発掘した新人も「大丈夫?」 担当選手と同僚に…元巨人ドラ1、スカウトから異例の転身

ミキハウス・桜井俊貴【写真:湯山慶祐】

社会人野球・ミキハウスで現役復帰を果たした桜井俊貴投手の今【後編】

一度、ユニホームを脱いだ男が再び公式戦のマウンドに立った。元巨人の桜井俊貴投手が今季から社会人の名門・ミキハウスに入社した。スカウトからの転身、“電撃”といえる現役復帰。昨年、ドラフトで担当した選手からも驚かれたという。

三重にあるミキハウスのグラウンドで、桜井は汗を流している。練習開始前は練習道具を率先して準備し、自分よりも年下の選手たちには自ら歩み寄り、話しかけていた。

巨人時代から見慣れぬ赤いユニホームを身に纏う。「赤は元から好きな色だったので、自分自身は違和感ないです。でも、周りの人からは違和感があるよ、という連絡は多いですね」。苦笑いを浮かべながらも充実した様子がうかがえる。

選手の中にはスカウト時代、リストアップした者もいる。プロを目指す若手もいる。「どういうところをスカウトは見ているんですか?とか聞かれますね」。自分が1年間、見てきた感覚をアドバイスとして送っている。その言葉は上を目指す選手にとっては、貴重だ。

練習姿勢について陣田匡人監督に聞くと当初は若手選手も桜井のことを元プロということもあり、距離を取っていた様子はあった。だが「練習前のストレッチだったり、練習後のケアなどを見ていたり、さすがだなと思った。若い選手が見て盗むようになってきた」と少しずつ打ち解けていると実感していた。

ミキハウスの選手から「どうやったらプロになれますか?」

入社前は球団スカウトだった。今年、巨人にドラフト4位で入団し、開幕1軍切符を手にした泉口友汰内野手(NTT西日本)は熱心に足を運び、獲得した選手だった。「本人には仮契約の時に現役復帰することを伝えました。先に報道を見ていたようで『え? 本当ですか? 大丈夫なんですか?』と心配されましたが、最後は励まされました」と苦笑いを浮かべた。

野球をずっと続けていた選手ならば、1年近くもプレーしておらず、復帰することの大変さはわかる。怪我でリハビリを1年、続けていたのとは訳が違う。「全く何もしていない状態から始めるので、そういう反応になるのは仕方がないと思います」と理解を示しながら、お互いの活躍を誓い合い、別々の道を歩み出した。

スカウト時代はミキハウスにも通っていた。同僚の中には“リスト入り”していた選手もおり、選手たちからはプロのスカウトはどこを見ているのか、どうすればプロになれるのか、という質問を多く受けたという。

桜井自身も最初はどこを見極めればいいか難しかったが、「ノックの動きや一塁ベースを駆け抜ける姿、内野ゴロを打った後の姿勢というのも結構、スカウトは見ています」と先輩からの助言もあり、細部まで見るようになった。若い選手にとってみればこれまでにない貴重なアドバイスとなり、選手の成長を後押ししている。

夢は40歳まで現役、再び東京ドームのマウンドへ

4月5日のJABA四国大会の予選リーグ・明治安田生命戦で公式戦初登板初先発を果たした。6回8安打4失点も最速149キロを計測するなど、着実に一歩ずつ、目標に向かって進んでいる。目指すのは都市対抗野球や日本選手権のマウンドだ。

背番号は巨人入団時と同じ「21」。特別意識したわけではないが、導かれたようにその思い出の詰まった番号を背負う。巨人ファンはきっとその背中と重ねるだろう。「東京ドームのマウンドで投げるという喜びを味わえるように頑張りたい」と決意を胸に秘める。

大きな目標は現役生活をあと10年、続けること。

「40歳までやりたいです。経験を積んで、野球以外の部分も学んで、人に伝えていくこともしていきたい。40歳……ちょっとおじさんになっても頑張ります」

人生は1度きり。この決断が正しかったかどうかは本人が決めることだ。ただ言えるのは、桜井自身にはこれまでにないほどの可能性と広い世界がその目には見えている。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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