渋谷・百軒店の二毛作ネオ酒場!おばんざいと限定酒の居酒屋『酒処ニュー 萬斎』&スナック『夜のながさき』

JR渋谷駅を出て道玄坂の中ほどにある商店街「百軒店(ひゃっけんだな)」。朝から晩までギラギラとしたネオンが妖しく光る街に、古民家居酒屋『酒処ニュー 萬斎』はひっそりとそこにある。一歩店に入ると外のにぎやかさとは相反する落ち着いた雰囲気だ。古き良き昭和のスナックのムードを残す店内で、手作りのおばんざいとレアな日本酒が味わえる。

昭和のスナックの雰囲気が漂うおばんざいと限定酒の店

JR渋谷駅を出て道玄坂から百軒店に入ると、昼間でもネオンがチカチカと灯り妖しさがムンムン。リュックの肩紐をぎゅっと握りしめながら緊張して歩いていると、かの有名な『名曲喫茶ライオン』の向かいに2階建ての古民家の居酒屋『酒処ニュー 萬斎』を見つけた。

かつてはここで「うどん酒場 萬斎」として営業していた。現在もこの看板が店頭に置かれている。

外のポスターに、ハッピーアワー(開店から18時まで)は「もつ煮とドリンク1杯がセットで100円」と書かれている。え〜、安い! このご時世にありがたい。店に入ってオーナーの今井洋さんに話を聞いてみると、ここは渋谷で65年続いていたスナック「ながさき」を改装した居酒屋なのだという。

店先のカウンターで立ち飲みもできる。

2019年にスナック「ながさき」のオーナーから店を引き継ぎ、「バーながさき」と「うどん酒場 萬斎」として営業していたという今井さん。「2023年12月に“近所にこんな店があったらいいな”というコンセプトで業態を統合し、リニューアルオープンしました」。

1階はカウンターのみ。奥のカウンターはスナック「ながさき」時代のもの。

今井さんはアパレル会社で服飾デザイナーをしていたが、2016年飲食業に転身した。会社員をしていたころよく通っていた表参道のうどん店、『讃岐うどん 愛』を縁があって引き継いだことがきっかけだった。

『讃岐うどん 愛』の経営が軌道に乗ってきた頃、昔からよく飲み歩いていた百軒店でスナック「ながさき」に出合う。

「オーナーさんが引退すると言った時は、ぜひこの店を引き継ぎたいと思って、プレゼン資料を作ってアピールしました」

スナックの部分は1階の「バー ながさき」として残し、2階では表参道での経験を生かし、「うどん酒場 萬斎」としてうどんとおばんざいを提供する店にした。2023年に1階・2階をあわせて『酒処ニュー 萬斎』にリニューアルしてからは、おばんざいと日本酒の限定酒をウリに。「もちろん、シメのうどんもありますよ」と今井さん。

2階はテーブル席。親しみやすく、初めて来た気がしない。

店を引き継ぐときには、できるだけ元の内装を残した。「昭和の雰囲気が残っていていいでしょう? 僕自身、骨董が好きで、いろいろなものを集めているんです」。店で使用する食器や店内を彩る表情豊かな置物は、今井さんのコレクションの一部だ。

作り付けの棚や今では見かけない美しいランプ、壁紙などできる限り残し、昭和の頃の息吹が感じられる。床板などは新しいけど、おばあちゃん家のような心地よさがいいなぁ。

やわらか〜い煮込みと旬を感じるおばんざいで限定酒を味わう

今井さんの話をもっと聞いていたいけど、ちょっと喉が渇いてきたので一献いただいてみましょうか。自慢のおばんざいは、カウンターに大皿料理が並べられ、めいめい好きなものを選ぶスタイルだ。

「ナスの揚げ浸しと出汁漬けだし巻き玉子は定番で、季節のものを使ったおばんざいは隔週変わりです。毎日だいたい6種並びます」と語るのは店長の小坂さん。そのほか刺し身や炒め物、揚げ物、お新香やエイヒレの炙りなどの居酒屋定番メニューも揃う。

以前は異業種の会社員だった小坂さんだが、今はこの店で店長として調理から接客まで行っている。

定番メニューには和風のメニューが多く、ポテサラにキンピラを合わせたり、冷奴に薬味を爆盛りにしたり、定番にちょっと個性を加えた料理が気になる。

その一方で、目の前でダイナミックに盛り付けられた大皿料理はどれもおいしそうで目移りしまくりだ。初めて来たお店だから少しずつ味わってみたくて、おばんざい盛り合わせ1200円と旨塩もつ煮込み680円をオーダーした。

カウンターに大皿が並べられるおばんざいはすべて店内で手作りする。

小坂さんが大皿から少しずつお皿に盛ってくれた。取材したのは4月、アサリにサワラなど春を感じる素材が組み込まれていてうれしい。

この日のおばんざい盛り合わせは、写真右からあさりの紹興酒漬、さわらとカブのレモン塩煮、ナスの揚げ浸し、出汁漬けだし巻き玉子。

もうひとつの名物が旨塩もつ煮込みだ。もつ煮込みといえば醤油か味噌の味付けがポピュラーだけど、塩味は珍しいなあ。

「ハチノス、ホルモン、マルチョウ、シマチョウをそれぞれ1種ずつゆがいて丁寧に下処理し、塩ベースのスープで2時間煮込みます。酒とショウガをたっぷり入れて煮込んでいるんですよ」。外のポスターに貼ってあったハッピーアワーの100円もつ煮の正体はコレだ。量は少なめだが、十分楽しめる。

数種類のホルモンをコトコト煮込んだ旨塩もつ煮込み。「ウチのお客さんは“呑みがメイン”なので、お酒に合う料理ばかりです」と小坂さん。

料理が決まったら次はお酒。ビール、焼酎、サワーとひと通りのラインナップに加え、売り切れ御免の日本酒はレア物が揃う。

「日本酒はロットが少ない限定酒が多いので、もう二度と出合えないものもあるかも。日本酒に詳しくなくても、好きなテイストやイメージを伝えてくれたらオススメを出しますよ」

冬はおでんの出汁を日本酒で割ったオリジナル酒も販売。

小坂さんのアドバイスから、もつ煮に合いそうな辛口の楽器正宗1合1100円と、アサリやサワラなどの魚介類に合う炭酸が混じったにごり酒・風和(かぜやわらか)1合1210円を選んだ。酒と肴が揃ったところで、ハイ、カンパ〜イ!

今日の晩酌はこのラインナップでスタートだ。
なかには骨董レベルのものもある食器類。美しい酒器でいただくから酒がさらにおいしく感じられる。

美酒で舌を潤わせたら、すかさずもつ煮をパクリ。う〜ん、やわらか〜い! 脂がたっぷりだけどしつこくなく、クサみもないのは丁寧に下処理をしているからだ。塩ベースのスープもあっさりしておいしい。

「シメにもつ煮うどんも食べられますよ」と、小坂さんがニヤリと笑った。確かにコレ、うどんと食べたらサイコーだな〜。

噛み締めるほどにもつから旨味があふれ出す。

おばんざい盛り合わせは、味がしっかりめと、あっさりめを選んで盛り付けてくれているから、どんなお酒にも合いそう。定番っぽいメニューだけど、ちょっと独創的なのがいいですね。

「お客さんとの会話からメニューのヒントをもらうことも多いんですよ。まだまだ料理の勉強中です」

季節の移り変わりとともにいただけるおいしいお酒と料理に心酔。もう少し飲んだらうどんでシメたいな。

店で取ったカツオベースの出汁で煮込む冬季の名物・おでんは10月から4月まで提供。

飲み放題、歌い放題『夜のながさき』は朝まで営業

『酒処ニュー 萬斎』にはもうひとつの顔がある。午前0時から朝5時まで営業する『夜のながさき』だ。男性は1時間2000円、女性は1時間1500円で歌い放題、飲み放題だが、単品での注文も可能。

「午前0時で『萬斎』の営業を終えたら、2階からマイクとかカラオケグッズを持ってきてスナックに変わります。ポスターにもなっているかおりママが店に立つんです」

現在はかおりママが店を切り盛りしている。

1階の奥のエリアはスナック「ながさき」時代のクロスやカウンターをそのまま使用し、かつての雰囲気を体感できる。「当時のようにカラオケができることにもこだわった」と今井さん。

かつては酒のボトルやグラスを収納していた棚をカウンターとして使用。赤いビロードが艶かしい。

カウンターに店名入りのライターを発見。街中でたばこをスパスパ吸えていた時代、スナックや喫茶店では無料で配布されていたなぁ。懐かしい。ちなみに『萬斎』ではマッチを配布している。

来店者にサービスしているオリジナルライター。妖艶なパープルが店の雰囲気によく似合う。

壁のクロスやガラス製のランプ、妖しい柄のクロスや天井の電線もフォトジェニックだ。

スナック「ながさき」時代からある壁や作り付けのランプにも昭和のムードが息づく。

昭和の空気がそのままよみがえる『酒処ニュー 萬斎』と『夜のながさき』。しっぽり飲むもよし、朝まで飲めや歌えや盛り上がるのも楽しそうだ。時代が巡りこういう店こそナウな“ネオ居酒屋”だね!

酒処ニュー 萬斎(さけどころにゅーまんさい) 住所:東京都渋谷区道玄坂2-20-5/営業時間:17:00~24:00(土・日は16:00~24:00 ※『夜のながさき』は24:00〜28:00)/定休日:第2火(『夜のながさき』は月・日)/アクセス:JR・私鉄・地下鉄渋谷駅から徒歩8分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢

アート・サプライ
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1971年創業の編プロ。「旅&食&散策」ジャンルに強く、情報誌では子供向けから鉄道やドライブでの大人旅まで。さらにグルメ系ではラーメンや唐揚げ専門情報誌をはじめ、日本全国うまいもの紹介なども手掛けている。

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