【山脇明子のLA通信】これもアメリカのカレッジバスケの日常…山ノ内勇登が3度目の転校を白紙にした理由

「今回は時間をかけて転校先を決めたかった。なぜなら昨年ポートランド大学にコミットしたときは、すぐに決めてしまったように思うからです。今回は時間をかけてコーチのことを知ろうとしました。安心できるコーチングスタッフのいるところでプレーしたかった。だからワイオミング大学に決めました」

全米大学体育協会(NCAA)1部のワイオミング大への転校が決まった翌日、山ノ内勇登は、満面の笑顔で、自らの新天地となるはずだった大学や、新たに住む予定だったワイオミングについて語った。「最後の大学生活は、ワイオミングで送るつもりです。自分の決断にとても納得しています」胸を張って言った。

ところが、だ。一夜明けて山ノ内は、再び転校先を探す立場に戻ることを発表した。自らの決断だった。

◆熱心にリクルートしてくれたコーチが移籍

何があったのか?――

「信頼できるコーチ」と、ついていくことを心に決めたワイオミング大のジェフ・リンダヘッドコーチが、名門テキサス工科大学のアシスタントコーチに就任することになったからだ。自分の転校決定直後のまさかの展開に誰よりも戸惑ったのは山ノ内本人だろう。

学校を訪問した際には、自らのプレーのフィルムを見ながら2時間近くに渡り、どのようにチームにフィットするか、どうすれば選手として伸びるかを延々と話してくれた。

「そんな風にやってくれたコーチは、他にはいませんでした。だから彼がどれほど僕のことを気にかけてくれているかを感じることができました。彼は僕のフィルムを見て、たくさんリサーチをしてくれていました。彼とフィルムを見ていた時間は最高に楽しかった」山ノ内の目は輝いていた。

そのコーチがいなくなってしまうのだ。答えは、すぐに出た。山ノ内はSNSを通じて、「家族と話し合った結果、リクルートメントを再開することにしました」と投稿した。

アメリカでは、NCAA1部の大学に限らず、こういったコーチの移動は珍しいことではなく、大袈裟な例を挙げれば、昨日まで自らの学校のコーチだったのに、翌日にはライバル校のコーチになっていることもある。そして選手もチームを選ぶ。選手である以上、コーチとの信頼関係と、プレー時間は最も大事なこと。それを求めてチームを変える。地道な努力と我慢の末、数年後に花を咲かせる選手ももちろん多くいる。だが、それは大抵の場合、コーチが代わらず、その過程を見てくれていることが条件となる。また、山ノ内が昨年ラマー大学からポートランド大へ転校したときのように「ステップアップ」を目指して転校する選手もいる。中には、「君にはプレー時間を与えることはできない」と通達された選手もいるだろう。

山ノ内がこの春転校を決めたのは、入る前に言われていたことと、入ってからの現実に誤差があったことになるが、それを経験したことのある選手は、山ノ内だけではないはずだ。

「3度目の転校について、僕に何か問題があると言いたい人もいると思います。でもこの決断に向き合うのは周りの人じゃない。僕自身です」

1つの学校に落ち着きたい気持ちは、山ノ内だって同じだ。だが、自らがなりたい選手を目指す以上、人からどう見られるかではなく、自分がどう行動するか。自分の気持ちにいかに正直になるか――。

◆コンディションを整え、多才性をアピールしたい

学校探しは振り出しに戻った。しかし自らの向上に努める日々は変わらない。

その一歩が、今月20日から始まる男子日本代表の第1次強化合宿(ディベロップメントキャンプ)。山ノ内は、同合宿に向けて待ち切れない様子で、以下のように話した。

日本でのディベロップメントキャンプを楽しみに待つ山ノ内 [写真]=fiba.basketball

――昨年はラドフォード大学の山﨑一渉選手と二人でディベロップメントキャンプのメンバーとして第1次強化合宿に参加しましたが、今季も参加することをどのように思いますか? 山ノ内 とてもうれしいです。でももっと体調を整えなければなりません。今季(2023−24シーズン)途中で股関節唇損傷を負って、手術こそ免れましたが3週間ほど前からやっと動けるようになりました。ジャンプができるようになったのもつい最近です。キャンプが始まるまでになんとか体調を戻してコーチたちに良い印象を与えたいです。

――昨年の同合宿で学んだことはどんなことですか? また自らのどんな能力を持ち込めると思いますか? 山ノ内 もっとシュートを打つことです。シュートが決められなければ、代表チーム入りはできません。3ポイントシュートの練習を積んできたので、決められるところを見せたいです。あと、僕は高さだけでなく多才性を持ち込むことができます。ガードにスイッチして守ることができますし、ポストで守ることもウィングで守ることもできます。だからもし僕が代表チーム入りできたら、多くの面で助けることができます。

――会うのを楽しみにしている選手はいますか? 山ノ内 (ハワイ大学のジェイコブス)晶かな。今季はじめにハワイで行われたトーナメントで対戦した時に会って、少し話をしました。彼とは一緒にプレーしたことがないので、とても楽しみです。転校先を探している時、僕にハワイ大を勧めてくれました(笑)。彼はとてもいい選手。シュートもできるし、ドリブルもできるし、とても背が高い。ポテンシャルにあふれている。すごくいい選手になれる素質があります。あとはトロイ・マーフィー(現富山グラウジーズ)。彼とは同じロサンゼルス出身で、二人とも日本人とのハーフだったり、いろいろ共通点があったことで、インスタでお互いにフォローし合うようになりました。彼が招待されて僕もうれしいです。あと、お兄さん(テーブス海:現アルバルク東京)と一緒にプレーしたこともあり、ボストンカレッジに進学する(テーブス)流河とやれるのも楽しみです。同じ世代の選手が多く、とてもワクワクしています。日本代表の将来は明るい。新たなジェネレーションはすごく良くなると思います。

――日本A代表でいつごろからプレーしたいと考えていますか? 山ノ内 今すぐにでもプレーしたい。とてもいい選手である先輩がたくさんいますが、負けないように頑張ります。

――日本代表の大先輩というと渡邊雄太選手がいますが、彼が日本に帰りBリーグでプレーする決断を下したことに関しては、どのように思っていますか? 山ノ内 彼は素晴らしいNBAキャリアを送ったので、今度は日本でどんなことをするのか興味があります。彼は僕と同じぐらいのサイズですし、学べるところがたくさんあるので、よくプレーを見ています。シューティングはもちろん、ディフェンスもそうですし、彼はポイントガードのようにドリブルもできる。いろんなことができます。個人的には、またNBAに戻ってきてくれたらいいなと思っています。

文=山脇明子

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