普段は安全運転だが…日本で「高齢ドライバーによる交通事故」が後を絶たないワケ【東大医学部卒の医師の見解】

(※写真はイメージです/PIXTA)

マスコミによって報道される高齢者の交通事故。「免許返納」を促す言説が飛び交うばかりですが、はたして鵜呑みにしてよいのでしょうか。東大医学部卒の医師である和田秀樹氏の著書『老害の壁』(エクスナレッジ)より、高齢ドライバーによる交通事故が後を絶たない理由と、免許返納が高齢者におよぼす影響について、和田氏の見解をみていきます。

高齢者による交通事故…原因は「薬の副作用」だった!?

長年、高齢者医療に携わってきた医者の立場から言うと、高齢ドライバーが交通事故を起こす原因の1つとして、常用している薬の影響が考えられます。特に、いつも安全運転を心がけている人が暴走して事故を起こすのは、薬の副作用で意識障害を起こしている可能性が否定できないのです。

薬の中には眠くなるなどの理由で、服用した場合、運転が禁止されているものがあります。その場合は、薬局で薬をもらうとき、薬剤師さんから「運転をしないようにね」と注意されるので、間違えて運転することは少ないでしょう。

これに対して、高齢者は糖尿病や高血圧の薬を常用している人が多いのですが、これらの薬(血糖降下薬や降圧薬)のほとんどは運転が禁止されていません。ところが、これらの薬を飲んだときでも運転が困難になることがあるのです。

例えば、血糖降下薬を飲むと、薬が効き過ぎて低血糖を起こすことがあります。冷や汗が出るなど、つらい症状が現れることがありますが、安全な場所に車を移動させるくらいの余裕はあります。

また、降圧薬でも血圧が下がりすぎて、ふらついたりすることがあります。この場合も、意識がなくなってしまうわけではないので、危険を回避することは可能でしょう。

ただし、これはあくまで若い人の場合です。若い人なら、上の血圧が80mmHgくらいまで下がっても、意識障害を起こすことはまずありません。これに対し、同じくらい血圧が下がっても、高齢者の場合は意識障害を起こすことがあるのです。その理由は、高齢者のほうが血管の壁が厚いからです。

動脈硬化といって、血管は年齢とともに厚く硬くなるのはご存じですね。私がかつて勤務していた高齢者専門の浴風会病院では、亡くなった入院患者を解剖して死因などを調べる「剖検」を行っていましたが、それらの剖検例でも、80歳以上の人で動脈硬化がなかった人は1人もいませんでした。

動脈硬化を起こした血管は狭くなっているので、血液の流れが若い人より悪いのですが、そこで血圧を下げると血流が滞ってしまいます。その結果、脳に酸素やブドウ糖(脳のエネルギー源)が届かなくなり、低血糖や低血圧を起こして、意識が飛んでしまうのです。

「老害」という名の同調圧力

このように、薬の副作用で事故を起こした疑いがあるのに、ほとんど検証されていません。逆に、このような事故も、高齢者の免許返納の口実に使われているのが現状です。

私は「免許返納が高齢者いじめである」と一貫して述べていますが、それはこの問題が「老害の壁」の縮図となっているからです。

高齢者の交通事故が起きるたびに、テレビは高齢者の運転は危ないと言い、息子や娘からはもう年だから免許返納しなさい、としつこく言われます。ここまで言われると、本人はまだ運転できると思っているのに、免許返納の圧力に従わざるをえなくなってしまいます。

最近、「同調圧力」という言葉をよく耳にします。自分は意見が違うのに、多数の意見に合わせるよう暗黙のうちに強制されるという意味です。運転を続けたいという高齢者に、返納を迫るのも同調圧力の1つなのです。

それでも、運転を続けたいと言うと、今度は老害と言われるでしょう。

「老いては、子に従え」という言葉がありますが、息子や娘がそこまで言うなら、免許を返納するのもやむをえない。そうさせられてしまうのが、老害という名の同調圧力です。

ところが、免許返納すると生活する上でさまざまな不都合が生じます。特に地方に暮らす高齢者は、買い物にも行けないし、友だちにも気軽に会いにいくことができなくなってしまいます。そればかりか、要介護のリスクも上昇しますから、高齢者にとっては踏んだり蹴ったり。

高齢の夫婦2人暮らしで、1人だけ運転免許を持っている世帯では、2人とも要介護になってしまう危険性すらあるのです。

和田 秀樹
精神科医
ヒデキ・ワダ・インスティテュート代表

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