大谷翔平と会わない極秘交渉でも「人柄は伝わってきた」 伊藤園広告、TV展開しなかった粋な理由

ドジャースの大谷翔平【写真:ロイター】

グローバルアンバサダー契約を締結

飲料大手メーカーの伊藤園は米大リーグ・ドジャースの大谷翔平投手と極秘に交渉し、主力ブランド「お~いお茶」においてグローバルアンバサダー契約を締結して世間を驚かせた。社内でもほぼ誰も知らない中で始まった大谷とのプロジェクト。国内外の新聞60紙に全面広告を展開し、その写真も広告業界ではタブーとも言われた大胆な手法が注目の的となった。伊藤園広報部がTHE ANSWER編集部に語った契約の舞台裏。連載最終回となる今回は、伊藤園がプロジェクトを進める中であえてこだわった広告の掲出手段について。本人不在でも伝わってきた大谷の人柄と「応援したい」気持ちの本音に迫った。

水面下での「一部の者しか打ち合わせをしていなかった」という中で進められていった伊藤園と大谷の契約交渉。当然、4月30日の発表の際には社内でも驚きの声が上がり、ネット上での反響やニュース報道を見たことで“事の重大さ”を感じる社員、関係者も多かったという。

今回の交渉において、伊藤園が大谷と直接会ってプロジェクトについて話し合うような機会はなかったという。

「それでも、いろいろな話を進めていくうえで大谷選手の人柄というのは伝わってきました。大谷選手は野球においてはもちろん凄いですけど、人として素晴らしい方、人格者ですよね。弊社に限らず、多くの企業が契約を結んでいるのも、そういったところに共感しているんだと思います。スコア(成績)が良くて、凄い賞を獲ったという選手は過去にも多くいらっしゃいましたが、その中でも、人として、日本人としてのマナーやモラルといったところにおいて勉強になるところがあると思います」

大谷の人柄を「お~いお茶」を通じて世間に伝えたい。それに加え「今回の発表に至る過程で、大谷選手の周りでいろいろなことが起きていました。そういう状況もあり、我々としては大谷選手の『応援をしたい』という思いが第一にありました」という思いが強かった伊藤園。それが強く出たのが、国内外の新聞60紙に掲出した全面広告だった。

青空が広がるスタジアムに置かれた1本の「お~いお茶」のペットボトルの写真に「拝啓 大谷翔平様」で始まるメッセージが添えられた広告。ペットボトルは「商品の顔」ともいえるロゴを背にした異例のスタイル。ラベルの背には「いつの日も 僕のそばには お茶がある」という俳句とともに「カリフォルニア州ロサンゼルス・29歳・大谷翔平」と書かれている。

実は、この広告を紙媒体に掲出したことにも理由があった。「出し方についてはいろいろな考え方がありました。テレビ広告というのも考えましたが、やはり新聞は外せないなと。(全面広告の)現物をアナログで残すことができる。手元に置いておけるというのは大きい。『お~いお茶』が大谷選手のそばにあるように、この広告を皆さまの手元に置いておけるような環境を作りたい、というのはありました」。広告のラベルに書かれた大谷の俳句は、消費者に対する伊藤園の配慮の一つでもあった。

ちなみに、広告に掲載された大谷の一句が書かれたペットボトルの商品について「欲しいという声はたくさんいただいているのですが、残念ながら販売の予定はございません」と伊藤園広報部の担当者は笑いながら答えた。「弊社はもともとが『お茶屋』なので、お茶において世界でも負けるわけにはいかない。大谷選手ともども、世界で一番を目指す。そんな姿勢を続けていきたいと思います」。活躍を続ける大谷を応援し、ともに歩む未来予想図は確かに出来ている。

THE ANSWER編集部

© 株式会社Creative2