯準決勝で敗れた。その試合後、サポーターと話し合いになった指揮官はこう話していた。
「簡単に変わるもんじゃないよ。俺たちが失ったものはたくさんあるよ。取り返すのに時間がかかるよ」
新たに変革を目指すチームにあって、それがなかなか勝利に結びつかない。指揮官は雨に打たれながら時間がかかることを、そして、共闘することを訴えた。
そして、川崎フロンターレや横浜F・マリノスを例にも挙げていた。当時のタイトルを獲得していた神奈川県の両チームがそれまでに苦労を重ねたように、すぐに結果は出ないと諭したのだ。
その川崎フロンターレは、ここまでの近年、さまざまな形で主力選手が抜けている。今季は、昨年12月に戦った天皇杯決勝のスターティングメンバーの半数近い5人が退団。当然、チーム作りは継続とは呼べないところから始まった。
そうなれば、チーム作りには時間がかかるのも当然といえる。川崎サポーターが鳥栖戦後に見せた行動は、イチからチーム作りに挑む選手やコーチ陣を励まし、そして、鼓舞するものに見えた。
■「下を向いている時間はない」
川崎に入団するまでに多くのチームを渡り歩いた瀬川祐輔にサポーターの姿について聞くと、こう言葉を発した。
「コールリーダーの方が”俺ららがついているから”と言ってくれて……。それに応えるのが僕らの仕事。チャントを歌ってくれた姿を焼き付けて、ガンバに乗り込まなければいけない。結果で返すしかない」
すでに5失点した状況でピッチに送り込まれた瀬川は、ゴールを奪うことだけを目標としていた。その気持ちは叶わなかったが、だからこそ、次のガンバ大阪戦に視線を向ける。終わった結果は変えられないが、次の試合はどうにかできるからだ。
それは、先発フル出場した山田新も同じだ。
「このままじゃいけない」
そう話すと、「ふがいない試合をしてしまったので、申し訳ない気持ちになりますけど、あんなに背中を押してくれたので、下を向いている時間はない。次に向けて準備をするしかない」と続ける。
チームによって、選手やサポーターの“カラー”がある。川崎の場合、それは共闘だ。そして、いかに前向きで次に挑めるか、そして、その気持ちで勝利を掴めるかが求められる。それが、選手を前向きにしている。
鳥栖戦後に『バラバラ』を歌うことはできなかった。しかし、“くじけない”ための『鉄のハート』を改めて確認することができた。中3日と与えられた時間は少ないが、勝利への気持ちを5月19日のG大阪戦で昇華させる。
(取材・文/中地拓也)