【夏場所】かつて所属部屋閉鎖に直面した力士が振り返る転籍の功罪「本当に充実していた」

伊勢ヶ浜部屋へ転籍した伯桜鵬は紫雷(手前)を小手投げで下し、星を2勝2敗の五分に戻した

大相撲夏場所(東京・両国国技館)で熱戦が繰り広げられる中、旧宮城野部屋の力士たちが新天地から土俵に臨んでいる。同部屋は元幕内北青鵬の暴力問題により、3月の春場所後に閉鎖。師匠だった宮城野親方(元横綱白鵬)をはじめ、十両伯桜鵬ら力士全員が伊勢ヶ浜部屋へ転籍した。部屋の吸収合併は、どのような影響をもたらすのか。かつて所属部屋消滅に直面した元優勝力士が、自身の経験を振り返った。

今から14年前、宮城野部屋と同じように所属部屋消滅の憂き目にあった力士たちがいる。2010年5月、不祥事の影響で木瀬部屋の閉鎖が決定。力士全員が北の湖部屋へ転籍した。〝不可抗力〟で起きた部屋の吸収合併により、生活環境は激変。その中で、飛躍のきっかけをつかんだ力士がいた。後に幕尻優勝を果たす、千田川親方(37=元幕内徳勝龍)だ。

新たな師匠となった北の湖親方(元横綱)との出会いが、その後の相撲人生に大きな影響を及ぼした。千田川親方は「(転籍は)幕下上位のころ。朝稽古が終わって、ちゃんこを食べている時に、北の湖親方から『お前は自分で押し相撲だと思っているかもしれないけど、左四つだ』と言われて…。えーっ!と思った」と当時を振り返る。

もともと「根は左四つ」の自覚はあったものの、組む展開になると負けてばかり。自分でも組んだら負けと思い込む中、大横綱の指摘は〝金言〟となった。「北の湖親方の若いころの映像を見ると、突っ張ってからの左四つ。その大横綱に言われたら自分でもやってみようと思うし、そこから左四つでも自信を持っていけるようになった。突っ張りだけじゃなく左四つもできれば、相撲の幅が広がりますよね」

北の湖部屋で過ごした約2年間は、千田川親方にとって大きな財産となった。20年初場所では、幕内優勝を達成。「北の湖部屋で十両に上がれて、2年弱ですけど本当に充実していた。親方だけじゃなく、兄弟子も快く迎えてくれて。間違いなく行って良かったし、あれがなかったら今もない。いい経験をさせてもらいました」と感謝の思いを口にした。

夏場所4日目の15日、宮城野部屋から伊勢ヶ浜部屋へ転籍した十両伯桜鵬が十両紫雷を小手投げで下し、星を2勝2敗の五分に戻した。2日目に右腕を負傷したが「気持ちで負けてはいけない」ときっぱり。場所前には、同部屋となった横綱照ノ富士に胸を借り「近くに横綱がいるのはありがたい。今までの自分の甘さ、弱さを痛感した」と新たな環境を前向きにとらえた。

現時点で宮城野部屋が再開する見通しは立っていない。それでも、力士たちにとって新天地での経験は今後の糧となるはずだ。

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