前澤友作さん、なりすまし"詐欺広告"めぐり提訴…フェイスブックの責任は問えるのか?

前澤友作さん(写真:西村尚己/アフロ)

なりすましの広告を無断掲載されて、肖像権などを侵害されたとして、実業家の前澤友作さんは5月15日、フェイスブックの運営会社を相手取り、損害賠償となりすまし広告を掲載しないよう求める裁判を東京地裁に起こした。

前澤さんが同日、自身のX(旧ツイッター)で明らかにした。有名人の名前を悪用して、うその投資を呼びかける詐欺広告がSNSで広がっており、前澤さんも自分の名前や写真が使われているとして、プラットフォーマーなどに対策を求めていた。

損害賠償の請求額は1円で、前澤さんは「彼らの行為が違法なのか合法なのかはっきりさせたい」「違法となれば、詐欺被害者の損害賠償請求もやりやすくなりますし、なにより詐欺被害抑止の大きな一歩になるものと思います」としている。

はたして、今回の訴訟のポイントはどこにあるのだろうか。インターネット問題にくわしい中澤佑一弁護士に聞いた。

●プラットフォーマーも「不法行為責任」を負うか

――プラットフォーマーの責任を問う裁判になりますが、今回のような事例はこれまでもあったのでしょうか?

違法な情報が掲載されたことを理由として、サイト管理者やプラットフォーマーに対して損害賠償請求をする事例は決して珍しくはありません。

ただし、プラットフォーマーに対しては、プロバイダ責任制限法3条1項によって、広範な免責が認められており、この免責を乗り越えて実際に賠償が命じられたケースは(過去の経緯から特殊な判断が連発している「2ちゃんねる」に関するものを除けば)非常にまれです。

――1円訴訟である意味は何だと思いますか?

金銭的な満足ではなく、違法であることを確認したいということだろうと思います。

――今回の訴訟のポイントは?

無断で氏名や肖像を利用した広告が違法であることは、ほぼ争いはないはずで、広告を出稿した広告主が不法行為責任を負うことは間違いありません。広告主に加えて、そのような広告を配信しているプラットフォーマーまで不法行為責任を負うかどうかが問われる訴訟です。

メタ社とフェイスブックジャパン社(フェイスブックの運営会社、今回の被告)は当然、プロバイダ責任制限法の適用による免責を主張してくるはずですので、この免責の適用があるかが中心的な争点になろうかと思います。

――今後の展開についての予想は?

プロバイダ責任制限法3条1項は、プラットフォーマーが賠償責任を負う場合として、(1)「他人の権利が侵害されていることを知っていたとき」、(2)「他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき」の2つを定めます。

(1)については、権利侵害に対する具体的な認識がある場合ですので、立証面から難しく、賠償を求める側としては(2)にあたることを主張していくのが通常です。

メタ社側は「あくまで広告主が作成した広告を出しているだけだ」と主張すると思われますが、広告のすべてが配信されるわけではなく、一定の審査もあるはずです。広告審査におけるメタ社の関与度合いが問題になってくるでしょう。

また、メタ社が広告料を得ているという点を考慮すると、メタ社は広告の発信者としての側面も有するとして、原告側は「そもそもプロバイダ責任制限法3条1項の適用がない」という攻め方もできるかもしれません。

前澤さんは、自身の肖像を無断使用した詐欺広告について以前から問題視しており、メタ社に対して対応を求めたことが報道されたこともありました。

このような状況を前提にすれば、前澤さんの氏名・肖像を使った広告が違法であり、権利侵害によって作られたものであることは、メタ社も容易に理解できたはずです。

プロバイダ責任制限法3条1項の免責を前提としても、メタ社側に賠償を命じる判決が下されるべきだと個人的には思います。

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