【ふくしま創生】甘い香りプラス飯舘牛復活へ 福大などブランド強化 特定成分の飼料米で飼育 年度内にも農家に普及

飯舘村の和牛を使った牛丼を味わう学生と石川教授(右)

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の発生で打撃を受けた飯舘村のブランド牛「飯舘牛」の復活に向け、福島大などの研究チームは「甘い香り」を付加価値にした新たなブランド牛の確立を目指す。和牛特有の香りを高める「オレイン酸」に注目し、成分が多く含まれる飼料米を使って和牛を飼育。香りやうまみ成分を調べて数値として示し、売り出す。今年度中にも飼育法や分析結果をまとめたマニュアルを村内の畜産農家らに配布する予定で、村と連携して普及させる。

 研究は福島大食農学類の石川尚人教授を中心に筑波大、ニチレイフレッシュ、村の肥育・繁殖農家らが協力し、2021(令和3)年に始まった。和牛の肥育牛、繁殖牛にオレイン酸を含むコメをえさに混ぜて与え、香りやうまみ成分を可視化する装置で比較。数字は未公表だが、香りの成分が増えると実証した。特に繁殖牛は独特の臭みが軽減され、うまみを引き出したという。福島県産米を使って研究を継続しており、年度内にも分析結果をまとめる。

 研究の過程で、飯舘村のような比較的標高の高い地域でも栽培しやすくオレイン酸をより多く含む品種を突き止めた。今後、飯舘村でこのコメを育て、牛に与える計画だ。効果的な与え方を示して参考にしてもらう。

 飯舘村はかつて畜産業が盛んな地域として県内外で知られていたが、原発事故による全村避難などで和牛の肥育・繁殖頭数は3分の1ほどに減った。村によると、村内の肥育・繁殖頭数は2010(平成22)年度は約2270頭だったが、現在は750頭ほどだという。

 原発事故の影響で価格の下落にも直面しており、研究に協力する村内松塚の畜産農家山田豊さん(41)によると、県産牛肉の価格は全国平均と比較し1キロ当たり200円前後、低いままだという。「味の特徴が出て多くの消費者に食してもらえれば、県産牛の付加価値が高まる」と期待する。

 研究チームは18日、村内でオレイン酸を含む飼料米の田植えを行う。村の稲作農家も参入できる仕組みを構築する考えだ。山田さんは休耕田を活用して飼料米の栽培が進めば「飯舘の農業全体の振興につながるだろう」と考えている。

 石川教授は「飯舘ならではのブランドを確立し、農家の所得向上や村の復興を後押ししたい」と話している。

■牛丼「うまみ強い」 17日まで福大学食で販売

 飯舘村産の和牛を使った牛丼の販売が15日、福島大の学生食堂で始まった。「うまみが強い」と評判は上々だ。

 飯舘村の復興の取り組みを学生に知ってもらおうと、17日まで毎日400食限定で提供する。学生や卒業生などでつくる校友会員は税込み100円、その他の人は同650円で食べられる。

 初日は販売開始と同時に行列ができる人気ぶり。経済経営学類2年の田中希奈(きな)さん(19)は「肉のうまみが感じられて味付けに負けていない」と顔をほころばせた。飯舘村の高橋祐一副村長は「村に来るきっかけにしてほしい」と願った。

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