【社説】歴史的な円安 国力低下は放置できない

歴史的な円安に歯止めがかからない。円安ドル高は原材料の輸入価格を押し上げ、一段の物価上昇を招く。30年ぶりの大幅な賃上げの効果が打ち消され、個人消費をさらに冷え込ませかねない。

過度な円安が日本経済にマイナスの影響を及ぼすのは明らかだ。政府・日銀に的確な対応を求めたい。

円相場は年初の1ドル=142円台から下落が続き、4月29日に160円台となって34年ぶりの安値を記録した。政府・日銀による市場介入とみられる動きで一時151円台まで戻した後、再び156円台に値下がりした。

円安基調は今なお続いている。為替相場の動向には注意が必要だ。

乱高下のきっかけとなったのは、日銀による金融緩和策の維持と植田和男総裁の記者会見での発言である。

円安の進行について植田氏が「基調的な物価上昇率に大きな影響は与えていない」と述べたことが、円安を容認したと市場で受け止められ、円売りが加速した。結果から見れば、不用意な発言だったと言わざるを得ない。

植田氏は今月7日に岸田文雄首相と会談した後、円安について「日銀の政策運営上、十分注視していくことを確認した」と述べ軌道修正した。市場との対話に細心の注意を払ってもらいたい。

円安の主因は、日米の金融政策の違いである。インフレ対策で金利を高水準に設定している米国と、低水準を維持している日本の金利差が取引材料になっている。

円安は輸出企業の業績を押し上げ、インバウンド(訪日客)の観光に追い風となる。円安誘導が政府の基本姿勢だが、海外生産の拡大で以前ほどメリットは大きくない。

一方、石油や食品など輸入価格の上昇により、企業活動全般と国民生活が受けるデメリットは大きい。

円安ドル高の是正や円安誘導の見直しを求める声は、恩恵を受けるメーカーや経済団体トップからも上がる。

「異常な円安で、日本の国力そのものが危険にさらされる」「為替は日本の力を評価する一つの指標で、いくら何でも150円を超えるのは安過ぎる」。こうした発言の背景には日本経済の地盤沈下に対する危機感がある。

政府は、アベノミクスから続く金融緩和頼みの経済政策に終止符を打ち、内需主導で経済を立て直すべきだ。そのためには、前年割れが24カ月続く実質賃金をプラスに転換させなければならない。

上場企業の2024年3月期決算発表は「過去最高」が相次ぐ。株主配当重視から労働者の待遇改善へ分配の見直しが必要だ。下請けや取引先への配慮も欠かせない。

円安の是正へ政府・日銀にできることは限られるが、これ以上の国力低下は放置できない。円安誘導と決別し、金融政策の正常化と財政健全化に地道に取り組むしかない。

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