診断・診療支援AIシステム市場に関する調査を実施(2024年)~医療分野でのAIの社会実装に向けた制度改革、法整備などは着実に進展、医療機関でのAI利活用が拡大、2028年度の国内診断・診療支援AIシステム市場規模は264億円に拡大を予測~

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、国内のMedTech動向を調査し、関連する各医療機器の普及動向、参入企業の事業展開、今後の方向性などを明らかにした。
ここでは、診断・診療支援AIシステムの市場予測について、公表する。

1.市場概況

「MedTech(Medical×Technology・メドテック)」は、診療・診断・治療支援領域などの医療分野においてAI、IoT、XR(VR:仮想現実、AR:拡張現実、MR:複合現実)、5G、4K/8Kなどの最新技術を活用し、新たな価値を提供する製品やサービスを指す。医療分野以外でも様々な産業や業種で、同様なトレンドがX-Tech(クロステックまたはエックステック)として進展している。

AIを活用したSaMD(Software as a Medical Device:医療機器プログラム) は、2020年に初めて上市されて以降、その製品数は増加している。放射線画像や内視鏡領域を中心に広がりをみせ、近年では対応する診断機器および対象疾患数は拡大、参入企業も増加傾向にある。一方、AIを活用したSaMDへの薬事承認制度の審査フロー、法整備などの改革が進み、診療報酬の枠組みにおいてもAIの利用に関するインセンティブが与えられるなど外部環境の変化がみられる。
また、2023年に社会的に注目された生成AIは誤情報の生成やその管理などの課題はあるものの、医療領域での生成AIを活用した新たな製品およびサービスの開発が進められている。技術革新のスピードが早まるなか、デジタル技術の活用は生産性、医療の質の向上に寄与することが期待される。

2.注目トピック~普及期に入った診断支援AIシステム市場

AIが広く医療機関に普及するためには、導入・利用におけるインセンティブが重要であり、近年では診療報酬の枠組みのなかでその動きがみられている。
2022年度診療報酬改定では、AI利用・管理が画像診断管理加算3の施設要件として加えられ、1つの転換期となった。続く2024年度診療報酬改定では、画像診断管理加算3及び4が新設され地域の中核病院、がん拠点病院などにも診断支援AIシステムの導入が進むものとみられる。
さらに全体的なAIの利用・管理だけでなく、大腸癌・ポリープ等の病変をAIの支援により検出し内視鏡手術を実施した場合の保険点数も付与されることとなった。AIが社会的に注目される中、このように診断に対してAIの役割が評価され始めていることに加えて、医療機関や医師のAIに対する関心が高まったことで、診断支援AIシステムの導入が広がりを見せており、市場は普及期にシフトしている。
特に単純胸部X線画像でのAI利用は拡大しており、大規模病院に加えて健診施設やクリニックへの導入も進んでいる。さらに遠隔読影支援サービス事業者でも診断支援AIシステムを導入し、読影の精度の向上や効率化を進める動きもみられる。

3.将来展望

政府は、医療領域でのAIシステムの開発推進・普及のため、医療データベースの構築、診療データの活用、AI導入へのインセンティブの設定などに取り組んでいる。生成AIに関しても国産LLM(Large Language Models)モデル開発の支援やガイドラインの策定が進められており、AIの社会実装に向けた取り組みは本格化している。

また、2024年度は医師の働き方改革が本格的に実施され、医師の業務負荷の低減、効率の向上が求められる中で、診断支援AIシステムを活用することで、医師の働き方改革に寄与できる可能性がある。他にも、参入企業の多くは数年以内に新たな製品上市を見据えており、SaMD等の医療機器ではなくヘルスケア機器としての展開を検討するなど活用領域、利用目的も多様化しつつあり、製品数の増加が見込まれる。

さらに、電子カルテデータや臨床検査、放射線画像、心電図等の様々なデータをマルチモーダルに解析することで、患者の状態予測および治療後の予後予測をする診療支援AIシステムの開発も進められている。すでに複数の企業および医療機関において実証実験が実施されており、実用化に向けた動きもみられる。生成AIが社会的に注目され、医療に特化したLLMモデルの国内開発も進められ、様々な疾患やシチュエーションに対応したAIの開発が進む見通しである。

このように、診断支援および診療支援AIシステムは、将来的には多様化していくことが見込まれ、2028年度の診断・診療支援AIシステム市場規模(事業者売上高ベース)は264億円に拡大すると予測する。

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