究極の人たらし…? 『銀河鉄道999』鉄郎を救うために自ら散ったキャラクターたち

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松本零士さんによる『銀河鉄道999』は、機械の体を求める少年・星野鉄郎と、謎の美女メーテルが銀河超特急999号に乗ってさまざまな惑星を旅するストーリーである。地球とは違うとんでもない星に降りることもあり、時には惑星にいる生命体と銃などの武器を使って対峙するシーンも多かった。

しかし鉄郎はなぜか惑星の人や生命体から好かれることが多く、ピンチのときに助けられることも多い。なかには自らの命を顧みず、鉄郎のために奔走したキャラクターもいる。ここでは『銀河鉄道999』に登場する、鉄郎を救うために自ら散ったキャラクターたちを紹介したい。

■あなたの手はあたたかいわ…「透明の女 ガラスのクレアガラスのクレアガラスのクレア」

鉄郎が初対面のキャラクターに身を挺して救われるシーンは物語序盤から登場する。それはガラスの体をしたウェイトレス、クレアとのストーリーだ。

クレアは母親の見栄のため、体をガラス製にされてしまった少女である。999号の食堂車でウェイトレスをしているクレアを見た鉄郎は、“きれいだ”と驚く。しかしクレアはガラスの体を嫌がっており、いつか血の通った体をどこかの星で買いたいと願っていた。

そして、トンネルのなかを通過する999号。真っ暗になった車内でクレアは自らの体を光らせ、鉄郎の手を握って誘導する。「血の通った ほんとうの体の人の手にさわったのは 今日がはじめてです」と感動するクレア。しかしその後1人になった鉄郎は、亡くなったはずの母親の幻影に取りつかれ、命を取られそうになってしまう。間一髪、そこに駆けつけたクレア。幻覚から鉄郎を守り、ガラスの破片となって砕け散ってしまうのであった。

手元に残ったたった一つのクレアの破片は涙の形をしており、それを鉄郎は大切そうに手にした。鉄郎の手に触れ、“あなたの手はあたたかいわ”と喜んだクレアは、本当に血の通った鉄郎と出会えただけでも嬉しかったのだろう。自分の体が壊れるのを予見しつつも、鉄郎を全身で守ってくれたのだ。

■おれは生身のままのお前が好きだ「永久戦闘実験室」

戦争の悲惨さを説いたエピソードの「永久戦闘実験室」にも、鉄郎を全力で守った男が登場する。

ライフルグレネードという駅に降り立った鉄郎とメーテル、その星は戦争を観光材料にしている星だった。食事中、戦闘中の兵士の様子を観賞させられた鉄郎はショックを受ける。

そんななか、2人のことを呑気な観光客だと勘違いした兵士・ゼーダはホテルに侵入し、2人を銃で脅す。しかし鉄郎は“戦争なんて見たくなかった”と伝え、誤解を解くためにゼータと行動をともにすることに。最後までついてきた鉄郎に対し徐々に心を開き、戦争が終わらないこの星の悲惨さを訴えるゼーダ。

その後、ゼーダと別れた鉄郎だが、帰路に向かう際に襲撃されてしまう。引き返してきたゼーダに助けられるのだが、その際、襲撃されたゼーダは命を落としてしまう。

死の間際、「もうじき この星の歴史が変わる。おれたちが力を合わせて歴史を変えたんだ」と言ったゼーダ。せめて反乱は成功していてほしいと信じた鉄郎だったが、メーテルから反乱軍は皆殺しにされ、現状が変わっていないことを列車のなかで知るのであった。

ゼーダは鉄郎に、“ここに戻ってくるときは機械の体でなんか来るな、おれは生身の体のままのお前が好きだ”と伝えていた。自分のことでは滅多に泣かない鉄郎だが、その日ばかりは彼を思い、一人涙を流すのであった。

今、地球上で起きている戦場と同じような状況であることにも考えさせられてしまう本ストーリー。残酷なシーンも多いが、そのなかでも鉄郎とゼーダの男同士の友情が育まれていく描写があたたかく思え、印象深いエピソードとなっていた。

■遊んでくれてありがとう「幽霊駅13号」

鉄郎は大人だけではなく、子どものキャラクターからも愛され守られている。そんなエピソードが登場するのが「幽霊駅13号」だ。

ある日車内を無重力状態にして、空中遊泳を楽しんでいた鉄郎たち。しかし突如重力装置が作動し、999号は予定にはないステーションNo.13に到着。ここで乗り込んできたのは、黒いシルエットの少女・クロサリスだった。

彼女は鉄郎の顔を見て笑い、もっと面白い顔をしてとねだる。鉄郎は要望通り面白い顔や芸を繰り出し、笑い転げるクロサリス。

実はこの駅、クロサリスの兄が憧れの銀河鉄道が一度でいいから近くはとまってくれないかと星の駅となった姿である。しかし異常事態に気づいた銀河鉄道中央管理局はステーションNo.13を破壊しようとする。その危険を知った駅の兄とクロサリスは、遊んでくれた鉄郎や話を聞いてくれたメーテルに感謝し、巻き込まれそうになっていた999号をかばって星もろとも破壊されてしまうのであった。

星の少ない環境で生まれ育ち、友達も話し相手もいなかった兄妹。そこに999号がやってきて、生まれて初めて鉄郎に遊んでもらったクロサリス。子どもにとって友達は、やはり生きる上では欠かせないのかもしれないと痛感してしまうエピソードだ。

何度も“ありがとう”と言いながら、999号をかばって爆破されてしまう星の姿は何とも切ない。

このように鉄郎は実に多くの人に命を救われており、しかも救ってくれた人物はみな、鉄郎とは初対面の人物である。初対面の鉄郎になぜここまで優しくなれるのか、それは鉄郎がほかならぬ“人間”であり、機械人間とは違った温かい心を持っているからではないだろうか。

今後地球でもAI化が進み、機械人間に近いようなロボットが次々と登場していくだろう。そのような未来が訪れるなか、鉄郎のような「人間らしい」存在はますます貴重となっていくのかもしれない。

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