小日向文世が役者として“信じたいもの”とは? 座長・木村拓哉の印象は23年間変わらず

毎週予想を超える展開が視聴者を惹きつけている木村拓哉主演ドラマ『Believe-君にかける橋-』(テレビ朝日系)。

木村が演じる土木設計家の狩山陸は、大手ゼネコン「帝和建設」に勤め、橋づくりに情熱をかけてきた建築物オタク。だが、自ら設計した橋が崩落事故を起こし、死傷者が出る事態に。

そんな狩山に事故の“真の原因”を伏せたまま、責任を被るよう頼み込んだのが、社長の磯田典孝(小日向文世)だ。本作ではタイトル通り、「誰を信じるか」が重要な要素になってくるが、一見人の良さそうな磯田は、その裏に何かを隠しているのだろうか。

今年1月に70歳を迎えた小日向に、木村との再共演や俳優としての変化について聞いた。(編集部)

『HERO』から23年、変わらない木村拓哉の印象

――これまで撮影されてきて、感想はいかがですか?

小日向文世(以下、小日向):実はまだ、木村くんと斎藤工くんと一ノ瀬颯くんとしか絡んでないんですよ(※4月下旬インタビュー時点)。ドラマの撮影は一番重要な橋のシーンから始まったけど、僕はそこにいなくて。帝和建設の社長役として、ずっと会社にいるのでラクしています(笑)。自分が出ていない場面も台本は読んでいるので、いち視聴者として出来上がりがすごく楽しみですね。

――磯田典孝役を演じる上で、大事にしていることはありますか?

小日向:磯田は温厚で、物腰が柔らかい人ですよね。建設が大好きで大好きでたまらない“橋屋”の狩山を、温かく見守っている上司でいられたらいいなと。第1話の途中から「あれ?」と思った人もいるかもしれないけど、帝和建設の再建を頼まれて省庁から来て、会社のために黙々と働きながら狩山を応援している。そんな印象が伝わればいいなと思っています。

――これまでの作品を観ていても、“すごく優しい小日向さん”と“すごく怖い小日向さん”がいらっしゃるので、第1話を観て「今回はどっち!?」と思いました。

小日向:そうでしょ? 今回も絶対にそう言われると思うんですよね……たぶん「悪いほう」って(笑)。

――(笑)。小日向さんは、すでに結末をご存知なんですか?

小日向:なんとなく……でもダメ、これは言っちゃいけないから(笑)。ただ、僕の演じる磯田がどうなるのかはざっくり聞いてますけど、周りの人たちがどうなっていくかは知らないんです。なので、最終的に「この人は悪者なのか、いい人なのか」と思いながら楽しんでいます。

――これまでに木村さんとは何度も共演されていますが、「これは木村さんならではだな」と思うことはありますか?

小日向:『HERO』(フジテレビ系)で初めてお会いしたのが2000年くらい。その頃から四半世紀も経つのに、木村くんの印象は変わらないんですよね。当時からバリバリのスターだったけど、今でもスターとして第一線を走り続けていることは変わらないわけですし。あとはやっぱり、俳優という仕事に対してものすごくストイックです。木村くんは、現場で台本を開かないんですよ。僕なんかギリギリまで台本を見てやってるけど、木村くんが台本を読んでいるところを見たことがない。いや、みんなそうなのかな……そんなわけないか(笑)。

――その姿勢がずっと変わらないと。

小日向:そう。いつか雑誌の取材でそのことを聞いたら、「僕はちゃんとセリフを入れていないと芝居ができない」と言うんだけど、それがすごいじゃないですか。当時は、SMAPとして大活躍しながらですからね。木村くんはきっと、何かをやり始めたら自分が納得するまで全部やる。そういう人なんだと思います。

――現場では、どう過ごされていますか?

小日向:木村くんとはちょっと話したけど、彼は橋だったり刑務所だったり、いろいろなシーンに巻き込まれていくので、あまりこっちから「どう?」とは聞きづらくて。「大変そうだな」と思いながら見ている感じですね。ただ、一番大変そうなのは監督の常廣(丈太)さんです。

――どんなところでそう感じますか?

小日向:ロケがたくさんあるので、移動が多いんですよ。遅くまで撮影して、家に帰ってからも翌日のカット割りを考えたり。常廣さんは『緊急取調室』(テレビ朝日系)をずっと一緒にやっていたけど、「それよりも大変?」と聞いたら、「もう半端じゃない」と言ってましたね。今回はオリジナル作品で、脚本を作る段階から監督は参加していますから、本当に大変だと思います。

「自分のことが信じられなかったらアウト」

――小日向さんは今70歳。役者を始めた当初、今のような将来を思い描くようなことはありましたか?

小日向:若いときは70代なんてイメージできなかったというか、眼中になかったですよね(笑)。20代の頃は、60歳や70歳の人と共演したことがなかったんですよ。せいぜい自分たちよりも10歳、20歳上くらい人たちと一緒に芝居をしていたので。たとえば今回も、20代の俳優さんと僕は50歳近く違う。そんなことありえなかったから、変な感じがしますよね。ところが、自分の感覚はあまり変わっていないんです。75歳から後期高齢者なので、「僕はまだ前期高齢者だ!」ってね(笑)。でも、この歳でこうやって若い人たちとご一緒できるのはありがたいことです。『HERO』の頃、僕は47歳だったんですよ。だから、そのときの僕よりも今の木村くんのほうが年上。あっという間ですよ、木村くんもそのうち70代になりますから(笑)。楽しみだね!

――(笑)。歳を重ねることで、俳優としての変化はどう感じていますか?

小日向:若い頃よりも、周りのみんなが「これどうぞ」とか気を遣ってくれるかな(笑)。それと、あまり自分の中で高望みしなくなっているな、という気がします。ここまで芝居をやってこられただけでも、御の字だと思うから。70歳以降の俳優さんが出るドラマはなかなかないと思うので、呼ばれるだけでもありがたいなと感謝しつつ、撮影に臨みたいですね。

(ここで取材部屋を出る竹内涼真から挨拶を受けて)

小日向:竹内くん、カッコいいよね。彼はもっともっと若い頃に共演したけど、こんなふうになるとは思わなかったなぁ。

――そういった出会いがあるのも、長く役者を続けているからこそですよね。

小日向:そうなの。ただ、勢いのある若い人たちを見ると、少し寂しい気持ちにもなるんですよ。なんだか置いていかれているような気がして。でも、これからも来た仕事はありがたく、いつまでも謙虚にやっていきたいなと思っています。

――最後に、小日向さんがこれからも役者を続けていく上で“信じたいもの”を教えてください。

小日向:“前向きな自分”かな。だって、自分のことが信じられなかったらアウトだもんね。どんなときでも、どんな苦労を背負っても、元気にやっていく自分でありたい。「そうしていってくれるよね」「そう信じてるよ」と、自分に言いたいですね。
(文=nakamura omame)

© 株式会社blueprint