「そごうクアラルンプール店」の健闘は“瓢箪から駒” 日本側が主導権を握らないのがカギ?【日本ブランドの妄想と苦戦】

そごうクアラルンプール店(C)日刊ゲンダイ

【日本ブランドの妄想と苦戦】#3

地元市民を魅了するショッピングモールとは、どういうものだろう。マレーシアの人口(約3350万人)の6割弱を占めるマレー系住民の間で圧倒的に支持されるのは、ローカル資本の「パビリオン」や「スリア」である。首都クアラルンプールのモールに共通するのは“建物中央の吹き抜けの空間”で、シーズンや行事ごとに各モールは空間演出を競い合う。「ワクワクするような買い物空間」のプロデュースは日本資本もかなわない。

こうした中で、市中心部北側に立地する「そごうクアラルンプール店」の健闘ぶりは意外だった。ウイークデーの夕方、マレー人のカップルや家族が、吸い込まれるようにして続々と店に入っていく。どのフロアも客でいっぱいだ。大衆目線の売り場づくりからしても日本人主導でないことは一目でわかる。

調べてみると、同店にはこんな歴史があった。

「そごうクアラルンプール店」は1994年1月に高級小売店(マレーシア初出店)として創業したが、旧そごうグループの経営破綻を受け、そごうマレーシア現地法人の顧問弁護士だったアンドリュー・リム氏が2002年に事業を継承する。商標ライセンスによる運営で、現在、そごう・西武の資本は入っていない――。

富裕層狙いが的外れの場合も

確かに日本では今、インバウンドが盛り返し、日本ブランドが人気で、一部の百貨店も好調だ。しかし、海外では日本からそのまま輸出した日本ブランドがウケるとは限らない。ましてや「富裕層狙い」も、立地によっては的外れなマーケティングになりかねない。海外の日系商業施設で扱われる日本ブランドの商品は、関税や物流コスト、駐在員経費などで高額になるが、見た目も機能も大差なければ、わざわざ高い日本ブランドを買う理由もない。日系の商業施設には地元ニーズにマッチしない高額商品がズラリと並んでいる。

「そごうクアラルンプール店」は“餅は餅屋”の好事例。日本側が手を引いた方が繁盛するという示唆でもある。カギは「顧客が望むものを顧客が納得できる価格で提供すること」であり、そのためには「現地化を進めること」に尽きる。

日本の侍文化ファンの20代のマレー人男性は「日本の文化は確かに好きだけど、日本のものばかりを集めたショッピングモールには魅力を感じない」と率直に言う。日本人が思っているほど、現地では日本ブランドに強いニーズがあるわけではないようだ。

80~90年代のマレーシアでは大衆路線のヤオハンが大人気、日本への期待も高かった。だが今は違う。“チームニッポン”による現地制覇が失敗すれば、日本と日本人へのイメージダウンにもつながりかねない。東南アジアの若者の日本への憧れが薄れれば、日本は海外人材の獲得競争にも負けるし、インバウンドにさえ影響する。

“負の効果”が出なければいいのだが。(おわり)

(姫田小夏/ジャーナリスト)

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