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山梨県と静岡県にまたがる富士山が世界文化遺産に登録されて12年目の登山シーズンがやって来る。昨夏の登山者は22万1322人と、新型コロナ禍前とほぼ同水準に回復しており、円安による訪日客が多くなっている今年も活況が予想される(例年、山梨側は7月1日、静岡側は7月10日に開山し、9月10日に閉山)。
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ただ昨年の富士山では、夜通しで頂上を目指す「弾丸登山」が続出し、トイレで暖を取ったり道中で仮眠したりするマナー違反も相次いだ。御来光の時間帯の山頂付近は大勢の人で混雑し、落石が懸念された。
観光客が集中して環境や現地の生活に悪影響が出る「オーバーツーリズム」を避けるため、山梨県は今夏、新しい登山ルールを導入する。「通行料2千円の義務化」「登山者の上限は1日4千人」―。どんな内容で、登山はどう変わるのか。整理してみたい。(共同通信=味園愛美、河野在基)
▽4つの新ルール
①通行料2千円の義務化
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富士山の主要な登山道は山梨側の「吉田ルート」と、静岡側の「富士宮ルート」「須走ルート」「御殿場ルート」の4つ。今回、規制が導入されるのは、登山者の半数以上が登る山梨側の「吉田ルート」だ。麓からバスなどに乗って県道の「富士スバルライン」を登り、5合目の登山口に到着する。山梨県は今夏、この登山口にゲートを設置し、登山客に通行料として2千円の支払いを求める。支払った人にはリストバンドを配って着用を求める。
これまでも呼びかけていた任意の「保全協力金」千円と合わせて、最大3千円支払うことになる。
②予約システム
多い日には1日に4千人を超える登山者が訪れる吉田ルート。登山口で全員から通行料を徴収すれば、混雑して途方もない時間がかかってしまう。そこで、山梨県が導入したのが「富士山通行予約システム」だ。インターネット上でクレジットカードやQRコードを使って事前決済することで、当日の受付をスムーズにする。
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詳しくは③で説明するが、1日当たりの登山者の上限は4千人で、そのうち予約枠は3千人。予約枠が余れば、当日枠に回る。少なくとも千人は当日受付で2千円を支払えば登ることができる仕組みだ。一度予約すれば、自己都合によるキャンセルや返金には応じない。
予約は山梨県などが運営する「富士登山オフィシャルサイト」から可能で、通行料の免除対象となっている障害者や修学旅行生らは、山梨県に直接電話して予約する。
③1日の上限4千人
例年、御来光の時間帯には山頂に大勢の人が滞留する。前の人がなかなか進まないことで、通常のルートから外れて回り道する人が出てきて、落石の危険性があった。そこで山梨県は、ゲートを通過できる人数を1日当たり4千人までと決め、上限に達した時点でゲートを閉鎖することにした。
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④午後4時から午前3時は原則通行不可
夕方から未明まではゲートが閉鎖される。ただし山小屋に宿泊予約している人は、スマートフォンや印刷した紙で予約していることを証明できれば通行できる。
これは、御来光を見るために宿泊せずに夜通し登る「弾丸登山」を防ぐためだ。暗くて寒い夜道を休まず歩くことで、高山病やけがのリスクが高まるとされる。
「富士登山オフィシャルサイト」では、日帰り登山をする場合は、午前6時に登り始め、正午過ぎに登頂し、夕方下山するコースを紹介している。御来光を見たい場合は、正午頃にゲートを出発する。夕方、山小屋に到着して就寝。午前0時過ぎに山小屋を出て、明け方、御来光を臨む。
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▽静岡の登山道は
3ルートがある静岡県側では、従来の保全協力金千円以外の支払いは求めない。午後4時以降、山小屋の宿泊予約の確認をし、予約していなければ登山の自粛を呼びかける。社会実験として、任意で登山計画などを事前登録するシステムを始める。
山梨県が同県側の登山道を県有施設と位置付け、その使用料として通行料を徴収するのに対し、静岡県側の登山道は県有地ではないため調整が難しいという。
▽各地で導入進む通行料や訪問税
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山梨県は富士山の通行料2千円を、噴火時の避難先となるシェルターの整備や、5合目に設置するゲートの設置費などに充てる予定だ。
オーバーツーリズム対策や、観光インフラの維持管理のために財源を確保する動きは各地で広がっており、観光地訪問や宿泊で「入山税」「訪問税」といった名目の法定外税を条例で設ける自治体は多い。
世界遺産・厳島神社がある宮島を有する広島県廿日市市は昨年10月から、島への訪問者1人当たり100円の「宮島訪問税」を、フェリー運賃に上乗せする形で徴収する。
対象は小学生以上の観光客で、修学旅行生は免除。2024年度は来島者450万人で3億5千万円の収入を想定し、渋滞対策やトイレ整備などに充てる。
年間約150万人が訪れる世界遺産・高野山がある和歌山県高野町も、観光客から徴収する「入山税」などを想定した法定外税を28年度までに導入する方針だ。
年間4千万円を超えるトイレや駐車場の維持管理費は、町と高野山真言宗総本山金剛峯寺が負担しており、人口3千人弱の町に重荷となっていた。
▽麓でも混雑…富士山隠しの黒幕設置
富士登山のルールが打ち出される一方、富士山の麓に目を向けると、こちらでもオーバーツーリズムによる課題が問題になっている。
山梨県富士河口湖町では、「コンビニの屋根に富士山が乗っかったように見える」と人気になった写真映えスポットに、訪日客らが殺到。道路の横断やゴミのポイ捨てが相次いだ。
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多言語で注意を促したり警備員を配置したりしても改善されず、富士河口湖町は5月、歩道から富士山を見えなくする巨大な黒幕を設置した。観光のシンボルを隠すという異例の対応が話題となり、海外メディアも次々と報道した。
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ただ、さっそく黒幕に穴が空けられる被害が発生。設置した歩道そばのコンビニからほど近い、別のコンビニで写真撮影する観光客が増えてきているといい、イタチごっこになる可能性もありそうだ。
▽「地元や利用者に丁寧に説明を」
山梨県が打ち出した登山ルールについては、県が地元に具体的な内容を説明する時期が遅れ、山小屋関係者からは「現場は大混乱だ」といらだつ声が上がった。
上智大大学院の柘植隆宏教授(環境経済学)は、「通行料2千円は、来訪者の抑制に一定の効果が見込まれるが、円滑な導入のため、金額の根拠を丁寧に説明する必要がある。地元や利用者の理解や納得がないままでは、今後の県の登山対策にも影響しかねない」と指摘する。
「山梨県は(通行料や通行規制といった)対策を打ち出すスピード感と、合意形成とのバランスに苦慮したと思う。まず始めてみて、進めながら内容を見直すという手法も考えられる」と理解を示しつつ、「(通行料の導入予定がない)静岡県側に人が流れることも予想される。山梨、静岡両県がそれぞれの対策の成果や影響をよく分析し、協力して課題に向き合うことが重要だ」と話している。
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