量子コンピューターからのハッキングを受けないパソコンがhpから出た(多賀一晃/生活家電.com)

HPが発表した新型パソコン。技術者が登場した(提供)筆者

【家電のことはオイラに聞いて!】#49

量子コンピューター。しばしば「夢の」と形容詞が付きますが、今のコンピューターとどこが違うのでしょうか?

一番違うのは演算力。文字通り桁違いです。理由は量子ビットを使っているからです。これは今までのコンピューターのビットとは全く異なります。今までは演算回路の数を増やして演算速度を上げる考え方。演算回路はできる限り小さくして数多く詰め込む高集積化です。ポイントはいかに半導体を小さくできるかなので、いわゆるナノテクノロジーによりコンピューターは進化してきました。

18世紀までほとんどのことがニュートン物理で説明がつきましたが、マクロ的にも、ミクロ的にも、どんどん説明のつかないことが増えてきました。このため19世紀末に出てきたのが量子物理です。量子物理はかなり複雑ですので説明は省きますが、その原理を使ったコンピューターは全くの別物。今までの10倍以上の能力を持ちます。

大きくは喜ばしいのですが、問題が出る可能性が指摘されています。通信情報技術の要所要所で使われているRSA暗号を解いてしまうことです。RSA暗号は素数を掛け合わせた数字の素因数分解をもとにした暗号です。ご存じの通り、素数は「1」と「その数自身」でしか割り切れない数のこと。素数には法則がないため素因数分解するには、総当たり計算するしか方法がありません。これまでのコンピューターでは時間がかかり過ぎ、解読された時には暗号情報には価値がなくなっているため有効とされてきました。しかし、量子コンピューター時代では、価値が失われないうちに解ける可能性があるのです。

要はセキュリティー崩壊があり得るのです。ファームウエアもこの技術で守られていますので、解読されると、システム全体を乗っ取られます。軍事、政治、金融、巨大インフラが、全部敵に回る可能性があるわけです。

これに対して世界も指をくわえて見ているだけではありません。量子コンピューターの攻撃からファームウエアを守る暗号技術、PQC(ポスト量子暗号)をつくり上げました。

これにいち早く動いたのが米ヒューレット・パッカード(HP)社。HPの法人用パソコンはESCと呼ばれる、物理的に隔離され、24時間休まず動作し続ける専用のセキュリティーチップを搭載しています。その第5世代チップにPQCを搭載。2024年度モデルから、量子コンピューターからのハッキングを受けないようにしたのです。

私はコンピューター技師ではないので、これで完璧なのかはわかりませんが、専用チップの凄みは、デジタルAV家電でいやというほど経験しています。

ソフトウエアだけだと動作が安定しない時がありますが、専用チップだと、どんな時でも安定して頑張ってくれます。

凄い時代になったものです。

(多賀一晃/生活家電.com主宰)

© 株式会社日刊現代