『虎に翼』“拾われた男”仲野太賀が夫に立候補 寅子への思いが本物だからこそ去った花岡

『虎に翼』(NHK総合)第34話では、寅子(伊藤沙莉)のお見合い大作戦が決行された。女性であることを理由に仕事を断られてしまう寅子は、社会的な信用を得るために結婚しようと考えた。寅子は、直言(岡部たかし)とはる(石田ゆり子)に頼んで、見合い相手を探してもらうことになった。

その頃、轟(戸塚純貴)とよね(土居志央梨)は、花岡(岩田剛典)と会っていた。詰め寄る二人に、花岡は、奈津子(古畑奈和)が、女学校を卒業したら家庭に入り、赴任先についてきて、父の面倒も見てくれると話す。寅子を選ばなかった理由を聞かれ、「大勢の人の思いを背負った彼女の夢を奪うなんて、俺にはできない」と語った。

傷心の寅子のために真意を問いただす轟とよねの友情に胸が熱くなった。寅子の将来を考えて、自ら身を引いた花岡にも。よねは、花岡を「責任を負う勇気がないだけ」と痛罵し、轟は「それで本当に幸せになれるのか」と問いかけた。花岡のやったことは「猪爪も奈津子さんも侮辱する行為」ではないかと疑問を呈した。

花岡の寅子に対する思いは本物だった。花岡は、狭い家のなかに寅子を閉じ込めたくなかった。そのことが、奈津子に家政婦の役割を押し付けていい理由にはならないが、少なくとも、寅子に対しては、多くの人のために活躍してほしいと願っていた。もし、花岡が「佐賀に一緒に行こう」と誘っていれば、寅子はついて行ったかもしれない。なぜ言ってくれなかったのかとも思うが、言わずに去る花岡は、根は優しい人物だった。

「まったく男ってやつはどいつもこいつも」(はる)
「男でひとくくりにしないでおくれよ」(直言)

きざでいけすかない若い男性に、やや態度が厳しいはるだが、若干の誤解を置いても、気持ちはわからないでもない。婚期を逃して行き遅れる心配が現実になったからだ。寅子は、結婚できれば誰でもいいとでも言うように、見境なく、勤務先、親類、近所のつながりを駆使して、見合い相手を探す。こういう場合、往々にして“はずれ”をつかまされるもので、相手からも「弁護士をするご婦人はなんだか怖そう」と敬遠されてしまった。

相変わらず弁護の依頼はない。ナレーションで「じわじわと真綿で首を絞められ」、「自尊心を削られていく」と形容される寅子は、ギブアップ寸前で、表情もいつになく苦しい。そこに救世主が現れた。

スーツ姿の優三(仲野太賀)は、書生部屋の入口で寅子を迎えた。再会を喜ぶ寅子が、階段の定位置に落ち着くと思いがあふれ出た。優三の本気度は、腹下しの頻度で推し量ることができる。寅子の夫に立候補した優三は、一世一代の決意だったのだろう。寅子の口ぶりからすると優三は眼中になかった様子だが、互いを理解する二人は最高の相手に見えた。『拾われた男』(NHK・ディズニープラス)以来の夫婦役で、伊藤沙莉と仲野太賀がどんな芝居を見せてくれるか、本作の楽しみがまた一つ増えた。
(文=石河コウヘイ)

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